ヒール魔法がポンコツな妹は姉の治療だけ欲しい

@mizu888

第1話

「おねぇ~ちゃ~ん……痛〜い、治して…」

「リアナったらまたなの⁉」

家に帰り着くとお姉ちゃんのティアに泣きつく。

「あっという間に私より魔法の腕前を上げて、国家魔導士になってしまったくせに……なんでヒール魔法だけダメってなのかしらね」

お姉ちゃんはあきれ顔で、いつものように私の傍に来てそっと右手で私に触れる。

光に包まれたかと思うと同時に、痛みはどこかへ行ってしまった。

温かくて心地よくて、終わってほしくない……そう思ってしまう。


実は攻撃魔法の類は大得意とする私だけれど、ただヒール魔法だけは上手く使えなくてこうしてお姉ちゃんに泣きつく。

と言っても、私が怪我をしてお姉ちゃんに治療してもらったわけではない。

今日も人のちょっとした傷を治してあげたらこうだ。

ポンコツな私は、ヒール魔法を使うと傷や病は治せるのに、反動で自分自身が痛みや気持ち悪さに襲われてしまうのだ。


ほっとけなくて、つい他人の治療をして帰ってくる優しい妹。そうお姉ちゃんには思わせている。

実はお姉ちゃんにヒールをかけてもらいたくて、家に帰る前に同僚の大したことない傷にヒールをわざと使った。


「えらいよ、リアナは。それに前線でいつも戦っていて、この国を守ってくれてるんだもんね。でも・・・」

優しく褒めてくれたかと思ったら、私の目を強い眼差しで覗き込んでくる。顔と顔を5cmの距離まだ縮めて・・・

「ヒールは得意な人にまかせたらいいと思うわ」

両頬をつねられて釘を刺された。


ヒールを使わないようにとは、何度も言われている。


「ポンコツだけど私のヒールは暖かくて心地いいって言われるんだよ」

これは本当のこと。だってお姉ちゃんの妹だから、魔法の特性は似ている。


その言葉にお姉ちゃんは、眉根を下げてため息をついた。少しはにかんだのはいつもの仕方ないなのしるしだった。







穏やかな町の日常が、今日も送られていた。もうすぐ正午になろうかという時。

けたたましくなる警報。魔導士として召集の連絡が入る。けれどいつもとは違っていた。陣営に到着すると姉にも今回の作戦に参加させてほしいと告げられる。

「姉も…?」

上官命令で、姉ティアもヒーラーとして連れてくるように伝えられた。

なんで…ヒーラーとしての能力の高い姉だが攻撃魔法と防御魔法の能力があまり高くないので私は頑なにお姉ちゃんに国家魔導士試験を受けることを反対してきた。

「絶対ダメ、試験を受けるなんてそんなことしたら一生口聞かないから」そんな私の言葉は、ほとんど泣き落としだが引き留めに成功はした。


お姉ちゃんには危ないところに行ってほしくない。代わりに攻撃魔法も防御魔法も大得意の私が国家魔導士として役に立つから。

そう思ってやってきた。

なんでお姉ちゃんも召集されるの……

ヒーラーとしては優れた姉は、一般魔法使いとして国の登録名簿に記載されてはいる。

だから、緊急事態で召集されるのは仕方がないけれど・・・

何事だろうか、一般魔法使いが拡大招集されることなんて今までなかったのに…。


「お姉ちゃん、お姉ちゃんも魔導士陣営に召集されてる…」


伝えたくないし、連れてきたくなかった。

テンションが下がりまくっている私の頭をお姉ちゃんは、何も言う事なくただ撫でた。



東側の結果が、大量の魔物の襲来によって崩壊しかけている。一部空いてしまった結界の穴を大量の魔物に集中攻撃されているということだった。

今回は結界補強陣営と魔物討伐陣営とに分かれて同時に作戦を実行する。

今までにないほどの魔物の数と急務の決壊補強とで人手が足りず、一般の魔法を使える者は召集されているということだった。


いつも前線に立つ私は魔物討伐陣営だ。

お姉ちゃんはまだ安全だろう後方の結界補強陣営に行かせるべきだろうが、魔物討伐陣営で後衛に付いて来てもらった方が安心な気がする。近くにいないと心配で気が気ではない。


「お姉ちゃんは私の陣の後衛で治療しててくれればいいから、私が絶対後ろに攻撃がいかないようにするから」

「わかった。でもリアナ、心強いけどちゃんと気を付けて無理はしないでね」

心配する顔のお姉ちゃんは、私の頬に手を添えて言い聞かせるように見つめてくる。

「わかってる、じゃあ私は行くからね……」




東側目的の結界の場所。

前線の魔物は思った以上に多い。

骨の折れる作業なことはわかった。でもこれくらいの魔物ならひたすらに蹴散らしていけばいい。勝機は初めから見えていた。心配はない。



ひたすらに魔物を蹴散らして、時間はかかったが結界の穴はだいぶ塞がっている。もう少し辛抱すればこの作戦は終わるだろうところまで来ている。

リアナは大量のMP消費に疲労していた。おまけに終わりが見えたことで少し気を抜いてしまった。少しのずれ、魔物が放った風弾攻撃を弾き飛ばすのに失敗してしまう。

このままでは後衛の方に飛んで行ってしまう。そう思った瞬間、咄嗟に全身で受け止めていた。風弾は霧散したが咄嗟に張った防御では完璧には防ぎきれなかった。両腕と両足に切り傷ができる。血は滲むが気にしている場合ではない。幸い傷はそんなに深くはない。

次に来る、攻撃に備えながら、こちらも攻撃を放っていく。



ズドンッ!

外れたはずの魔物の攻撃。そちらに目をやる。


「え!なんで!」

空中戦を繰り広げる私の真下、突然砂ぼこりが立っている。外れた魔物の攻撃なら気にしなかった。


砂煙の中に感じたのは、お姉ちゃんの防御魔法の波動だった。なんで…

急いで降りていく。手が震える。

そこに防護壁など形成されていなかった。


「お姉ちゃん!」

横たわった人影、はっきり目に入って来て、心臓が握りつぶされるかと思う。生きた心地がしない。さっきまでの戦闘の比にならないほど恐怖に襲われる。


血だらけの姿が目に入る。右肩口から腕にかけて負傷したお姉ちゃん…

「お姉ちゃん、すぐ治すから…」

防御魔法を完璧に張って、肩に手を当ててヒールを使おうとする。

「リアナやめて…」

弱々しくお姉ちゃんは私のヒールを弾いた。

「リアナはヒール使ってはダメよ…。前線で戦わないといけないんだから…今は私も魔法使ってあげられそうにないから」

「……お姉ちゃん。後衛まですぐ連れて行く」


「リアナが怪我したのが見えたから治してあげようと思ったんだけど、邪魔しちゃったわね…」

私のために前に出てきてしまったんだ。私が気を抜いたから……そのせいだ。


お姉ちゃんを抱きかかえると、

「うっ…」

とうめき声がして、痛みに歪む顔にまた心臓を握られるような心地がした。

後衛でヒーラーに預けると、後ろ髪をひかれながら前線に戻る。

疲労も忘れて、怒りと自分の不甲斐なさを魔物に、ただただぶつけていたら作戦は終了していた。


無事に終わった結界補強と魔物討伐作戦。陣営は解散して家に戻る。


「リアナ傷口見せて」

私よりひどい傷だったお姉ちゃんは、ヒールを受けていつも通りに見える。

でも、ボロボロになった服を隠すように王都の紋章の入ったローブを着ている。誰かがかけてくれたのだろう。それが気になってしょうがない。

「私のは大したことないから、先にお姉ちゃんの傷口見せて」

「ダメよ。私のはもう治してもらったわ。だからリアナの傷を治さなきゃ…」

こういう時、お姉ちゃんは譲らないから…

「…うん、じゃあ終わったら絶対見せて」

素直にお姉ちゃんの前にある椅子に座る。

今日は純粋に私の傷を癒すヒールの熱をそれぞれの患部に感じて傷は治っていく。


椅子に座る私の前に跪いて、私の傷の場所をお姉ちゃんは確認している。もう全部ちゃんと治っている。そう言っているのに。

だから、お姉ちゃんの右の肩口を捕まえてローブをめくった。

破れてしまった服、ローブの下は肩口から腕へかけて大きく肌が露出している。

やっぱり私が治せばよかったかも。こんな肌の露出しているの誰にも見られたくなかった。


傷は治されていたが、傷跡は残っていて傷がひどかったのが分かる。


「リアナ顔が怖いよ、もう痛くないから……」

やっぱりだいぶ痛かったんだろうな…私が気を抜いたばっかりに…余計に顔は険しくなった。

傷跡に手を当てる。


「ティア」

低く姉を名前で呼ぶ。私が一歩も譲らないという時の意思表示で、真剣な表情で察したようだ。だからお姉ちゃんも静かに「うん、わかった」とうなずいた。

ローブを床に落として、再び傷跡に手を当てると傷跡を消し去るようにヒールを強くかける。

そのヒールに反動で痛みと気持ち悪さが体の中にたまっていく。これは戒めの痛みだと思う。

不意に立ち上がったお姉ちゃんが私に額を合わせた。

座ったままの私に合わせて、中腰の中途半端な体制のまま私にヒールを施そうとしている。

それならと、お姉ちゃんを抱き上げてソファーに移動する。お姉ちゃんに覆いかぶさる形で、肩に手を置き、額を合わせてまたヒールを続ける。

今度はお姉ちゃんのヒールが溶け込んできて痛みと気持ち悪さはどこかにいってしまった。

「リアナのヒールが気持ちいいってこういうことなんだね、ちょっとやめたくないかも」

私のヒールは気持ちいいじゃなくて、心地いいって言われたんだけれど…なんか言い方・・・と思ったけれど、そこには触れないでおいた。


傷跡はもう消えてしまっているけれど、お姉ちゃんがそんなことを言うからそのままヒールを続ける。


なんだか……流れ込んでくるお姉ちゃんのヒールの様相が変わっていく。


気持ちいいって・・・そういうことか……


まずいかも…これは……そう思いながらも2人のヒールのやりとりはしばらく終わらなかった。






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