【完結】地下牢同棲は、溺愛のはじまりでした〜ざまぁ後は優雅な幽閉スローライフを送るつもりだったのに、裏切り者が押しかけてきた〜
うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
第1話 地下牢でスローライフ……のはずでした
「やっと、終わった……」
幽閉された地下牢で、ものすごい達成感を感じ、ボフンとシングルベッドへと飛び込んだ。
5歳で前世を思い出してから、13年という月日を悪役令嬢のベルリムとして過ごしてきた。
ひたすら幽閉ENDを目標に頑張ってきたのだ。
ざまぁ回避をしようと思ったこともあった。
けれど、前世が大した取り柄のないOLだった私にとって、王妃という役目は荷が重すぎた。……ということもあるけれど、ヒロインちゃんと王子が力を合わせないと、復活した古代ドラゴンに国中が焼き尽くされちゃうんだよね。
だから、私にできることと言ったら、死亡ENDを全力で回避しつつ、ヒロインちゃんと王子の恋のスパイス的な役割を演じることだったのだ。
いやー、魔法ファンタジー系の乙女ゲーム転生をちょっと恨んだからね。
魔法が使えるのはテンション上がったけども。
「悪役令嬢としての役目は、もうおしまい。これからは、ゆっくりのんびりとした幽閉ライフを楽しむんだから。今まで、忙しかったもんなぁ」
悪役令嬢も暇じゃなかったんだよ。
恋のスパイス的役割をこなしつつ、将来の居住地であろう地下牢の生活の質の向上に励んできたのだから。
その結果が、この前世の
8畳くらいの広さの部屋に、ベッドと木製のテーブルと椅子、洋服タンスが置いてあり、その部屋とは別に、お風呂とトイレが付いている。
お風呂とトイレは、牢番からも見えない作りになっているし、衛生面が保たれる魔法もしっかり施されている。
そこに、栄養バランスの取れた食事が3食しっかり出てくるから、お腹を空かせることもない。
希望を伝えれば、本や刺繍道具など、牢の中でできるものなら、高級品を除いて用意をしてくれる。
罪人となったことで、魔法が使えなくなる魔法封じのブレスレットをつけられたから、魔法が使えない不便さはある。
けれど、前世の記憶持ちの私にとっては、魔法なしの生活も問題ない。
はっきり言って、ものすごーく快適で、ものすごーく高待遇。
普通の令嬢なら怒ったり、悲しみにくれたかもしれないけどね。
私にとっては、ざまぁ後のスローライフって感じだけど。
夢の一人暮らしの地下牢生活は、きっと最高のものになるだろう。
そう確信していた。
「うふ、うふふふふふ……」
嬉しすぎて、思わず笑い声が漏れる。
こんな風に昼間からベッドでゴロゴロしていても、周りの目を気にする必要もない。最高だ!!
「明日から、何をしようかなぁ。まずは好きなだけ寝ちゃおっかな!!」
ごろりと壁側へと寝返りを打つ。
すると──。
ボゴッ──。
ガッ、ゴゴゴ──。
目の前の壁が、突如崩壊した。
頑丈なはずの石の壁が、砂のようにサラサラと崩れ落ちていく。
自分の目が信じられず、何度もこする。
けれど、目に映るものに変わりはない。
壊れ、砂と化した壁。
その先に広がる、隣の牢。
崩壊した壁は、私の牢と隣の牢を隔てるものだったのだ。
「久しぶりだな。元気だったか?」
壁があるはずだった場所に立ち、舌なめずりをしながら、男は笑った。
まるで旧友との再会のように、話しかけてきたので、とりあえず体を起こして会釈をする。
なぜ、会釈をしたのか。よく分からないが、たぶん前世の日本人の血がそうさせたのだろう。
「何で……ここに?」
「俺も幽閉されたんだわ」
「捕まってたんですね」
「捕まりにいったからな」
相も変わらず、よく分からない男だ。
というか、何でこんなに気安く話しかけてくるのだろう。かつて悪役令嬢として活躍していた時、私を裏切ったくせに。
「なんか、雰囲気が変わったな。王子様に振られて、魂でも抜けたんか?」
「ちょ……痛いんですけど」
パシパシと肩を叩かれ、痛みに顔をしかめるが、気にした様子はない。
裏切ったことへの罪悪感はないのだろうか。
「んじゃ、一緒に脱獄するか」
「……はい?」
突如投下された爆弾発言は、ランチ行こうぜ!! くらいの軽いノリだった。
「ほら、さっさと行くぞ」
「何で?」
「何でって、俺、ベルのこと気に入ってるんだわ」
「は?」
何だ、こいつ。
何を言っているんだ?
脱獄? 気に入ってる? 裏切り者のくせに?
寝言は寝てから言ってくれ。そして、壁を早急に元に戻してくれ。
「私、脱獄する気はありませんよ」
そう言えば、この男──ナザトは心底不思議なものを見るように私を見た。
「幽閉されて、頭がおかしくなったのか? 以前のおまえなら、喜んで脱獄して、王子に会いに行っただろ? あの女が邪魔なら、殺すか? 毒でも剣でも用意してやんぞ」
「そういう物騒なものは、けっこうです。どうやって壊したか知りませんけど、さっさと壁を戻してください。迷惑です」
きっぱりと拒絶をしておく。
少しでもこの話にのれば、新たな罪が追加されて、頭と胴が永久にお別れになるかもしれない。
やっと手に入れた投獄スローライフを手放すつもりもない。
「……何ですか?」
そんなにじっと見ないで欲しい。
高い背も、焼けた肌も、筋肉質なところも好みだが、何より顔が私の好みど真ん中なのだ。
王子より、顔だけならナザトの方が好きだったりする。
ヤバイ奴だと分かっていても、じわりじわりと頬に熱がこもっていく。
「いや、替え玉かと思っただけ。本人だわ」
それだけ、私の悪役令嬢が堂に入っていたのだろう。
どうやら私には、演技の才能があったようだ。
夜の闇のような真っ黒な瞳がこっちを見ている。
かっこいい。かっこいいのだが……。
目に光がない。
誰か、ハイライトを入れてくれ。闇に覗き込まれているかのようで、さっきとは違う意味でドキドキする。
「ということは、今までのは全部演技だった? それとも、恋に冷めて、正気に戻ったとか?」
演技だと言い当てられて、心臓が跳ねた。
楽しそうに口元に浮かんだ笑み。そこからのぞいた八重歯がとても攻撃的に見えて、唾液をのみ込んだゴクンという音が、いやに大きく響いた気がする。
真っ黒な瞳から目がそらせず、どのくらい見つめ合っていたのだろう。
突如、その闇は弧を描いた。
「仕方がない。同棲にするか」
「…………え?」
「一緒に逃げようかと思ったけど、それが嫌なら同棲だな。壁を壊したところだし、ちょうど良かった」
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