4.屋上のさらに上から降ってきた黒いもの
別に、僕は松雪さんとお近づきになりたかったわけじゃないぞ、うん。
ただ、美月が彼氏を作ってしまった以上、幼馴染とはいえ僕との接点が少なくなるだろうことは間違いない。
そうなると、確実にぼっちコースまっしぐらである。
「……」
とはいえ、今から友達を作ろうというのもハードルが高い。
そもそもどうやって人に話しかければいいのかわからない。用事もないのに話しかけたりできるものなのか?
ああ、誰か僕に話しかけてくれて、ついでに友達になってくれないかなぁ。
「……」
学年は二年、時期は九月。
今更すぎる願いか。すでにクラスのグループは出来上がっているし、それこそ用事でもなければ僕に話しかけようという人はいないだろう。悲しい。
「……」
そんなこんなで昼休み。みんなはそれぞれのグループで楽しい時間を過ごす。教室で基本無口な僕には関係のないことだけど。
今までの僕だったら美月と一緒に食べるか、一人で学食か購買に行く選択肢があった。
ただでさえ少ない選択肢だったのに、美月と一緒に食べるということができなくなってしまった。彼女からは何も言われてはないけれど、さすがに彼氏持ちの女子と昼を共にするのは、いくら幼馴染といえど許されないだろう。
仕方がない。今日は購買でパンでも買って適当な場所で食べるか。
「……」
なんか僕、ずっとしゃべっていないけど……松雪さんと会話できただけ普段よりはしゃべってはいたのだ。
その松雪さんはと視線を巡らせて探してしまう。
「あれ?」
教室に松雪さんの姿は見当たらなかった。
まあ男子からの人気がすごい彼女のことだ。他のクラスにも友達がいるに違いない。昼を共にする相手なんて腐るほどいるに決まっているか。
僕とは住む世界が違う人のことを気にしたって仕方がない。今朝話しかけられたものだからと、それだけで意識を向けてしまうのは陰キャの悪いところだ。
席を立つ。クラスの誰からも気づかれないまま自然に教室を出た。何も意識していないのに、忍び足しているのはなんでなんだろうね。
◇ ◇ ◇
購買でパンを買って、さてどこで食べようかと考える。
「……」
なんとなく、今日は誰もいない場所に行きたかった。
たぶん誰も僕のことを気にしちゃいないんだろうけど、それでも美月と一緒にいないことを不審に思われたくない、なんて。無駄な心配をしている自分がいた。
それに、もし美月と泉くんが仲睦まじく昼ご飯を食べている現場を目撃してしまったら……。人間的に未熟な僕は何をしでかすかわかったもんじゃない。自分の部屋で暴れた前科もあるし。
「屋上……」
様々な場所でぼっち飯を食べたことのある僕だけど、屋上には行ったことがなかった。
だって、屋上っていかにも陽キャの溜まり場って感じがするじゃないか。
でも、もしかしたらそれはただの偏見で、実は誰も寄りつかない穴場だったりして?
なんて考えから、屋上に足を向けてみた。
「人の声は……しないな」
意外というか、屋上に近づくにつれて人の気配が少なくなっていた。
屋上に通じるドアの前に立てば、バカ騒ぎする陽キャ集団がいるような様子でないのがわかった。
まだ残暑厳しい九月だ。わざわざこんな日当たりの良すぎる場所で昼飯を食べようという人はいないのかもしれない。
「やった。本当に穴場かも」
そこまで思い至って、僕は意気揚々とドアを開けた。
「危ないっ」
「え?」
屋上に出て、強すぎる日差しに目を細めた瞬間だった。
頭上から切羽詰まった声が聞こえたのだ。……屋上なのに頭上から?
一瞬の反応で顔を上げる。すると、視界に飛び込んできたのは刺繍の入った黒色……。
「うぷっ!?」
顔面に柔らかくも、激しい衝撃が伝わる。
その強すぎる衝撃に耐えられるはずもなく、僕は柔らかくも重量のあるものに押し潰された。
地面に倒れたのは理解できたけど、そこで僕の記憶は途絶えてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます