第8話 国王との会談

 夜になってもユートピア人たちは騒々しい。

 路上で酒瓶を片手に叫ぶ者。

 町中をバタバタと走り回る者。

 まだ体制が確立されてないのだろう。


「いいのか?こんなに騒いでて。

 山の向こうはVRCの本拠地だろ?」

 酒屋の一階、島は親しくなったユートピア人と話し込んでいた。

「そう簡単には手は出せないさ。

 そのために人質もいるんだ!」

 彼は少々浮かれすぎている。

 彼だけじゃない。皆リアル空間での非日常を体験して気が大きくなってしまっている。

「いいのかね、こんな調子で…」


「何か不満かい?」

 隣のテーブルで一人黙々と飲んでいた男が声をかけてきた。

 聞き覚えのある声だ。

「ああ、あんたは上の船室にいた…」

「あの人質騒動の時から君は、どこか冷めた視点を持っている」

「まあ、性分なんでね」

 鼓動が速くなるのを感じながらも、なるべく平静を装う。

「面白いね。

 村重さんと会ってみないかい?」

「誰だって?」

「知らないか?

 ユートピアの国王だ」 


 海辺の二階建築の階段を上がって奥に、その男はいた。

 体格のいい、中年の男。

 テロリストの親玉というと、もっと人相の悪いものだと思っていたが、案外この男の顔には柔らかさがある。

 島の正面に村重、両脇に船室の男ともう一人が座る。それぞれの前にはビールジョッキ。

「だいぶ場違いに思えるが、何で俺は呼ばれたんだ?」

 

 身元がバレたか?

 だとしても親分の前には連れてこないだろう。


「いや場違いなんかじゃないさ。

 俺は色んな奴の話が聞きたいだけだ。

 じゃないと国は運営できないよ」

 村重は微笑を携え語りかける。

「君は何を求めてユートピアに入った?」

 島は首を捻り考える。

「期待に沿った答えじゃないだろうが、何も考えちゃいないよ。

 とにかく無我夢中だった。

 とにかく、今の世界が嫌だった」

「まあ、みんなそんなもんだろう」

 村重は微笑を崩さない。

 今度は島が身を乗り出した。

「じゃあ聞くが村重さん、あんたはなんでユートピアを作った?」


「俺は国を無くしたかった」

 村重の顔から微笑が消え、淡々とした口調で語り出す。

「国が無くなれば、世界は変わる。

 つまり、誰かが世界を統一すれば。

 でもそのためには…」

「戦争をしないといけない」

「そう。

 だが国をなくすために人間が滅んじゃ元も子もないだろう?

 そこでだ。

 国同士の争いはなぜ起こる?

 資源?宗教?元をたどれば土地だ。

 だから土地のない国を作った」

「そして世界を統一するのか?」

 村重はまたクスリと笑った。

「そのために動きはするよ。

 だが俺の存在意義は新概念の国を作り、死ぬことだ」

 その表情は穏やかだった。

「俺は新しい概念を遺し、新時代を遺して逝く。VRCの杉原もそうだろう。

 俺たちが始め、死ぬことでその役目は果たされる」

 両脇の二人も頷いた。

「人に死に場を与え、自分の死に場を選ぶ。

 それが人間の営みというものだ」

 島の眉間に皺が寄る。

「じゃあここでは何をしようと?」

「VRCを戦場に引きずり出す。

 奴らが土俵に立ったとき、このイルガ島から世界最終戦争の狼煙が上がる」

「ちょっと待ってくれ」

 二の句を継ぐ前に、一度深呼吸。

「つまりあんたらが死ぬ時、ユートピア国民は道連れか?」

「そういうことになる」

 村重の言葉に躊躇いはなかった。

 島の顔に怒りが表れてきたとき、外から叫び声が飛び込んできた。


「反逆者だ!」

「人質の鍵を盗まれた!」


 三人がそちらの声に気を取られた瞬間、島は窓に向かって駆け出し、道へ飛び下りた。 

 

「そいつも仲間だ!捕まえろ!」

 二階から男が叫んだときには、島は裏の抜け道から山手の方へ。

 追っ手の足音はどんどん増えていく。


 島は小屋の裏のゴミ置場で小さくなって身を潜める。

 足音が徐々に近づいてくる。一人だ。

「野村だ!いるか!?」

 その声に島は顔を出した。

「大丈夫なのか?

 こんな騒ぎにしたら檻の守りが堅くなるぞ?」

「大丈夫だ。助っ人が来る。

 とにかく走るぞ」


 哲平は窓の鉄格子から外を覗く。

「何が起きてるの?」

 明里が心配そうに足元に哲平を見上げる。

「たぶん俺の仲間だ。

 助けに来てくれるんだろうが、どんどん見張りが増えてくぞ…?」

 哲平から見えるだけでも、機関銃を持った男が二、三十人はいる。

「こりゃ望みは薄いかもな…。

 ん?…」

 哲平の顔の前を一筋の白煙が漂っていく。

 瞬く間にその煙は大きな塊となり、視界一面を覆った。


「なんだ!何が起きてる!?」

 パニックになった男の背後に、音も立てず黒い人影が立つ。


 ブシャッ


 男たちは肉が切られる音を聞いた。

「なんの音だ!?みんな無事か?」


 ブシャッ ズサッ グジュッ


 鳴り止まない音に、白煙の中を飛び交う深紅の血しぶき。


「誰か!誰かい…ぐえっ」


 煙を抜け、視界が戻ると、足下に無惨に転がる無数の死体。


「なんだよこれ…。誰がやったんだよ…!」


「おいっ、あそこ!」


 男は道の奥の夜空を指さした。

 一同がその指の先を見上げると、道を挟んで両脇の建物の屋根に、二つの人影があった。

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