僕が先に好きだったけど、脳破壊されて訳あり美少女たちと仲良くなったので幼馴染のことはもういいです

みずがめ@エロ漫画転生4/1発売!

1.始まりは脳を破壊されながら

 僕、矢沢やざわ比呂ひろには可愛い異性の幼馴染がいる。

 僕が思春期を迎えて女子として意識し始めた頃には、彼女はとてつもなく美人になっていた。幼馴染のはずなのに、声をかけることすら戸惑ってしまうくらいに。

 そんな幼馴染の彼女のことが好きだ。異性として意識する前から、まだ幼かった頃からほのかな恋心を抱いていたのだ。

 僕が一番初めに、好きだったんだ……っ。


「なっ……!?」


 とある日の、夕暮れの教室。

 僕の幼馴染、羽柴はしば美月みつきが所属するクラス。

 そこには、決して見たくなかった光景が広がっていた。


「俺……羽柴さんのことが好きなんだ」

「嬉しい……私もいずみくんのこと、好きだったの……」


 放課後の教室で、見つめ合う二人の男女。夕焼けの中で絶好の告白シチュエーション。

 高校生らしいピンク色の青春を、僕は間の悪いことに目撃してしまったのだ。

 これが知らない人であれば、心の中だけでそっと祝福していただろう。

 だけど、告白されたのは僕の幼馴染であり、想い人だ。

 僕が見ている前で、幼い頃からずっと想い続けていた好きな子を奪われてしまった……っ。


「はっ!?」


 はっと目が覚める。知らないうちに自室のベッドで眠っていたようだ。

 どうやって帰ったかも覚えていない。

 美月が僕以外の男子に告白されていた後の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。


「いや、ははっ……悪い夢でも見ていたかな……」


 そうか。さっきの光景は夢だったのか。

 なんて悪夢を見せてくれるんだ。まったく、勘弁してほしいよ。せっかく夢を見るのなら、僕と美月が付き合っている場面でも見せてくれたらよかったのに。

 乾いた笑いを零す。制服のまま寝ていたらしく、汗でびっしょりだった。


「比呂、美月ちゃんが来たわよ」

「うおっ!?」


 ノックもなしに母さんが顔を覗かせる。男子高校生のプライベート空間に対して気遣いがなさすぎる!


「って、え? 美月が……?」

「お邪魔しまーす」


 声が詰まった。

 母さんと入れ替わるようにして部屋に入ってきたのは、さっき夢に出ていた幼馴染の美月だったからだ。

 栗色のセミロングの髪、可愛らしく整った顔、華奢な体躯。見慣れた幼馴染の姿。

 男子からの人気がそれなりにあり、「可愛い女子」の話題ではその中の一人として名を連ねるほどの美人さんだ。


「もうっ、比呂ったら制服のまま寝てたの? 本当にだらしがないんだから」


 そんな美人さんの彼女が、僕に気安い調子で接してくれる。

 まさに幼馴染の距離感だ。


「ははっ、疲れてたみたいで……」

「あのね、比呂には真っ先に報告しようと思ってきたの」

「え?」


 美月は僕の言葉を最後まで聞く前に切り出した。

 なんの躊躇いもなく、同級生男子のベッドに腰掛ける美月。これが幼馴染の距離感。無条件で信頼してくれているのだと、それだけのことで伝わってくる。

 そんな近い距離から、彼女は笑顔でこう言い放ったのだ。


「あのね……私、彼氏ができたの」


 目の前が真っ暗になった。

 どうやら、悪夢だと思っていた光景は、残念ながら現実だったらしい。


「泉くんって知ってる? G組の男子なんだけどね……。私、彼のことずっといいなって思ってたんだけど、その泉くんから放課後に告白されちゃったの!」


 美月が興奮気味に何か言っている。でも、しゃべっている言葉の意味が理解できなかった。

 わかるのは、美月が嬉しそうに笑っているということくらいなもので……。嫌がっているだとか、嘘だとか夢だとか、僕の勘違いだとか……そんな都合のいい展開ではないということだけは確かだった。


 僕がずっと好きだった幼馴染。

 幼い頃からほのかな恋心を抱いていて、思春期を迎えたことで異性として好きなのだと自覚した。

 きっといつか……いつか、この想いを伝えられたらいいなと……。あまりにも悠長なことを考えていた。

 そのいつかは訪れることなく、大事に育ててきた僕の恋は、あっさりと終わってしまった。


「ふぅ、比呂に報告してスッキリしたよ。聞いてくれてありがとね」

「ははっ……お、幼馴染なんだから当然だよ」


 晴れ晴れとした笑顔を輝かせている美月に、今更「付き合うなんて嘘だよね?」と泣きつくこともできず。生返事を吐き出すだけで精一杯だった。


「だよね! 私たち、今までもこれからもずっと幼馴染だもんね!」


 曇りのない笑顔で放たれた言葉が、僕の心を打ち砕いた。

 そう、僕と美月はただの幼馴染で、それ以上でも以下でもなかった。

 幼馴染は、男女の関係とは別物だったのだ。

 意識していたのは僕ばかりで、美月は異性ではなく、家族みたいな関係として僕を見ていたのだろう。


「これで報告終わりっ。じゃあ私は帰るから。バイバイ比呂」

「ば、バイバイ……」


 いつもの「バイバイ」が、僕の恋心に対して向けられているように思えてしまう。

 振り絞った別れのあいさつが、僕の最後の意地だった。

 バタンとあっさり閉められたドアを、僕はいつまでも見つめていた。

 それから、どれくらい時間が経っただろうか?


「クソがあああああぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁーーっ!!」


 僕は突然絶叫し、暴れ回った。

 現実を受け入れられなくて……。その負荷が、僕の脳を破壊してしまったのかもしれない。


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