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「うぇっ、何!?
窓の遙か向こう、「う"ぉん! ト勢いよく叫んだ正体不明の雄鶏に、私は布団を蹴り飛ばした。
モヤの掛かったままの視界。あちらこちらト見渡す。うめき声を上げながら、上半身だけで這い回る。ホコリと髪の毛が澱む6畳の中、細めた目で正体を探る。
やがて私は一つの違和感に気付いた。ソレはあまりにも単純で、しかし私からは遠いモノだった。
溜息と共に安物のカーテンを眺めれば、その粗雑な前線は、今にも崩壊寸前だった。
「朝……か、
呟いた。言い聞かせるつもりでもあった。ノドは随分とガラガラだった。
久方の出会いで、確信は持てなかった。しかし布団を介しても目をつねる光と、あまりにも無遠慮な喧噪に、私はいよいよソレが本当であることを呑み込んだ。
「う"おん! トもう一度、今度は逆の方向に向けて。全速力で雄鶏は駆けてゆく。私はようやく合点がいった。
ナルホド鉄製だったのだ。いつもの夜とは違い容赦が無い絶叫だった。労働に勤しむ人間達を収容したソイツは、家々を蹴り飛ばす勢いで街を駆け回っていた。
しかし何故、こんな時間に目が覚めたのか。
強いて言えば自分は昨日、家に帰ってそのまま寝たと言うことだ。寝落ちというヤツだ。体力だけはまだ残ってる二十代前半、ふて寝を決め込めば当然、中途半端な時間に目が覚めたのだろう。
納得もそろそろ。私は少しばかり考え込んだ。布団の上からは未だにヒザを伸ばせず、あぐらを掻いて思案した。
しかしやがて、蹴り飛ばした布団を、もう一度、自分の顔に押しつけた。深く、深呼吸をした。
ソレは決意だった。
この世の大多数からすればたいしたことの無い。されど私という二足歩行すら限界のモドキには偉大な決意だった。
朝を見よう。見てやろう。
どうせこのやかましさだ。二度寝など出来たモノでは無い。
思えば夜にも参ってきていた。
最初こそ暗く静かな町並みに風情や共感こそ感ずれど、いざその静寂に住まえば最後、自分の中のワガママな人間が産声を上げた。
何てことは無い。生きる時間をずらしてまで手に入れた静寂の中、暗闇の中、私は喧噪と電光に向かったのだ。
アホだ。アホだ。よくよく考えてもみれば、なんとゼイタクな生き物であろうか。思わず失笑した。
気付けば速い。せっかく手に入れた束の間の東雲を、拝んでやろうじゃ無いか。決意はますます強火になった。
「ヨシ、
確認するように指を前に出す。視線を舌にやって溜息が出る。痩せこけた手足を包む、服装にこそである。
寝間着代わりのトランクスとシャツ一枚。夜とか関係ない。通報だ。
とは言え解らなかった。昼の、朝の、本来人間というのはどんな服装で外に出ているのか。コレが見当つかなかった。
スウェットで良いのだろうか。上下灰色の……流石に許してはくれんだろうか。
勇者として働いてるときは、鎧が正装だった。脱ぐときと言えば寝間着だった。
……まったくチンプンカンプンだ。なぜ社会は成人に制服をくれないのだろうか。
となると最早選択肢は一つである。随分前、友人と出かけた際に買った緑のパーカーだ。
虫食いを警戒しつつ衣装箱を開く。なにげに初めて袖を通す。少しデカいが丁度良い。胸元に……ト音記号かオトシゴか知らないが赤いワンポイントがある。これなら人間も出来るだろう。下は……もう無い。スウェットしかない。良いだろう。灰色で、もう。
一応帽子を被ろうかと思ったが、やめておいた。フードの付いてるモノを着て被るのが怖かった。
確認したいが出来ない。鏡は随分前に蹴り壊してしまった。
いや、私は悪くない。アイツが悪いんだ。目覚まし時計の野郎もそうさ。皆して現実サマの手先だ。首根っこ掴んで、頼まれてもないのに私をいじめてくるんだ。望二度と会わない。そう決めたんだ。
いよいよ出航の時だ。昼でも朝でも掛かってこい。思う存分シャバの空気を吸ってやるぞ。
朝なのに深夜テンション。日頃がたたり、あべこべに逸りだした気に背中を奮わせる。洗い忘れた靴下を裏返す気には成れなかった。昨日のサンダルに脚を突っ込んだ。
「ヨシ、行くぞ、出るぞ、出るからな――
何度も言い聞かせる。上擦る声を押しつぶすように、ドアノブを強く握る。
「う、うぅ……おりゃ!
最後は一念。思い切り息を吸うと、目を瞑って押し上げた。
飛び込んだのだ。。
「お、おぉ……っ、
息をして良いことを思い出し、口を開く。目をあける。匂いを嗅ぐ。耳を澄ます。
久方の空は白かった。
雲ではなく、まだ神が青いインクを海から搾って空に塗しきっていない。そんな早朝の白んだ世界がソコにあった。
名も知らぬ鳥が鳴いている。車はそこら中にごった返して街を闊歩し、鉄の雄鶏は思い出したかのようにせわしなく走り行き交う。
目映い。
どこまでも目映い世界だった。
ずっと忘れていた。すべてが寝静まった頃、そっと彼らの臥所を差し足で歩んでいた私には、あまりにも鮮烈な生命が、街の呼吸がソコにあった。
扉を出て一秒、私は縋るようにアパートの手すりに腕を置いた。
気付けば腕には雫が垂れた。鼻水か涙か、ヨダレか、ソレすら解らなかった。
敷地の橋、大家の花壇に一つ、異彩を放つタンポポがのぞいた。
黄色に膨らんだソレを、私はしばらくの間、じぃっト見つめていた。
――――――――――――――――――
三日目!
スイマセン、発熱しました。自分でも何を書いているのかあんまり解ってないです。
近江神宮は人混み凄かったですから、マスクすべきでした。反省。
明日は正気に戻って書きたい! 頼むぞ漢方!頑張れ!
PV 増えてます、うれしみおさしみ。ではまた明日。
次の更新予定
毎日 22:00 予定は変更される可能性があります
最強勇者は202号室でグータラ日常を謳歌したい ねんねゆきよ @NENE_tenpura
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