弔い

夢崎 醒

第1話

 今日も一人、亡くなった。


 蒸し暑い夜空。星なんて、見られたものではない曇天。僕は、非常階段の下で、煙草を蒸かしていた。


 介護施設では、人の死は、日常的に起こりうる。それに毎回心揺さぶられる僕は、まだまだ介護士として未熟なのだろう、と、思い知らされる。


 僕は、ポケットから、スマートフォンを取り出した。時間は、とっくに定時を回っていた。


 と、同時に、母さんからのメールの通知が、目に入る。隣町に住む母さんは、よく僕にメールをくれる。だから、僕はああ、いつものメールだなと、ほほえましく思い、それを確認する。


 タップして開いたメールに、時が止まる。


「おじいちゃんが、亡くなりました」


 血の気が、音を立てて引いていくのが、わかった。メールは、五時間前に送信されたものだった。


 嘘だろ。


 鼓動が、早くなる。対して、疲弊した脳は、クリアになる。視界が、広がってゆく。


 僕の指は、震える。母さんに、電話をかける。母さんは幸いにも、すぐに電話に出た。


「もしもし、雅良だよ。え、どういうこと」


「ああ、雅。お父さん……、おじいちゃんがね、亡くなったよ。午後三時に、死亡診断が出たよ」


 母さんも、落ち着かない様子だった。


「だってじいちゃん元気そうだったよね。ぴんぴんしてたじゃん。どうしたんだよ」


「お酒の飲みすぎだって。心臓が、少し弱ってたんだってさ。アルコールが原因の、致死性不整脈だって」


 は。


 何をしているんだ、ジジイは。


 僕は言葉を飲み込んだ。


「とりあえず、すぐに行くから。今から、行くから」


 ジジイに直接、文句を言ってやる。


 僕は、電話を切った。煙草は、とうの昔に、燃え尽きていた。

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