彼女のドM性癖のせいで、学校中で俺がトンデモドS野郎だと思われてるんだが。
オーミヤビ
第1話
「お待たせっ、リョーマ!」
快活に名前を呼ぶ声がして、俺は視線をスマホから前方へ移す。
駆け寄ってきたのは、桜庭イオリ――学校中の誰もが知る美少女だ。
「ううん、全然待ってないよ。にしても、遅かったな」
「も~聞いてよ。生徒会の友達に捕まって、ヘルプ頼まれちゃってさぁ。書類が山積みで全っ然終わんなくて」
少し口を尖らせて、イオリはいかにも困った様子でそうボヤく。
しかしそれは皆から信頼されている証左であるのだろうと密かに思った。
「そりゃ大変だったな……結局片付いたの?」
「いや。だから途中で抜けてきちゃった。『予定あるんでごめんなさ~い』って」
「それ大丈夫なのか? 明日その友達に恨み節吐かれるかもよ」
「ま~そん時はそん時? 私がニコって謝ったら許してくれるよ」
キャピキャピと作った笑顔でウインクを飛ばすイオリ。
……なんていうか、その自信満々な態度には呆れてしまうが、妙に説得力がある。
この愛嬌を前にすれば、大半のことは怒るどころか許してしまうだろう。
彼女の容姿と笑顔には、そう思わせるほどの威力があった。
「それに、予定があるのはホントだしねっ」
そう言って、イオリはふわりと俺の腕に自分の腕を絡ませる。
ギュっと身を寄せて、こちらを覗き込むように上目遣い。
……可愛い。
思わずそう思ってしまうのは、決して俺だけではないはずだろう。
本当、俺にだけ向けられていることがもったいないくらいだ。
「……そっか。んじゃ、ちゃんと予定通りにしないとな」
恥ずかしがってることがバレないように、俺は先導して歩みを進める。
……が、そこで。
「……違う、でしょ?」
俺の腕を抱く力が少しだけ増す。
その声には妙に含みがあり、俺をじっと見つめるイオリの目には、期待感ともいうべき感情が宿っていた。
頬がわずかに赤いのは、おそらく寒さのせいではない。
(そうだったな……)
心の中でため息を吐く。
そして、改めて彼女に向き直って──
「気安く触んな、雌犬が」
自分でも驚くほどに低く、冷ややかな声。
イオリはビクリと肩を震わせた。
「ひゃ、ひゃいっ。すみませんっ!!」
彼女は腕をすぐに解き、深々と頭を下げる。
傍から見たら、完全に俺が異常な支配者で、イオリがその犠牲者に映るだろう。
……だが、実際のところはそうではない。
そうではないのだ。
桜庭イオリ。
学校中の生徒から尊敬され、憧れられる彼女。
しかしその本性は、俺にドSを演じさせるほどに酔狂で、生粋の──
「ほら、さっさと歩けよ。ご主人様に恥かかす気か?」
「も、申し訳ない、でしゅ……!」
イオリは恐縮したふりをしながら、ぴったり俺の後ろにつく。
しかし、彼女の顔には恍惚とした満足感が浮かんでいるのを、俺は見逃さなかった。
……どうしてこうなったんだっけな。
内心でそうぼやきながら、今日も俺は彼女の「秘密」に付き合う羽目になっていた。
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