追放魔族のまったり生活
未羊
第1話 さまよえる魔族
「お前、クビ」
「はい?」
突如と言い渡された解雇通告。
あまりにも突然すぎて、真顔で変な声が出てしまった。
「お前仕事遅い。役立たずはとっとと出ていけ。殺さないだけマシ」
私は仕事着のまま、荷物を持ち出すこともできずに屋敷の外へと放り出されてしまった。
荷物を取りに戻ろうとするも、門番からは冷たくあしらわれてしまい、戻ることは不可能な様子。
「はあ、出てけばいいんでしょう、出ていけば」
もう諦めて、私は屋敷からとぼとぼと歩いて離れていった。
突然の解雇から何日経過しただろうか。
私は森の中をさまよっていた。
何日もまともな食事なんてしていない。だけど、弱りはしても死ぬようなことはなかった。
さすが
(これが魔族。さすが人間と違って頑丈だわね……)
自分が人間ではないと再認識させられる。
私はこれでも元々人間だった。
ある時、住んでいた町が魔族に襲われた。私はその際に魔族に殺されたのだ。
街は滅ぼされるまでには至らなかったものの、撃退された魔族が失った戦力を補うために、反魂の魔法で殺した人間の一部を自分の手駒として蘇らせた。私はその中の一人だったのよ。
ただ、私は大した戦闘能力がなく、魔族の屋敷の管理をするメイドとして配置された。
ところが、その屋敷を管理する使用人魔族が少ないこと少ないこと。私以外には一人しかいなかった。しかもそのもう一人がさぼり癖がある。
結果として、私が一人で屋敷の世話をする羽目になった。
私一人で広い屋敷の手入れをしてるわけだから、それはもちろん終わるのに時間がかかる。それだというのに、あの魔族ときたら……。
結局真面目に働いていた私が、不当に屋敷を追い出されたというわけだった。
「ふぅ、ちょっと休憩。さすがにお腹空いてきちゃったな。忙しくても食事ができただけマシだったもんな、あそこは」
疲れた私は、たまたまあった切り株に腰を掛ける。
今自分がどこにいるのかまったく分からない。森の中で周りの景色が変わらないのだから。
一応、屋敷の中で聞いた人間たちの町の方角を目指しているはず。
でも、人間たちの町に行って、私が一体何ができるというのだろうか。
今の私は魔族だ。町に行けば間違いなく討伐対象になってしまう。
人間たちの中にも魔族たちの中にも、すでに私の居場所はなくなってしまっていた。それを思うと、思わず涙が出てきてしまう。
(うう、泣くもんか……)
私は涙を拭うと、あてもなく再び森の中を歩き出した。
それからさらに一日。私の視界に思わぬものが飛び込んできた。
(あれは、家?)
景色に紛れて分かりにくいものの、一軒家のようなものが目に飛び込んできたのだ。
一軒家というには少し大きい気もする。それでも、追い出された魔族の屋敷に比べれば小さい。だから一軒家でいいと思う。
思わず私は走り出していた。四日間もろくな食事にありついていないというのに、一体どこにそんな体力があったのだろうか。
建物を目の前にして、私は思わず息を飲んでしまう。
(立派な建物……。人は住んでいるのかしら)
おそるおそる近付いて、そっと扉に手を掛ける。
触れた瞬間、扉が光を放って勝手に開いてしまった。
「えっ、何が起きたの?!」
びっくりしてしまったけれど、扉が開いたからには入ってもいいということなのだろう。ごくりと息を飲んで、建物へと足を踏み入れる。
建物の中は思ったよりもきれいだった。まるで人が住んでいるように見えるのに、気配はまったく感じられない。魔族のメイドとして鍛えられた気配察知がまったく反応していないのだから。
しばらく探索していると、知らない間にとある部屋に足を運んでいた。
(ここは一体?)
見た感じ、書斎のような感じだった。だって、本がたくさんあるんだもの。
私は部屋の中にある机が目に留まった。そこの上には一枚の紙切れが置かれていたからだ。
周りには積み上げられたような本の山があるのに、その机の上だけ不自然に片付けられているから、余計に目立っていた。
気が付くと、私はその紙切れを手に取っていた。
じっと目を凝らしていると、何も書かれていない紙の表面に文字が浮かんできた。
『この手紙を見る頃には、私はこの世にいないだろう。
そこでこの家に入り、この手紙を読めた者にこの家を譲り渡そう。
家の中にあるものは自由に使ってもらって構わない。
きっと正しく屋敷の知識を使ってくれるだろうから』
手紙はそうつづられていた。
名前は書かれていないものの、きっと名の知れた人物だったのだと思われる。
魔族の屋敷を追い出されてからというもの四日間。
森をさまよい続けた私は思わぬ拠点を手に入れてしまった。
ぐうぅぅぅ~……。
安心してしまった私は、つい再びお腹の音を鳴らしてしまう。
そうだった。屋敷を追い出されてからこの方、まったく何も口にしていないのだから。
早く食事をしたいと私が思うと、一冊の本が光って手元に飛んでくる。そして、勝手にパラパラとめくれてとあるページが開いた。
「これは……」
そこに書かれていた内容に、私は目を丸くした。必要な情報がそこには書かれていたのだから。
「どこの誰だか分りませんが、ありがとうございます。お礼に、必ずあなたの残してくれたものを正しく使ってみせます」
本を抱きしめながら、私は涙を流しながら誓ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます