第20話 【500pv感謝】今夜の主役
俺は何も言わずに、物品欄からまた一袋の金貨を取り出し、それを無造作にテーブルの上に叩きつけた。
「パァン!」
清脆な音が部屋中に響き渡り、袋の口が震動でわずかに開く。その隙間から数枚の金貨がころりと転がり出て、煌びやかな輝きが室内に反射した。
「じゃあ、とりあえず100時間で頼むよ。」
俺はあくまで平静な口調で言い放った。その声には特別な感情を込めず、まるで日常会話をしているような軽さだった。
「ここに600枚の金貨がある。それで足りるだろう?」
俺はテーブルの上の袋を一瞥したあと、ゆっくりとジェシーとベティスに視線を移した。そして、口元にわずかな笑みを浮かべながら、軽く付け加えた。
「今夜は彼女で決まりだな。」
その一言が部屋に落ちた瞬間、ジェシーとベティスは同時に動きを止めた。二人とも、まるで時間が止まったかのように呆然としている。
ジェシーの目は、テーブルに置かれた金貨の袋に釘付けだった。その瞳は驚愕に見開かれ、信じられないという感情が露わになっている。
彼の喉仏が上下に動き、唾を飲み込む音が聞こえてきそうなくらいだった。
ベティスは、店のトップとして数々の富裕層や名士を相手にしてきたはずだ。しかし、この瞬間、彼女の顔にはその経験を全く感じさせないほどの驚きが浮かんでいた。
彼女の唇はわずかに開き、何かを言おうとしているようだったが、その言葉は喉の奥で詰まり、出てこなかった。いつも余裕たっぷりの彼女が、今や完全に言葉を失っている様子だった。
短い沈黙の後、店主であるジェシーがその場を仕切り直すべく、素早く感情を整えた。彼の表情から驚きの色が消え、代わりに非常に丁寧で媚びへつらうような笑顔が浮かんだ。
先ほどまで財布を心配していた彼が、今やその心配が完全に無用だったことを悟ったのは明らかだった。そしてその変化は、彼の態度にも如実に現れていた。
ジェシーの顔つきからは、彼が俺をどう捉え始めているのかがはっきりと読み取れた。
彼の目には、ただの裕福な客ではなく、もっと「特別な存在」として俺を見ていることが浮かび上がっていた。そしてその視線には、明らかな敬意と慎重さが宿っていた。
「承知しました。」
ジェシーは即座に表情を引き締め、先ほどの複雑な色を払拭し、丁寧に頭を下げながら恭しく答えた。
「これよりベティスに準備をさせます。最上階の最も豪華な部屋をご用意いたします。全ての準備が整い次第、すぐにお知らせいたします。ベティスは必ず、全力を尽くしてあなた様にご奉仕いたします!」
そう言い終えると、ジェシーは鋭い視線をベティスに向け、何かを促すような仕草を見せた。しかし、ベティスはまだ完全に動揺から抜け出せていないようで、その場で固まったままだった。
ジェシーはその様子にわずかに眉を寄せたが、待つ余裕はないと判断したようだった。
彼は一言も発せずにベティスの腕を掴み、そのまま彼女を引っ張るようにして廊下の奥へと消えていった。その背中が見えなくなると、俺は自然と得意げな笑みを浮かべた。
(今夜は、きっと忘れられない夜になるだろう。)
俺の脳裏には、先ほどの冷たく高慢な態度を見せていたベティスの姿が浮かんでいた。
あの鋭い目つきと傲慢な表情――だが、もうすぐ彼女はこれから俺の前で、妖艶で従順な姿を見せることになるだろう。
(あのプライドの高い女が、俺の足元に跪く時が楽しみだ……)
思えば思うほど、胸の奥から興奮が湧き上がってくる。それを隠しきることはできず、口元には自然と笑みが広がった。
今夜の展開を想像するだけで、全身が熱を帯びるような期待感に包まれていった。
周囲の視線が、この瞬間すべて俺に集中しているのを感じた。その中には嫉妬の色を帯びたものもあれば、純粋な敬意や憧れを含んだものもあった。
そして何より、隠しきれない複雑な感情が混じった視線が多かった。
特に目を引いたのは、女性たちの視線だった。先ほどの俺の豪快な振る舞いが、完全に彼女たちを圧倒していたのだろう。
その目つきは明らかに先ほどとは変わり、熱を帯びた羨望と憧れが混じり合っていた。
だが、それだけではなかった。
彼女たちの表情には、明確な矛盾が浮かんでいた――俺に近づきたいという欲望と、俺の放つ威圧的な雰囲気に対する畏怖が同時に存在しているのが見て取れた。
炙熱な眼差しを送りながらも、足を一歩踏み出す勇気がない――そんな様子だった。
俺はその視線を一瞥し、冷笑を漏らした。
(結局、こういう場所じゃ外見なんかどうでもいいってことか。)
自分の容姿には、もともと自信がないわけではない。それにもかかわらず、最初に俺に注目を向ける者はほとんどいなかった。
だが、俺が金と力を示した瞬間、態度はこれほどまでに変わった。
(やっぱり、この手の場所じゃ金が全てだな。)
後、準備が整ったとの知らせが届いた。
案内されながら最上階へと向かい、豪華で壮麗な装飾が施された部屋の前にたどり着いた。
そこにはジェシーが待ち構えており、その顔には以前にも増して恭敬の色が浮かんでいた。
彼はまるで俺を少しでも怒らせないようにと気を遣うかのように、慎重な態度を崩さない。
彼は軽く腰を折りながら、両手で一枚の精巧な名刺を差し出してきた。
「ニゲン様、この名刺をどうぞお受け取りください。ノートで何かお困りのことがございましたら、どんな些細なことでも構いませんので、ぜひ私をお呼びください。どんな問題であろうと、全力で解決させていただきます。」
その声には、以前の媚びへつらう調子以上に真剣さと誠意が込められていた。そして、その裏には明らかに俺の存在に対する恐れや敬意が混じっているのが感じ取れた。
俺は彼から名刺を受け取り、軽く視線を落とす。そこには彼の名前と連絡先が書かれていた。
名刺そのものも高級な紙質で、ジェシーの気遣いが細部にまで行き届いているのが分かる。
「ありがとう。」
俺は特に感情を込めることなくそう言って、名刺を軽く指先でひらひらさせながらポケットにしまった。
この名刺が持つ意味と、その背後にある価値は十分理解していた。しかし、今の俺の関心事はそんな「人間関係の構築」ではなかった。
今夜の主役は、間違いなく――俺とベティスだ。
これから起こることを思うと、胸の奥から湧き上がる緊張と興奮を抑えきれなかった。これは単なる一度の経験ではない――俺にとって、処男という烙印を捨て去る、人生の重要な儀式のようなものだ。
そして、その相手となるのがベティスだ。
今夜の主役であり、俺が手に入れる存在。彼女の妖艶で冷ややかな美貌が頭の中に浮かぶ。
特に、先ほどまでのあの冷たく傲慢な態度――そんな彼女が、これから俺のものになり、俺の前で跪く。
その瞬間を思い描くと、口元には自然と満足げな笑みが浮かんだ。
俺は手を軽く振り、後ろに控えていたジェシーと他のスタッフに下がるよう合図を送った。
彼らは何も言わず、深々と礼をしてから、足音を忍ばせるように廊下の奥へと退いていった。気配が完全に消えたとき、この豪華で私的な空間は俺だけのものとなった。
俺は深く息を吸い込みながら、目の前の扉に手をかける。豪奢な装飾が施されたドアをゆっくりと押し開けると、その先にはさらに贅沢な空間が広がっていた。
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、豪華さと特別感が全身に染み込んでくるような感覚に包まれた
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