#2 【友達の定義】
ジメジメとした蒸し暑さが続いた梅雨も明け、強い日差しとカラッとした暑さに少しの憂鬱感を覚える夏。葉は青々と生い茂っており、先月までの大雨が嘘だったかのように空は晴天である。夏休みまで後残り僅か一週間を切ることとなった。例年通りならば同じグループの友達と遊びに行ったりもしていたが先月の一件から私はハブられるようになってしまった。しかし、不思議と後悔はない。私がハブられる事でいじめられそうだった子を助けることができた。残念なことに今はその子が彼女らと一緒になって私にちょっかいをかけているのだけれども。昔の私なら不登校になってかもしれないが今は違う。何故ならつい最近本当に「友達」と言える人と出会ったかもしれない。「友達」もしくは「仲間」。そんな陳腐な表現でこの関係性を表していいものかと、少し迷うが残念ながら今現在私の脳内に浮かんでくるのはそのような表現ばかりだった。今日も私はいつもよりは軽い足取りで『お決まりの場所』へ行く。
屋上の扉を開け、そこに居たのは…
「やっほー今日も暑いねー」
私が唯一「友達」と呼べるかもしれない存在
○○君だった。
「ねーねー、明後日終業式じゃん?」
「そうですね」
「終業式の日さ暇だったりする?」
「…バイトとかは入ってませんけど」
「良かった!ならさ、花火大会行かない?」
花火大会。最後に行ったのは何時ぶりだろうか。ああ、そうだ。
小学六年生の仲良しグループで行ったきりだった。
卒業してから全く連絡を取ることが無かった仲良しグループとやらと。
「なんで私なんですか?」
私は彼に問いかける。
「きっと行っても楽しくないですよ」
「んー?そんなの言ってみないと分かんないじゃんさぁ」
「だからそういう悲しいこと言わないで欲しいなー」
この人はいつもそうだ。空気を中和する。
きっといつしか身についてそしてそれが今の彼の空虚さに繋がっているのだろう。それを美点と捉える人もいれば気味が悪いと捉える人もいるだろう。そして私はどちらかと言えば後者だ。ハッキリとしないフワフワとした物言いはハッキリとさせたい私とはどこかズレていて合わない。そして何処か自分の心を見透かしてるんじゃないかと思える何を考えているか分からない目も苦手だ。
「貴方は私と違って友達沢山居るじゃないですか。」
「その人達と行けばいいんじゃないんですか。」
「…何処から友達で何処からが他人なの?」
ヘラヘラとした薄っぺらい笑顔から一転、
初めて出会った日のような顔つきになった。
きっとこれが彼の本来の姿なのだろう。
そしてその問いかけにどう返答しようか頭を悩ませながら困っていると
「まあ、行く気になったら連絡ちょうだいよ。」
せっかくの夏なんだし夏らしいことしよ?」
「後ほら、自分探しにも繋がるかもでしょ?」
自分探しに関係があるのか本当にと思ったが
「…分かりました」とだけ答え教室に戻った。
…なんであんな問いかけをしたのか自分でも分からない。きっと彼女なら答えを知っているのかもしれない。もしくは同じ事を疑問に思ってるかもしれないと、
心のどこかで俺は、思っていたのだろうか。実際は悪戯に彼女を困らせて
しまっただけというのに。
そんな事を考えながら授業を受け、放課後。
少し居残り友達の作業を手伝い終え、帰ろうと玄関を出たその時だった。窓から何かが落ち、目の前で地面と衝突する。それは、教科書だった。さらに上からバケツをひっくり返したような水がものすごい勢いで落ちてくる。上を見上げてみると3階の窓際でほくそ笑む女生徒達。そして慌てて玄関から出てきたのは彼女だった。
「…これ、もしかして××さんの?」
「…はい」
彼女が涙を流していたところを俺はあの出会った日。屋上で身を投げ出そうとしていたあの日しか俺は知らなかった。現に彼女は今も泣いていない。泣いていないがしかし、その顔は今にも泣きそうだった。精一杯悪意に負けじと泣かないように堪えている顔だった。味方のいないこの狭い世界で必死に1人で耐えて生き延びようとしている顔だった。俺はその顔を見ていてもたってもいられなくなった。走って女生徒が居た3階の教室へ向かう。楽しそうに談笑してる女生徒達に俺は水を思いっきりかけた。文字通り、楽しそうな空気に水をさしてみた。楽しそうな顔から一転、彼女達の顔はみるみる怒りを露わにしていく。
「ちょっと!どういうつもりよ!」
「酷いじゃない!何よあんた!」
「…君たちもどういうつもりだったの?」
「君たちがやった事は酷くないの?」
「なんで自分がされて嫌なことを人にするの?」
「なんで彼女は良くて君達はダメなんだい?」
彼女達は尚怒鳴る。
「うるさいわね!あんたには関係ないでしょ!」
「…関係なくないよ」
「はあ?何よあんた。あいつの彼氏とでも言うんじゃないでしょうね?」
「彼氏なんかじゃないよ」
「そういう単純な関係じゃないよ」
もっと複雑でもっと曖昧で…
「じゃあなんだっていうのよ!」
「…泣きそうだったから」
「泣きそうな女の子見てじっとしてられるほど俺はお利口さんじゃない」
「君達だって今泣きそうじゃんか」
「何があったの君たちと彼女の間に」
それからというもの彼女達は話してくれた。
ほんとは同じグループで仲良くしてたこと。
ある1人とトラブルになったこと。
その1人を皆で虐めようとしたこと。
最初は曖昧な返事だったが、後日彼女だけその提案に乗らなかったこと。
「次の日から××まるで汚い物を見るかのような目で私達のことを見てた…」
「本当は怖かったの…」
「幼稚な提案で友達を失ってしまったことが…」
「もしかしたら××は私達よりもずっと大人で合わせてくれてたんじゃないかって」
「今までの事も全部嘘なんじゃないかって」
「私達怖かったの」
だから傷つけ、遠ざけた。そうする事で忘れられた。自分の愚かさや幼稚さ劣等感を。気付かされてしまった。自分たちの視野の狭さを。考えの浅さを。だから上位の存在のように振る舞いたかった。いじめることで。
「私はもう虐められたくなくて…」
「せっかく助けてくれたのに…!」
「…許される事かは分からない」
「けれど、彼女にその事は伝えておくよ」
「謝罪は君達の口ですることを望んでおくよ」
…本当に何処から友達で何処から他人かこれじゃわかったもんじゃないな。そう思いながら帰路についた。
知らなかった。彼女達がそんな考えで私を虐めてたなんて。知らなかった。彼が私のためにわざわざそんなお節介を焼いてくれたなんて。私は泣きながら家に着き、その後彼に感謝のメッセージを送った。1人暗くなった部屋で「…ほんとにありがとう」と呟いた。彼女達のした事は許されざることでしかない。実に身勝手で幼稚でしかない。でも、有耶無耶にせずにハッキリと気持ちを吐き出し謝罪もしてくれた彼女達の事を私はこれ以上憎めなかった。今だけ私はこの白黒ハッキリさせてキッチリしたがるこの性格を少し憎みつつも、少し感謝をした。明後日花火大会に行く旨を彼に返信しながら。
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