第4話 ポーションを作ってみる

 私の初めての錬金術はポーションに挑戦かな。

 ポーションというのは何種類かあるけれど、基本的にはケガや軽い病気を治したりするもの。

 一般的な作り方は、目的に応じた薬草をすりつぶして水で軽く煮立たせたものをこして作る。こうして作られたポーションは苦くて飲めたものではないけれど、体の状態をよくするためだとみんな我慢して飲んでいた。

 ところが、私が魔導書を見て覚えたポーションの作り方は違っていた。今、それをちょうど実践しているところだわ。


「うーん、薬草をそのまま水に浸してっと……」


 私はとにかく覚えたての手順を試していく。

 水晶の入れ物に、ポーションの素材となる薬草と水を入れる。すりつぶすことも煮立たせることもしない。

 ここに魔力を注入してあげると、薬草と水がポーションに変化するのだという。

 魔導書で読んだばかりのことなので、私は半信半疑だった。

 それでも見開きにした魔導書を確認しながら、私は自分の魔力を薬草たちに注ぎ込んでいく。

 あまり多くなくてもいいと書かれていたのに、加減が分からなくて少し強く注ぎ込んでしまう。

 しばらくすると、水晶の入れ物がカタカタと揺れて、ぼふっという音ともに変化が起きる。


「わぷっ!」


 その際にちょっと煙が発生したものだから、煙たさに変な声を出してしまった。

 発生した煙が収まると、私は水晶の入れ物の中を覗き込む。


「あ、そうだ。さっさと蓋をしなきゃいけないんだっけか」


 ポーションの品質を保つために、すぐに蓋をしなければいけないことを思い出す。私は慌てて近くにあった栓をかぶせた。


「こんな色だっけか、ポーションって……」


 私の目の前にあるポーションを見て、そんな事を呟いてしまう。

 煮立たせてこして作ったポーションは、くすんだ緑色をしている。ところが、目の前のポーションは輝くような淡い緑色をしている。見たことがない色だった。


「えっと、確か覚えた魔法の中に『鑑定』ってあったわね。それを早速このポーションに……」


 どんなものができたのか、これまた覚えたての魔法をできたばかりのポーションに使ってみた。

 鑑定魔法を使うと、対象となる物質の上にその情報が表示される。もちろん、今回も作ったポーションの上にその情報が表示された。

 元々宿屋を手伝っていたこともあって、私は多少なりと文字が読める。だから、表示された内容を読むことができた。


「え……」


 私は絶句した。

 表示されていた内容が、実に目を疑うようなものだったからだ。


「いや、上級ポーションってどういうことなの?!」


 通常出回っているポーションの三段階も上のものができていたのだ。

 下級ポーション、中級ポーション、そしてこの上級ポーションと効果が強くなっていく。

 煮詰めて作られるのは下級ポーションよりも下の基礎ポーション。なので、上級ポーションは上質も上質が過ぎるというわけだった。


「こんなの貴重過ぎて使えないよう……」


 あまりの出来ばえに、私はつい怖くなってしまう。なので、戸棚の引き出しの中にこっそりとしまい込んだ。


「魔力が多すぎたんだわ。ちょっとくらくらするし、魔力を使い過ぎたのね。今ならいい感じの魔力が注げるかも」


 私はちょっと魔力欠乏症のような症状を感じたものの、これなら使い過ぎないと見て、ちょうどいい魔力の量を見極めるために再びポーションを作り始めた。

 結果として、そこから十個ばかりの下級ポーションを作り出すことに成功した。我ながらやったと思う。

 ただ、蓄えてあった薬草はなくなってしまったので、食事を手に入れるついでに摘み取ってこなければいけないようだ。

 しかし、今日は魔力を使い過ぎたので、ひとまず回復させるために休むことにする。

 こんな状態で外に出ていって何かがあっては困るというものだもの。


「ポーションを作ることができただけでもよしとしましょう。それではおやすみなさい」


 私は今日一日付き合ってくれた魔導書たちに、おやすみの挨拶をして寝室へと移動していった。


 翌日、すっきりと目覚めた私は、早速消耗してしまった薬草を探しに家を出ていく。

 ここ数日間ですっかりこの辺りの土地勘はついてしまったので、多少遠出しても大丈夫だと思う。

 なにせ今の家に住み始めてから初めての薬草摘み。薬草の群生地はいつも魔物を倒しているところよりも遠かった。

 そのために、初めて向かう薬草の群生地がどんなところなのか、私は楽しみで仕方がない。つい足取りも軽やかに木漏れ日の差す森の中を歩いていった。

 やって来た薬草の群生地は、近くに小川も流れるとても静かできれいなところだった。


「改めて見てみると、この森の中ってきれいで落ち着くわね。この間までいい思い出なんてなかったから、こうやって塗り替えていけたらいいな」


 薬草をある程度摘んで満足していると、私の鼻がぴくりと何かに反応した。


(何かしら、このにおい。まさか、これって血……?)


 思いもしないできごとに、私は思わず身をすくめてしまう。

 何が起きっているのか分からない。でも、妙な胸騒ぎがする。

 摘んだ薬草を家にあったカバンに放り込むと、私は何かを感じた方向へとゆっくりと進んでいくのだった。

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