VR世界統一~新時代の国盗りゲーム~

みゅう

第1話

 世界の崩壊まであと5年


 海峡を渡る船の中、二人は目を合わせなかった。

「見えてきたよ」

「そうね」

 どことなくぎこちない、それでいて幸せそうな二人は、船の最後の振動と共に立ち上がった。


 晴香の足取りは軽かった。

 哲平はその後ろをゆっくり進んだ。


「こうして見るとやっぱり高いわねぇ」

「ん?あぁそうだね」

 眼前にはこの港の名物タワーがそびえる。


 最上階へ上がると、一面に港が展望できた。

「うわぁ、ほんと綺麗ね」

「うん、普段は高波が激しくて、こんな穏やかな景色は滅多に見られないそうだよ」

「へぇ、そうなんだ…」

 

「景色バックに写真撮ってあげようか?」

「えぇ?いいよぉ」

「そんなこと言わずにほら」

 恥ずかしがる晴香をガラスの前に立たせると、哲平はスマホをかざした。

「写真は苦手なんだ」

 そう言ってはにかんだ晴香の眼は、何か言いたげな、憂いを帯びて哲平の眼を離さなかった。

  

「夕陽まであと5分くらいだ。あそこに座ってようか」

「ううん、ここでいいよ」

「そ、そうか」

 哲平は少し狼狽えた。

 

 海峡は少しずつ陰りを見せ、船は慌ただしく岸へ帰っていく。 


「まつ毛、長いんだね」


「へ?」


 晴香はまじまじと哲平の眼を見つめていた。

 哲平が見つめ返すと、黙って海の方へ向き直った。

  

「ほら、夕陽、出てきたよ」

「あ、うん…」


 夕陽を見ながら、二人は黙ってしまった。

 

「さ、お腹空いてきてない?」

「そうね。そろそろ行きましょうか」


 夕食は海岸の小さな店。

「今日はありがとね」

「いえいえ、私も楽しかったわ」


 少しスマホを確認して、晴香は顔を上げた。

「哲平は卒業したらどうするの?」

「俺か?俺はまだ何にも…。

 とりあえず大学ってとこかな」

「そう…。楽しいといいわね。

 私は哲平のこと応援してるわ」

「俺だって、晴香のこと応援してる。

 きっといい大学生活になるよ」

「私はいいわよ」

 少し嬉しそうにはにかんだ。

  

 帰り道、二人は夜景を眺めながら歩いていた。

「俺…晴香に会えてよかったよ」

「そうね…私も…」


「私、人生に期待してないんだ。他人にも」


 唐突な言葉に、哲平は返す言葉を失った。


 それから取り留めもない話をするうちに、駅前に着いてしまった。

「じゃあ、今日は本当にありがとう。

 またよかったら…」

「うん、そうね。

 じゃあまた…」

 手を振ると晴香は、背中を向けて歩き出した。

 そして一瞬、何かを言いたげに立ち止まった。

 しかし、振り返ることなくまた歩き出す。


 哲平はその後ろ姿が人混みに消えるまで、見届けようとした。

 

 そのとき、人混みの中から年配の男が現れ、晴香は男の元ヘ駆け寄った。

 

 居たたまれなくなった哲平は、急ぎ足でその場を後にした。

 

 その後、彼女が姿を現すことはなかった。

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