ある日、森の中で狼になった私は赤ずきんと出会った。

海月

夜の森の狼と赤い頭巾の王子様

はじまりはじまり



 食べたい。


 その欲求が、私のすべてで、最大の感情で、存在そのものだった。

 お腹がすいたとか、空腹で死にそうとか、そういう生易しい言葉では言い表せないほどの、暴力的で切実な欲求に突き動かされ、私は私の中にある大きな大きな虚空を埋めることができるなにかを求め続けていた。


 食べたい食べたい。


 ずっとずっと飢えている。どうにかなりそうだった。

 手あたり次第に貪っていたのだろう。あたりには何もない。無だ。違う。私が喰らってしまったのだとなんとなくわかった。


 食べたい、食べたい。食べたい。もはやそれは祈りだった。

 そして祈りは聞き届けられたらしい。気が付くと目の前に光が広がっていた。


 私はその光を食べた。


 食べたあとどうなったのかは覚えていない。


 これが私の知っている、この世界で一番最初の記憶。

 それが生きたいという欲求であったと気づいたのは、ずっとあとからだった。

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