くだらないジョークで壊れた関係を修復していたら、いつの間にか恋が芽生えていた件

皐月闇

第1章: 笑顔の裏側

 キャンパスのカフェテリアは、昼休みのピーク時間を迎えていた。リクはいつも通り、友達と一緒に座り、冗談を言いながら食事を楽しんでいた。笑い声が絶え間なく響き渡り、リクはその中心で自分の存在を感じていた。


「ねえ、リク、君って本当にジョークが上手いよな!」友人のタクヤが笑いながら言った。


「ありがとう、ありがとう!でもさ、俺のジョークがなかったら、君たちはどうするんだろうね?」リクは余裕を持って答え、テーブルにいる全員が一斉に笑った。


 リクは自分の冗談で皆が笑っているのを見るのが大好きだった。彼はいつも場の雰囲気を明るくするためにジョークを言っては周囲を笑わせていた。しかし、その笑顔の裏で、リクの心はどこか空っぽだった。彼は確かにみんなに笑顔を与えていたが、誰も自分の本当の気持ちを理解してくれることはなかった。


「あー、もう、リクのおかげで笑いすぎてお腹痛いよ!」と、友人のアヤが肩を叩きながら言った。


 リクは笑って返したが、その笑顔が次第に疲れを隠しきれなくなっていた。彼は心の中で、こんなにも多くの人々に囲まれているのに、なぜこんなに孤独を感じるんだろうと思っていた。


 昼食を終えた後、リクはキャンパス内を歩きながら、少しだけ気分転換をしようとした。その時、目に入ったのは、アート専攻の学生たちが展示会の準備をしている建物だった。今年もアート展示会が近づいており、学生たちは自分の作品を展示するために忙しく動き回っていた。


「展示会か…どうせ行くわけないけど。」リクは自分に言い聞かせるように呟いた。彼はアートには特別な興味がないと思っていたし、展示会の華やかな雰囲気には少し抵抗感があった。しかし、何となく足がその建物に向かっていた。


 建物の中に入ると、色とりどりの絵画や彫刻が展示されており、学生たちがその準備に追われていた。リクは、ふと目を引く人物に出会った。静かな雰囲気を持った女性、ハナだった。


 彼女は、作品を並べるために真剣な表情で作業をしていた。リクはしばらく彼女を遠くから見つめていた。ハナは、他の学生たちとは異なり、どこか神秘的で落ち着いた雰囲気を持っていた。彼女の姿に、リクは不思議と引き寄せられた。


「へえ、こんな感じで準備してるんだ。」リクはつい声をかけた。


 ハナは顔を上げ、少し驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静に微笑んだ。「あ、リクくんね。展示会の準備、少し手伝ってくれる?」


 リクは少し驚いたものの、すぐににこやかに答えた。「もちろん!手伝うよ。俺の得意分野だし、何かを壊すことなら任せてよ。」


 ハナは少し苦笑いをしながら、「そんな冗談、今はやめて。私は真面目にやってるんだから。」と答えた。


 リクは少し肩をすくめながら、「あー、すまん、つい冗談が過ぎた。」と謝った。


 その時、リクはふと自分の足元に気づかなかった。展示台の端に足をぶつけ、台座が揺れた。リクがそれを支えようとしたが、あまりにも遅かった。台座が倒れ、その上に置かれていた彫刻が崩れ落ちた。


「うわっ!」リクは慌てて駆け寄り、壊れた作品を拾おうとしたが、すでに一部が欠けてしまっていた。ハナの顔色が変わり、驚きと怒りが入り混じった表情を浮かべた。


「どうしてこんなことを…」ハナは言葉を震わせながら、彫刻を見つめていた。


「ご、ごめん!」リクはすぐに頭を下げて謝った。「本当にすまない、そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、足をぶつけただけで…」


 ハナは一瞬、無言でリクを見つめていたが、やがて深呼吸をしてから言った。「リクくん、壊れたものは戻らないけど…あなたが本当に反省しているのなら、許してあげる。ただ、次からはもっと気をつけて。」


 リクは顔を真っ赤にし、深く謝った。「本当に申し訳ない、何か手伝わせてくれ。今度こそ、絶対に壊さないようにするから。」


 ハナはしばらく黙ってリクを見つめていたが、やがて軽くため息をついて、「わかったわ。じゃあ、もう少し手伝ってくれる?」と言った。


 リクは感謝の気持ちを込めて頷いた。「もちろん、任せて!」


 その後、リクはハナと一緒に展示会の準備を手伝いながら、少しずつ彼女と打ち解けていった。ハナは最初こそ厳しく接していたが、次第にリクのユニークな一面を理解し、少しずつ心を開いていった。


「ねえ、リクくん。もしかして、君って本当はすごく優しいんじゃない?」ハナはふと話しかけた。


 リクは驚いた顔をして、「え、俺が?そんなことないよ、ただの冗談好きな男さ。」と答えた。


「でも、さっきの謝り方を見て、少しは見直したわ。」ハナはにっこりと微笑んだ。


 リクはその笑顔を見て、なんだか不思議な気持ちになった。普段の彼なら、こんな風に素直に褒められることは少なかった。しかし、ハナの言葉には何か心に響くものがあった。


「ありがとう…でも、君の作品を壊したことを許してくれて、ありがとう。」リクは照れながら言った。


「それも、君が素直に謝ったからだよ。」ハナは穏やかな笑顔で答えた。

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