予兆
高麗楼*鶏林書笈
第1話
夏至も過ぎたというのに、都には雪が降っていた。青々とした木々に白い花が咲いたような光景を描き出した。
人々は怪異を恐れる一方、やはり天罰が下ったのだろうと妙に納得する気持ちもあった。
年明け早々、先王は先々王を殺めて玉座に着いた。だが、先頃、病を得て世を去ってしまった。
この十年間、朝廷内は王の座を巡って王族たちが互いに競い合っていた。亡くなった先王の父親も王位に就くためにあれこれ画策したが、結局、負けてしまい、朝廷を去ったのだった。
国内の勢力を失った先王は、海外に目を向けた。
その頃、唐の沿岸を中心に弓福という海商が活躍していた。彼の勢力は新羅や日本の海域にも及んでいた。
先王は、この男に目を付けた。
先王は彼の下へ行き、自分を支援すれば、汝の娘を王妃に迎え入れると言って誘ったのであった。
弓福はこれを受け入れた。
こうして味方を得た先王は、先々王を討ってかねてからの野望を果たしたのだった。しかし、その喜びも束の間だった。
王宮の庭は白世界になっていた。
時ならぬ光景に、王は驚いたが特に怯えることはなかった。
「これは自分にとって天罰ではない、むしろ瑞祥であろう」
彼は前向きな気持ちになっていた。
先王の死でもって、これまでの王位争いに終止符が打たれたのだ。王の座に就いた自分は、これから王権を強化し政事を安定させていくのである。
それゆえに、この天候異常はこれまでの不義に対するもので自身にはおよばないのだ。
こう結論付けた彼は、その後、日々、政事に専念した。
さて、この頃、鎮海将軍になっていた弓福が反乱を起こすという噂が流れていた。
先王が約束~自分の娘を王妃にするを守らなかったことを恨んでいるというのである。
先王も現王も彼の娘を王妃に迎えるのは問題視しなかったが、朝廷の人々が大反対したのである。娘の身分を理由にしたが、実際は弓福の勢力が朝廷内に入るのを嫌ったためだった。
こうしたなか、閻長将軍が弓福を討伐した。
報せを聞いた王は、残念に思ういつつもほっとした。国内のみならず唐や日本にまで勢力範囲にしている弓福は王にとって関係が良好の時には力強い味方だが、一旦敵になったら自身が破滅してしまうだろう。ここは早めに討っておいて正解だったのだろう。
王の治世時代、何度か反乱が起きかけたが、その都度、早めに手を打っていたため大事には至らなかった。
そのためか、この時期は比較的落ち着いていた。
その後も大規模な騒乱は起こらなかったが、天候不順による不作、疫病の流行等々があり、民の暮らしは良くなかった。
これに対し、朝廷側は十分に対応出来ず、新羅は少しづつ衰退していったのであった。
あの時の雪は新羅の衰退の始まりの予兆だったのかも知れなかった。
予兆 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu
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