たんぽぽ探して三千光年
空宮海苔
蒲公英
人工太陽の光がさんざめく宇宙コロニーの中。ある喫茶店のテラス席のうち一つに、二人の女子高生が座っていた。
「……なるほどね、あんたは
秋宮メルは瞑っていた目を開け、そう訊いた。彼女は茶髪のミディアムボブの高校生だ。
「そうです! あの、かつて人類が繁栄した原初の惑星『地球』に一般的に存在したとされる、あの『たんぽぽ』です!」
西園寺ミナミは手に持っていたフォークでメルを指さした。彼女の大声に、周囲の人間が彼女に視線を向ける。だが、ミナミはそんなこともお構いなしだった。
そんなお調子者の彼女も同じく高校生。肩の下まで伸ばした薄い青色の髪を、ポニーテールでまとめているのが特徴だ。
「危ないからフォークを振り回すな。それで、見た目とか場所のアテとか、何かあるの?」
メルはそんなミナミを面倒そうになだめながら質問した。
メルとミナミは親友であり――そして、大体いつもメルはミナミの暴走を止める役割を担っているのだ。本当にいつも一緒に居るため、学校ではもうセットのようなものとして考えられているとかいないとか。
「アテなら一応。写真とか調べてきたよー」
彼女はそう言って懐から一枚の写真を取り出した。彼女の言う通り、たんぽぽの姿が写されているもののようだ。
「ミナミにしては用意周到だ……」
そう言いながらメルは写真を受け取った。
「私にしては? 聞き捨てならない発言が聞こえたんだけど?」
「いつもはこういうことすらしないで私に話に来るでしょ?」
ニヤリと笑ってしたり顔でメルは言う。
「それはメルのことを信頼してるからだよ〜」
対して、ミナミはへらへらと笑いながら飄々とした態度でそう返す。
「都合のいいことばっか言って……まあ別にいいけどさぁ」
「そんなこと言って〜ほんとは嬉しいんじゃん。耳赤くなってるよ?」
いつも通りの応対をするメルに対し、ミナミが唐突にそんなことを言った。
「は!? そんなわけ――」
「うっそぴょーん。ていうかそんな焦るとか完全に図星じゃーん」
焦って自分の耳を触るメルだが、別に赤くなっているわけではない。その上ミナミがそんなことを言うものだから、メルは怒りに震え拳を握りしめた。どうやらミナミはメルのことを完全に怒らせてしまったようだ。
「……あんまりバカにしてるともう協力してやらないよ」
「ごめんごめん……いやほんとにごめんって」
謝ってなお鋭い眼光を放ち続けるメルに対し、ミナミは真剣な表情でそう言った。
「次はないよ……それで、たんぽぽだっけ? とりあえず今はどこまで考えてるの?」
「あ、それね。一応生えてる場所もある程度は調べてて。霊草コロニーとか重護惑星とか、その辺にありそうって感じだから、そこら辺を探索してみるかなーって感じ」
「ほんとに色々調べてるんだ……」
当然のようにすらすらと答えるミナミに対し、メルは驚きをあらわにしながらそう呟いた。どうやら、普段の彼女は今回よりもずっとずっと適当なようだ。
「うーん、調べてるってよりかは本を知ってるって感じかな」
ミナミはそう言って一冊の本を取り出した。表紙には見慣れないさまざまな植物とともに、明朝体で『地球植物探検録』と書かれていた。
「それじゃあすぐ見つかるんじゃないの? 見た目も分かってるし余裕でしょ」
それに対し、メルが驚いたように声をあげる。
「それがね、他の地球時代の植物のことはたくさん書かれてるんだけど、たんぽぽは抜けてて……」
ところが、メルのそんな言葉に対し、ミナミは残念そうな表情をしながら腕を組んでそう返した。人生そう甘くはいかないらしい。
「あー、運が悪かったのね……」
「写真はネットからもってきたやつでね。この本は地球の植物が今でも生えてる惑星とかが書かれてるから、ちょっと参考になるかもって感じ」
「なるほど。じゃあ意外と調査は難航してるってワケね」
「そういうこと〜。でもこういう情報って案外ネットじゃ集まらないし、この本はありがたいのよ」
「へぇ〜……」
手元にあるカフェオレをひとくち飲んで、メルはどこか興味なさげにそう返事をした。
「ってか、高校生にもなって雑草探しとか、何してんのって感じだけど」
「何を言う、こういうのがいつになっても楽しいんじゃないか」
メルは少し考え込んだ。実際、ミナミがやろうとしていることはある意味バカげたことではあるわけだが……しかしまあ、やることと言えば友人といつもよりちょっと遠い場所に行って、探し物をするだけだ。字面だけを見れば、プチ旅行のようなものじゃないだろうか。
「……それは言えてるのかもね」
そう思って、メルはミナミに対して薄く微笑んだ。
「でしょでしょ? じゃ、計画立案お願いねっ」
「せっかくのいい雰囲気を自分で台無しにするな……全く、そういうのはいっつも私任せなんだから」
「ごめんごめん」
そう言ってミナミはけらけらと笑った。
「うーん、もの探しなら日帰りくらいが限度だろうし、その辺りで色々考えてくことになるのかな?」
「そうだね〜。さいしゅー的には夏休み明けまでに終わればなんでもいいから、それを目安に予定組みつつってところ」
「意外と遅くてもいいんだ」
メルが驚いた様子で聞き返した。
「うん。なんと、今回の雑草探しは単なる遊びじゃなく、夏休みの課題で出された植物研究のレポートというやつに必要なものなのだ」
顎に手をあて、シャキーンという効果音がしそうなキメ顔で彼女は言う。
「そういえば出されてたねそんなのも。確か実物の写真を自分で撮るとかいう条件つきだったよね。まあ私はあっちの公園に生えてる桜撮って終わらしたけど……」
「メルくんはそれでいいと思うよ……しかしだね、私はそんな簡単なタスクじゃあ満足できないんですよ」
顔の前で手を組み、さながらどこかの軍曹といった格好で彼女はそう話す。
「なるほど、そういった自分の都合によって現在私を巻き込んでいる、と」
その言葉に一瞬ミナミの肩が跳ねるが、それを無視してこう続けた。
「と、いうことで、遊び気分は捨て、真面目な心で望んでいかないとね」
彼女は腕を組んでうんうん、と頷いた。
「はいはい、そうかい……とりあえず、いつ頃行くか決めないとだね」
メルは諦めたようにため息を吐くと、計画立案についての話を切り出した。
◇
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