2 ―承―
いまもときどき家出をしたくなる。
べつに親やきょうだいにとくべつ不満があるわけじゃないのだけど。むしろ、親きょうだいには恵まれている方なんじゃないかって思う。ほかの家と比較してどうなのかって分からないけど、父も母もふつうの人で、おおむねぼくにも姉にも優しいし、姉とぼくの関係も、たぶんいい方なんじゃないかと思う。
ぼくの姉は多少変わったところがあるけれど、ぼくには小さい頃から一貫して優しかった。ぼくのことを、ちょっと過剰に可愛がっていたふしさえある。その証拠になるかならないかよく分からないけど、こんなエピソードがある。姉は、某アイドル事務所のオーディションに勝手に応募して、ぼくにオーディションを受けさせようとしていた。それも幾度となく。姉いわく、ぼくなら受かるって言うんだけど、そんなわけない。歌えるでも踊れるでもなく、ましてや容姿だってたいしたことないんだから。
姉のこの悪癖がおさまったのは、ぼくの中二の夏以後のことで、ぼくの家出の原因になったのかもと反省したからなのか、ただたんにぼくにアイドルの素質が無いということに気がついたためなのか、そこのところはよく分からない。姉に本当のところを聞いてみようとも思わない。
先の家出のとき、ただ一つ気がかりだったのは、この姉に心配をかけることだった。親に心配をかけるのは、家出の狙いのうちの一つでもあったのでなんとも思っていなかったけれど、姉にはあまり心配をかけたくなかった。それで、家に帰らなかったその日の夕方には、もう姉には連絡を取っていた。
姉のおかげでぼくの家出は、ほとんどただ旅行をしただけ、みたいなことで済んだのだった。
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