宝剣エクストラを手に入れた
父さんにねだって、宝剣エクストラをボクのものにしてもらった。
実際のところ、柄と鍔と刃の境のところに大きな水晶が嵌っている以外は鉄サビのカタマリで昔は立派な宝剣だったのだろうけど、父さんも詳しい来歴は知らなかった。
ダンジョンの中で拾った魔法の武器っぽいなにかを鑑定したら『勇者の持ち物』と示されたらしい。名前までは明かされなかったそうだ。
エクストラの宝剣とボクが知っているのも、精霊がそういう風に自己紹介したからだった。それだけ聞けば父さんはボクが勇者であると確信するだけの根拠としたし、大ぶりの水晶が嵌っていたとして今のままでは錆びた骨董品という以上の価値はない。
錆びた宝剣がボクの持ち物となった次の日から、ボクの剣の稽古は子供の手には大きく重たいエクストラの宝剣を使った両手剣の戦い方の修行になった。
エクストラの宝剣はオトナには柄が少し長めの大ぶりの片手剣で、手首から肘までを一体として片手剣として振るうか、とっさに握り位置を柄頭まで突き抜くか、両手剣として体重を乗せて振り切るか。
そういう作りの剣の仲間らしい。
剣技が複雑で修行が一筋縄ではないのであまり流行らないのだけれど、どういう敵と相対してもロクヨンとかナナサンで勝ち目のある勝ち筋をつけることが出来る武器なので冒険者には人気だし、自分の戦い方の好みがはっきりするまで入門用の武器として使う冒険者も多い。
短め幅細の両手剣と見るか、長く重い片手剣と見るか。
そういう武器だったから、ボクの腰にはまだ全然収まらない。
肩に背負えるように革の鞘を作ってもらって、乗馬の練習をすると重みで少し腰が落ち着く。
「精霊ではないんだ。ボクはね。天使や悪魔でもない」
「やっぱり神さまなの?」
「それも少し違う。君たちの世界の外にいるという意味で神と同じ地平にいることになるのかも知れないけれど、権限がない。それに君たちの世界には神が別に存在することになっている」
「だけどアリシアを救うことを手伝ってくれるんでしょ」
「まぁそれは、そうしよう。あんまりないチャートらしいから難しいけど」
「チャートってなに?」
「運命の組み合わせ程度に考えておけばいいさ」
「運命は変えられるんだね」
「ある程度は、ね。あまり運命を蔑ろに無視しすぎると、世界が破滅するからそこは避けたい」
「魔王が世界を滅ぼすの?」
「そういうのもあるし、他のもある。地上をスライムが覆い尽くしてしまう、なんてのもあるし、大地である星が砕け散るなんてのもある。世界に女しか生まれなくなったり、男しかいなくなったりもする」
「なにそれ怖い」
「そういう事が起こりうるんだ」
「そういうのを起こらないようにするのが、勇者としてのボクの使命なの?」
「いくらかはどうしても起きる。むしろ世界が破滅するとして見届けるのもお前の使命運命だ」
「え」
「そういうものだ。お前の使命はどうしても避けたい運命を選び、望む運命を選ぶことにある。全ては選べない」
「すべてを選ぶとどうなるの」
「この星は砕け、この星の生き物はスライムに飲み込まれ、男だけの世界と、女だけの世界ができたりする。ボクは一応それらもみてきた。そこに至るのはそれほど難しくない。お前がなにもせず、あるいは本当に気ままに振る舞えばいい」
あっさりという天上の言葉にボクは驚く。
「そんな簡単に世界が滅んじゃダメじゃないか」
「もともと世界が滅ぶようなバランスの上でなんとか成り立っているんだよ。この世界はだから、農民たちが暇さえあれば動物のように交尾しているのも間違いじゃない。そうしないと戦争や襲撃で絶滅しかねない。伯爵様のお城に行ったらお前は閉口するかも知れないが、あんなもんじゃ済まないぞ。なにせお前が神童であることは既に知られている。ボクがなにも言わなければ、王都に向かったお前はそこで捕まって王都に向かうのを諦めることになるかも知れないくらいだ」
「ボクはなにも悪いことはしてないのに!」
「そうじゃない。お前を種馬として扱いたいのだよ。お前のお祖父様である伯爵様は」
ボクは首をひねる。
「ボクはまだ子供だよ」
「そんなのはどうとでもなる。魔法もあるし薬もあるしなんならそういう魔物もいる」
「え。なんか、それ、おじいさまはボクにヒドイことをしようとしているってこと?」
「ヒドイこと、をしようとしているというよりは、伯爵家の血縁の男児としては幾度か通る風習みたいなものだ。お前の場合、田舎育ちで父親があまり権力とか家系家格に興味がなかったから説明がないだけでな。お前たち家族が無事過ごせてお前が最初の戦争から帰ってくると、お前の父親は戦場で死んだ男たちの女を全員押し付けられる。その中にはお前と同い年の娘もいる」
「それはなんか嫌だな」
「だが、それが戦争というものの影響だ。そしてそういうものを適切に処理しないと、さっきも言ったように極端な事態が起きて世界が破滅する。戦争とお前の父親に起こる事件はこの世界を説明するために起こる事件のようなものだ」
「なんか手立てはないの」
「戦争を回避する手立てはない。お前が性的に拘束を受けないで済む方法ならないわけではない」
「どうするの」
「ステータスを確認しよう。ステータス/a/hでヘルスとマナとを確認しよう」
幻影のようなステータスの文字列が出ない。
「ステータスah。出ないよ」
「ステータスを出してからF12。それぞれバラバラにやるんだ」
「そっか。アレは必要なことなんだ。なんかバカみたいだと思ってたけど」
ポケットに手を突っ込んでもそもそしながら二回出し入れしながら、F12。
「出た。なんかいっぱい書いてある」
「下の方に精神力っていう項目があるだろう」
「耐久力の隣に精神力9ってあるよ」
「それじゃない。ずっと下の方にグループになってあるはずだ」
「なんか、魔法力とか書いてある。0/18とか書いてあるけど、ボク気絶してないよ」
「それはマナとはまた別。体得できる魔法回路の大きさだ。お前は回路を使わないで魔法を使っているからな。マナを使っているうちに増えてゆくのはマナに似ているが別物だ」
「大きいの?」
「お前の母親はふたりとも50くらいだ。大魔道士ってわけじゃないけど、冒険者としてはかなり強い。剣も長竿や弓も使えるしな。死んでなければ、大抵の怪我人や病人の病を払って助けることが出来る」
「父さんは」
「あまり使ってないが40くらいだ。あいつはお前に似て魔法回路をあまり使わない魔法の使い方をする。魔法としては弱いが早いし応用が効く。回路のほうは一点豪華主義に使っているからな。それより、もうちょっと下の方だ」
「あ、また耐久力って出てきた。なんか色々増えてる。あ、精神力あった。9.332?なんか細かい数字だ」
「非公開の情報が見えているんだ。そのあたりに性的精神抵抗ってあるだろ」
「耐久力の方にもあったよ」
「たぶん性的肉体抵抗だろ」
「あ。本当だ。似てるけど違うのか」
「両方とも1以下だろう。精神抵抗はいくつだ」
「性的精神抵抗は0.022とかって書いてある」
「まぁそんなもんだろうな」
少し心配になって尋ねてみる。
「ダメなの?」
「ダメっていうか、しょうがないんだ。予定通りってところかな」
「それで、どうすればいいの?方法があるから確認してるんだよね。で、どうなの?」
「確証がない。このタイミングで試したことがないんだ。まぁ、神童だし二三日やってみるかってところかな」
「どうやればいいの?」
「アリシアを連れて伯爵領にゆき、伯爵にアリシアとの結婚の後見を求めろ。村を出る前に彼女の母親アリスに結婚の話をするんだ。だがその前に今日から暫く、夜の魔法の訓練の代わりによるアリシアの家に土産を持って行け。日持ちのする食べ物がいい」
「え、いきなり。そんな」
「必要なことだ。どのみちアリシアを生き残らせるためにも必要になる」
「アリシアの家による行って、それでどうするの」
「玄関ではなくて、カマドの脇の鎧戸をひっかくんだ。先客が傷をつけているから行けばわかる。あとはお前が黙っていてもすすむ」
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