全力で幼馴染を悪落ちブッ殺しエンドから救ってみた。

小稲荷一照

意味はわからないけど、色々マズそうなことは三歳頃にはわかった。

 ボク、アレフは神童だった。

 もちろん、周りの大人達がそう言っていただけでそれがどういう意味かわかりはしなかった。

 ともかく、三歳の頃、立ち歩くことが出来るようになって家宝のエクストラの宝剣の光を覗いたときに精霊、というか、世界の果てや世界の仕組みに通じた意志に触れた。

 たくさんの力や知恵を導くソレは必ずしもこの世界に根付いたものではなく、少し外側のものであることはいくつかの神や天使の予言とのズレでなんとなく理解していた。


 そして、ボクが数千万という世界を生きる英雄であることを知るに至った。

 つまり、ソレは既に数千万の世界のおおくがある運命に従い、救われたということだ。

「すこし、ちがう」

「どういうこと」

「すくわれた。というよりはソレは正しい歴史に乗ったというだけに過ぎない。なにも救われてはいない」

「意味がわからない」


「この世界はNTRとリョナを基本とした性癖山盛りのサンドボックス系エロゲーだ。特にお前の幼馴染のアリシアは八歳の誕生日に盗賊団に襲われて半魔の本性を表し、そののち魔王の城でお前と再会し悪落ちしラスボスの嫁になったことを告げて魔王とともにお前に襲いかかってくる。二人の愛の力は強力で大抵の場合勝っても負けてもバッドエンドだ」


「アリシアを盗賊団から助ければいいの」

「そうすると僅かな寄り道でベルゲの森が山火事で焼け、村が全滅する。村人は生き残るが飢えて死ぬか離散することになる。お前の家族も伯爵領に向かう途中で冬の流行病で全滅する」

「ボクとアリシアは」

「伯爵領や王都に向かうとして向かわないとしてアリシアは半魔に覚醒することなく流行り病で死ぬ。死んだあとで記憶を失って魔族として復活して魔王の嫁になる。こっちはさらに強いし、エロい」


「アリシアが盗賊に襲われるのは見捨てるということ?」

「そうすると王国が魔王軍に襲われる。辺境にあるこの村の発展次第だが村人が飢えていない程度に順調に人口が増えていると、軍を出すことを求められる。お前が活躍するとそこでお前は騎士として正式に叙され村を領地として支配する領主の権利が与えられるようになる。十歳頃だな。その頃には王国のほとんどの騎士がお前には勝てなくなっている。伯爵領のあちこちに穴が空いていることがわかって父上ヨークはそちらの領地経営に回される」


「支配?よくわからないな。好きにしていいってことかな」

「そうだ。そうすると村の中の裁判をおこなう必要がある。あちこちの家では労働力として奴隷を使っている。他にも子どもたちが成人したりするたびにいざこざが起きる。老人たちがお前を子供だと思って無理難題を押し付けるために色々言ってくる。お前の時間を削るために性奴隷を送り込んでくるようになる」


「どうにか出来ないの」

「出来る。お前は強い。その気になればヨークよりもすぐに強くなる。七歳の頃には父親を剣で倒してしまうだろう。既に魔法の才では村の誰よりも強いことは気がついているはずだ。叛乱の芽を詰めばいい」


「魔法のサイなんて知らないよ。村人を殺すということ?」

「幾人かだけで村は落ち着く」

「そんな」

「全員が面倒を起こしたいわけではない。だが面倒を起こしたいやつを野放しにも出来ないし、手当たり次第に殺してもいけない。それが難しいが時が来ればわかる」


「よくわからないけど、アリシアが襲われるまでにやることってなにがあるの」

「最初はレベル上げとマナ上げだ。日中は野山で野ネズミや角ウサギについたスライムを退治していろ。スライムは微生物とマナの結びついた魔力や生命力の根源を運ぶものでもあり、消費するものでもある。いくらかを浴びることで還元される。夜は残った魔力を徹底的に消費しろ魔法回路を定着させマナのプールを増やす意味合いがある。できるだけ広く属性は学べ」


「属性って言っても水火風土くらいしか知らないけど他にあるの」

「時と光と場と向きと座と存在と認知の精霊の他に文字を伴う魔法が四系統ある。いずれもメンターを探すか魔導書を探すのが早い。あるいは遺跡に行って魔法を得てもいい。魔法階梯とマナの量が充分なら得た魔法までの途中の魔法はすべて覚える。最初は低階梯の魔法をひたすら鍛え上げて系統の階梯を進めるのが魔法習得の基本だ。すべてを学び極める必要は実はないが、お前の旅が順調ならすべてを学ばないと学んでいないと面倒に巻き込まれることになる」


「なんかたいへんそうだ」

「四霊を扱う初級魔法の魔導書ならこの家にもある。だいたい四つの属性で満足できるものだしそこまででも手一杯ということが多い」

「そうなんだ」

「ステータスコマンドという言葉は授かったか」


 言われてステータスを使ってみる。 

「みたけどあんまり大したことは書いてなかった。名前とか職業とか家族とかそんな感じ」

「そのままポケットを探りながら、F12、と呟いて素早く手をポケットから二度出し入れしてみろ」

「あ、なんかでた。ステータスに似た感じの小さいやつ」

「そのままヘルプステータスと言ってみろ」

「なんか書いてある。現在のステータスが表示されます。/a全定義項目 /h隠しステータスの表示 /p公開ステータスの表示 /r履歴 /『パラメータ』パラメータ説明」

「とりあえずもう一度ステータスを使え。今度は後ろに/hとするんだ。/は手を動かしてみろ」


 ステータス/hとすると

「さっきと職業が変わった。勇者(主人公)ってなってる」

「ふむ。使えるな。IDは0010000000010000か」


「そう。そうだね。なんでわかったの?なんかいっぱいゼロが書いてある。えーと、十兆人いるの?」

「すごいな。さすが神童か。そうじゃない。お前が65536人目の人間の住人だということだ。十一精霊に天使と悪魔と龍と巨人を加えて人間が十六番目の自由意志オブジェクトだ。その中でおまえは特殊な位置づけになっている」

「勇者だから?」

「勇者(主人公)だからだ」


「勇者は他にもいるの?」

「そうだ。だから、お前がこの村に引きこもって村の人々を傷つけ周辺の村々を襲っても、いずれ物語はすすむ。どの勇者が進んでも歴史は混沌としていろいろなイベントが起きる。それがこの世界のウリだ」

「彼らと協力して魔王を倒せばいいんだね?」


「そうじゃない。勇者はそれぞれ別の目的があって動いている」

「どういうこと」

「それぞれ色々な都合があって協力しにくくなっているんだ。一族と自身の深い恨みで王国を滅ぼしたいとか、そういう理由でな」


 ボクは少し考え込んだ。

 心配そうに覗き込むような感覚。


「とりあえず言ったとおり、最初は近場でスライムを退治してステータスと経験を稼いでマナとスキルを伸ばせ」

「アリシアを救いたい」

「え?」

「アナタは天使じゃなくて悪魔でもないんでしょ」

「なぜそう思う」

「精霊にかかわらない文字の魔法を教えてくれた。このF12っていう窓は十二番目の名前のない精霊なのかも知れないけど、本当は口にできない精霊なんだ。きっとアナタに近い」


 揺らぐような笑いが伝わる。


「天使でも悪魔でもないのは間違いないが、最後のそれは勘違いだ。ボクはかなりキミに近い存在だ。いくらか誘導するために様々手を打てるが、だが直接触れることは出来ない。アリシアのこともそういうボクが触れられないことの一つだ」

「でも、方法がないわけじゃないんでしょ」

「……別の勇者とアリシアをくっつける。アリシアの誘拐までに別の勇者と恋に落とせば、そのままお前のNTRシーンが延々続いてアリシアの命は救われる。ついでに一人勇者が脱落する」

「……アリシアが死ぬよりいいよ」

「だがそこまでが大変だ。アリシアを連れてノート山の白銀花を採りにゆかないとならない。そのイベントを受けるために色々やるべきことが多い」

「その勇者の名前はなんていうのさ」

「まだわからない。というかボクも完全には知らないんだ。ボクが知っていることは勇者(主人公)の宿命を帯びた君のIDと回避が難しい運命のいくつかくらいだ」

「F12っていう精霊魔法も知っていたね」

「精霊魔法とは少し違うが、キミから見れば魔法には違いない」

「この小さな窓はどうやって消すの」

「ステータスを消せば一緒に消える」


 ステータスオフ


「ほんとうだ」

「とりあえず、明日からは寝る前に魔法を使いまくってマナを使い果たして、おやすみ」

 ボクはそうすることにした。

 家の書庫に初歩の魔導書を発見してからは、自分の部屋に大きな壷を用意してもらってそこに魔法をどんどんと放った。

 というか、全然威力がないから壷が壊れる心配もない。

 そんなこんなで疲れ果てて気絶する。


 両親はボクが夜な夜なツボを抱えたまま寝ていることを不思議に思っていたようだけど、つまり家が火事になったり水浸しになったりしないように壷に魔法を顕現させて気絶するまで続けていた。

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