天才幼馴染は密かに俺のことが好きらしい
せにな
第1話 天才美少女の幼馴染は俺が好き
――俺には天才の幼馴染がいる。
『天才』という言葉で片付けて良いものなのかと疑ってしまうほどに、俺の幼馴染は文武両道で、才色兼備。
絵に書いたような美形の持ち主の幼馴染が、勉強もできなければ運動も出来ない俺で良いのか?なんてことを常日頃から考えているんだが……多分、良いのだろう。
「わるい
焦げ茶の髪を背中まで伸ばした少女の机を突く。
さすれば、向けられるのはその小顔を緩ませた笑顔――ではなく、この世の恨みつらみを全て蓄えたような睨み。
「……これで何回目?」
「3回目ぐらい?」
「違う……!47回目……!!」
授業中だからだろう。
潜めた声で叫ぶ亜希だが、その節々からは怒りが垣間見え……正直怖い。
(というか俺、そんな忘れたっけ?)
「もっと少ないと言いたげな顔ね……」
「え?超能力者?」
「……分かりやすいのよ」
極限まで細めた目を俺から外した亜希は、机を両手で握る。
「手伝おうか?」
「
「失敬な!俺はいつだって優しい――」
「おい篠原!教科書忘れたんなら黙って見せてもらえ!」
俺の言葉を遮ってくるのは、教科書を片手に板書していた生物の先生。
亜希に負けを劣らないほど細められた瞳は、俺の顔を射抜く。
「え、俺だけ!?」
「逆に誰がいるっていうんだ!うるさいのはお前だけだ!」
「亜希とか亜希とか亜希とかもうるさいじゃん!」
「
「理不尽だろ……!」
かっぴらいた目で抵抗をしてみたものの、日頃の行いというやつだろう。
俺の言葉になんてひとつも耳を傾けない先生は再度黒板に顔を向けた。
「ざまーみろってやつだね」
釈然としない思案を胸にノートに視線を落とせば、隣から聞こえてくる亜希の声。
「元はと言えば亜希が――」
文句を述べてやろうと勢いよく亜希の顔を見やった。
……けど、言葉を詰まらせた俺はすぐに顔を戻す。
「ん?元はと言えば私が?」
「……なんでもないです」
「え、すっごい気になるんだけど?」
「気にしないでくれ……!」
先ほど視界に映ったのは、女優顔負けの顔を有した
俺だって男だし、女子にそれ相応の感情を抱くこともあれば、誰かを可愛いと思ってしまうことぐらいある。
……だからこうして突然笑顔を向けられてしまえば、いつもとのギャップでどうすることもできないんだよ……!俺は……!
教科書を借りる時の幼馴染の態度で分かったとは思うが、亜希は基本的にツンとしている。
俺が遊びに誘っても素っ気ないし、俺が勉強の教えを乞いても睨みを向けるばかり。
『1人で行ってきなよ』だとか『そんなのもわからないの?』だとか。
一応小さい頃からずっと一緒にいる幼馴染なんだがな?なんて愚痴を吐き出したくなることも多々あるのだが、亜希が言うのはあくまで口だけ。
さっきの教科書みたいに結局は見せてくれるし、嫌々ながらも結局は一緒に遊びに行ってくれる。
『幼馴染に情を与えてるんだろ』と言われたらそれまでなんだが、俺はひとつの噂話を耳にしている。
「ふーん?幼馴染の私に隠し事ね?いい度胸じゃん」
「……なんで怒ってんだよ……」
「別に?結糸には関係ないです」
「……際ですか」
そっぽを向いた亜希はやり返しだと言わんばかりにそう言った。
だけど、見えている。
教科書を広げるのとは逆の手で、これ見よがしにガッツポーズを決めているところを。
果たして何に対してのガッツポーズなのかは些か疑問は残るものの、大体の予想はついている。
「あ、てかごめん亜希。赤のボールペンも買い忘れてるわ」
「……つまりなにが言いたいの?」
「んーっと、亜希様!貸してください!」
「……買う気はあるの?」
「もちろん!今だけは」
「今だけ?」
「いえもちろん放課後も」
不意に向けられる睨みに気圧されてしまった俺は視線を逸らしながらも言葉を返す。
さすれば俺の手の甲に硬いものが当たった。
「……今日の放課後買いに行くよ」
「え?いや全然1人でも――」
「私と買いに行くの。分かった?」
「は、はい……!」
手のひらを天井に向けながらかしこまった言葉を返す。
そうすれば「よろしい」なんてことを紡ぐ亜希は、ボールペンを手に乗せ――まるでたまたま当たってしまったかのように指を触れさせてきた。
――俺は友人からとある噂を聞いた。
それは、俺の
どうして才色兼備で文武両道で品行方正の亜希が、忘れ物もすれば授業もまともに聞かずに寝ている俺のことを好きなのか。
色々考えてみたのだが、やっぱり答えは出ないし、なんなら考える度に自分の愚かさに頭を抱えてしまう……。
「……だから今日は勝手に帰らないでね?」
「もちろんっす!」
「……いつもすぐ帰るから信憑性がない……」
「普段は約束がないからな」
「…………それじゃあずっと私と……」
「え?なんだって?」
「別になんでもないですぅ……」
別に聞こえている。
尖らせた唇をそっぽに向けた美結だが、先ほどよりも拳を握る強さが増したことを見るに、今は嬉しさが勝っているのだろう。
「際ですか」
この状況を見れば自ずと分かるだろう。
友人から聞いた噂話が嘘じゃないということに。
俺の幼馴染はまじで俺のことが好きらしい。
俺だって最初は信じられなかったから、ほんっとうに色々試してみた。
『手が触れる』『遊びの約束をする』『距離を近づける』
色々試した結果、その全てをする度に亜希は嬉しさのあまりに手を握り、目に見えない尻尾を激しく振り回していた。
正直、俺も亜希のことが好きだ。
小さい頃からずっと好きでいるけど、その気持ちが変わらなければ好きになる一方。
だからこうして亜希との両思いが確定した今、すっげー嬉しいし、今すぐにでも告白したい。
けど、こうして亜希との両思いが確定した今だからこそ、俺は思う。
――いつも負かされてるんだから、亜希を見返してやりたい。
――亜希の戸惑う顔が見てみたい。
そんなエゴを持つ俺は『亜希から告白させたい!』なんていう野望を常日頃から抱いている。
……まぁ、亜希のガードが硬すぎてその隙が全くないんだけどさ。
「……なんかとんでもないこと考えてる?」
「え?超能力者?」
「だから分かりやすいんだって……。まぁなに考えてるのかまでは分からないけど」
「まぁまぁ亜希にはそのうち話すよ」
「そのうち、ね……」
どことなく不服気でいる亜希だけれど、深く追求するつもりはないのだろう。
意味もなく椅子を引きずって俺との距離を近づけた亜希は、黒板に目を向けて普段よりも持つ力が強いシャーペンを走らせた。
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