2度目の転生は毛玉だった
霞千人(かすみ せんと)
第1話 2度目の転生
儂の名は梅原繁信と申す。陸奥の小藩である遠山藩のご城主、遠山益和様の国家老を務めていて、自慢ではないが、お殿様の右腕として藩の運営を任されている。遠山様に梅原有りと言われている。
皆には内緒であるが、儂は所謂転生者である。
転生前は総合格闘技の世界チャンピオンのトレーナーをしていた記憶がある。そのころの名は覚えていない。
只々、世界チャンピオンを育て上げるために命をささげる覚悟で望んでいたと思っている。
だったが実際に命をささげる事態になってしまうとは思いもよらなかった。
練習が終わって町を歩いていると。刃物を持った男が何やら大声で叫んで突っ込んできた。連れの
「闘牙逃げろ!」俺は闘牙を庇おうと2人の間に割って入った。
ナイフは俺の腹部に深々と刺さった。
(死ぬ)
だがこのまま死んでは闘牙が危険だ。俺は薄れゆく意識の中で暴漢の首をがっしりと捕まえて離さなかった。
気が付くと神と対面していた。(ああ、俺死んだんだな)
俺は死ぬ直前に暴漢の首をへし折っていたらしい。闘牙は無事だったんだ。
(良かった)
「そこで勇敢なあなたには2度目の人生を差し上げます。」
神は言った。
で俺は異世界の、日本の歴史とは少し違う戦国の世の武士として生まれ変わった。
陸奥の豪族の
領地は戦で勝ち取るものが常識な世の中で、俺は遠山様の右腕として戦った。
中央では豊富家康様が天下を取ったとの知らせが陸奥に入ったときに儂は遠山様に進言した。
「一刻も早く中央に行って豊富様に御目通りを願って現在の領地を遠山家の領地として認めていただくべきです」と。
「なんで俺が中央まで行かねばならんのだ」
「この国は既に豊富家に牛耳られております。今は豊富家に従うか戦いを挑むかの選択の時です。豊富方の兵力は8万。わが軍は1万にもなりません。ここは豊富家に忠誠を誓って生き延びる時です。
ならば近隣の豪族共よりも先んじて領地の安堵状を頂くことで有利に領土を得ることになることでしょう。聞けば北の小浦氏も中央に出立する準備をしているとか。遅れて領地をかすめ取られてはなりません」
遠山様も儂の説得で重い腰をあげられて中央に出立した。
後に聞いたところによると、小浦氏よりも2日早く豊富様に御目通りが叶い。現在の領地を安堵していただけたらしい。
「あの時お前に急かされなければ北の地域を小浦に奪われるところだった。感謝するぞ」
遠山様に感謝された。
ところがまたもや俺は遠山様の身代わりとなって死んでしまうことになった。
毎朝の日課であるイノシシ狩りの際に我らに出し抜かれた小浦の手の者に襲われた。奴らが放った弓矢を身を挺して防いだ際に儂の頭に矢が刺さってしまったのである。それでも意識が失せるまでの間、白兵戦で5人討ち取ったところまでは覚えている。
「またもやあなたでしたか、我ら神々が見守っていた大事な人物を助けてくれたのは」
「遠山様はご無事で?」
「元気ですよ。いつも献身的なあなたには、今度は自分の役目が終わったと感じる時まで死なないようにしてあげます。今度は精霊に生まれ変わりますが、守るべき女性と共にレベルを上げて条件が揃った時に人間の身体を取り戻すことが出来ますよ。無理せずに神々の愛し子を守ってあげて下さいね」
こうして儂は精霊という名の毛玉に生まれ変わったのじゃ。
今は儂が守るべき運命の相手を探すべくふわふわ浮いて漂っている。
獣にも人間にも魔物にも儂の姿は見えないようじゃ。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます