第4話 アタシと契約してマスターになってよ☆


 昨日開始ながら早速のフォローや♡、☆をありがとうございます٩( 'ω' )و

 本日も3話更新したいと思います!



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 巨鎧兵騎リーゼ・ルストンが喋った。

 その事実に私が目を白黒させていると、巨鎧兵騎リーゼ・ルストンはどこか首を傾げるような気配を見せる。


《あ、驚いてる? そりゃそうだよねー☆ ふつう巨鎧兵騎リーゼ・ルストンは喋んないし!》


 ケラケラと笑うような調子で、巨鎧兵騎リーゼ・ルストンは告げた。


《でもまぁ、アタシちゃんは喋れちゃうのでした☆ 諦めて?》


 なにを諦めろというのか――そう思うけれど、想定外の出来事に圧倒されてしまって声が出ない。


《あ! そうだアタシってば、名乗ってないじゃん!

 アタシちゃんの名前はカグヤ! この身体――サイシス・ラインブーセ七号機"グロセベア"の人格搭載型制御機構やってまーっす☆ いわゆる自律型AIってやつ?》


 サイシス・ラインブーセ?

 七号機っていうことは、他にも六機あるのだろうけど、まったく聞いたことのない名前だ。


《お? 聞いたコトないな……って顔してるね? わっかるー!

 そりゃそうだよ。アタシが目覚めたのは最近だけど、アタシがここで子守歌を聞かされたのは三百年くらい前だしー☆》

「……そんな前の? サクラリッジよりも古い機体……?」

《そんなワケでアタシってば骨董品なのでした☆》

「こんな美人で、全然汚れてないのに……三百年も前の機体なの?」

《わーお。ありがとー! 美人に美人って言われると悪い気はしねーぜ☆》

「え? び、美人……? 私が?」

《そだよ。めっちゃ美人じゃん!》

「妹以外から言われたの初めてかも……妹もお世辞で言ってくれてるんだって思ってた……」

《は?》

「……ひッ!?」


 急に低音が返ってきたのにビックリして、私は思わず声を漏らす。

 その姿に、カグヤは慌てた声を上げた。


《いやなんか妹ちゃん以外の見る目の無さに失望してすっごい声でちゃったぜ。脅かしちゃってごめんな?》

「い、いえ……」


 そんな怒ることなのかな?


《ところで話は変わるんだけどさ。美人ちゃんはどってこんなトコに?

 見たところ、この格納庫ってば完全に遺跡化しちゃってるぽいんだけども》

「あー……えーっと……」


 その問いに、私はどこから話そうか悩んで――


 この遺跡が大地の割れ目の中にあること。

 その割れ目に掛かった橋を渡ってる時に、巨魔獣ジガンベに襲われて落ちてしまったこと。

 気がついたら天井の割れ目からこの遺跡に入り込んで気絶していたこと。


 ――この辺りのことを話すことにした。


《なるほどなるほど。それで美人ちゃんボロボロなんだねー!

 こんな谷底っぽいところに落ちてきたのに無事だったのはラッキーじゃん! 生きててよかったー!》

「……生きてて、本当に良かったのかしら?」


 生きていたって、どうせ隣国で奴隷のように働かせられるに決まってる。

 それなら、いっそアラトゥーニの門の先へと行っていた方が、良かったんじゃないか――その考えが、頭から離れない。


 だというのに、カグヤはとても明るい声で告げるのだ。


《良かったよ! 超良かった! だってアタシちゃんが美人ちゃんに会えたもん! アタシは美人ちゃんに会えて、こうやってお話できて、ちょー楽しいし嬉しいもん!》

「そ、そう……」


 初対面の彼女(?)がこんなにも喜んでいる理由がよく分からない。

 だけど、カグヤのこの底抜けに明るい調子で言われると、不思議と悪くないかもと思えてくる。


「でも、そうね。例え相手が巨鎧兵騎リーゼ・ルストンとはいえ、私に会えて良かったなんて言ってくれる人と出会えたのは、悪いコトではないのかもね」


 嬉しさ半分、自嘲半分にそう口にすると、カグヤは鋭く告げてきた。


《生きるのをッ、諦めちゃダメッ!》

「え?」


 突然の言葉に私は動きを止める。

 鋭い声そのものではなく、私の心を見透かしたかのような言葉に、驚いたのだ。


《なんかそんな顔してたからサ! でも、今の美人ちゃんにはピッタリでしょ?》


 きっと、人間であればウィンクしながら舌をペロっと出していたことだろう。

 そんな姿を幻視できるような調子で、カグヤは笑う。


《雰囲気からして美人ちゃんは辛い境遇にいたっぽいし?

 そのせいで、考え方が凝り固まっちゃってるカンジだよねー?》

「……そうね。心を殺して、感情を殺して、完璧で有り続ける為にがんばってがんばって――だけど結局、妹と陛下以外の誰に褒められるワケもなく嫌われて、挙げ句婚約破棄されて隣国へ売りに出されて、これから私を購入した国へ向かう途中を辛い境遇というなら」

《わーお。思ってた以上にヘヴィだったぜ……》


 人の身であれば、後ろ頭をポリポリと掻いてそうな調子でカグヤはうそぶく。


《でもまぁ良かったじゃん》

「なにを……?」

《輸送中の商品が崖下に落ちちゃったんだから事故だよ事故。

 そんで落ちたのが動物や魔獣で、それが生き延びてたなら野生に帰るだけっしょ?

 崖下に落ちた人間が好き勝手やっても別にそれは事故なんだから問題ないじゃんね?》

「あ……」


 言われて、今この瞬間の私は自由なのか――と理解した。


《美人ちゃんもこの遺跡で野生に帰るもよし。祖国の顔を立てて隣国に行くもよし。選ぶのは美人ちゃん次第。

 言うて野生に帰るにしても隣国に行くにしても、美人ちゃんは崖下ここを脱出する必要はあるかもだけど》


 そうだ。カグヤの言うとおりだ。

 ここから動けないと、恐らくは食料などの問題ですぐに力尽きる。


《ああ、もちろん。このままアタシちゃんの話し相手になってココで朽ちるってのも一つの道だけど》


 カグヤが色々と道を示してくれる。

 私は脱出することを考えていたのだけれど、あくまで脱出することしか考えてなかった。


 そのあとにどうするかなんて、考えても見なかったのだ。そのまま何も考えずに隣国へ向かうことだけを考えていた。


《今すぐ道を選べないっていうなら、良い道がありまっせ美人ちゃん?》

「まるで怪しいお店の客引きね。でも聞かせて。その良い道っていうの」

《美人ちゃんがアタシちゃんに乗ってここを脱出し、美人ちゃんをココへたたき落としたトカゲをいてこます!》

「それに何の意味が……」

《ケジメだよケ・ジ・メ☆ 崖に落としたオトシマエってのをまずは付けちまおうって話さ! 意味はなくても気持ちを切り替えるキッカケくらいにはなるかもよ?》

「…………」


 ケジメ……ね。


《まだ上にトカゲがいたならって話だけどさ。

 そんで倒せても倒せなくても、コトが終わったならばその時に考えるでいいじゃん?

 素直に隣国に行くのか、どこか遠くへ行ってみたいのか。それともアタシちゃんを使って祖国を亡ぼしたいのか……どれを選んでもアタシちゃんは付き合ってあげるZE☆》

「え?」


 目をしばたたいて、カグヤの――サイシス・ラインブーセ"グロセベア"の顔を見上げる。


《もちろん美人ちゃんが良いならば――だけどね☆》

「どうして……そこまで……」

《んー……別に美人ちゃんの為ってワケでもないのさ。

 でもねー、アタシちゃんはさ、契約者ってヤツが必要なのよ。

 いい加減、この辛気くさい場所でスヤスヤしてるのにも飽きてたところだしね。

 人の心を持ってて、人のような感情があってもさ、所詮アタシちゃんてば巨鎧兵騎リーゼ・ルストンなのサ。誰かに乗って貰わなきゃ身体を動かす自由もないワケ。

 あ、多少は動かせるよ? 身体をほぐすストレッチ程度には。でもそのくらいだしさ》


 だから――と、カグヤは続ける。

 その僅かにしか動かせないグロセベアを動かして、私に手を差し伸べる。


《だから、専属の乗り手――契約者が必要なの。

 んで、その契約者が悪党とかだとマジ勘弁って感じだけど、真面目で幸薄さちうすそうな美人さんなら大歓迎ってね♪

 そんなワケで――ヘイヘイ! そこゆく美人さん! アタシちゃんと契約して"グロセベア"の操騎手ライダーになってよ☆》


 ふと、とびっきりの笑顔が見えた。

 誰とも知れない……過去に会ったこともない少女の顔が「にひひ」と笑っている姿。


 明るくて、楽しそうで、人なつっこくて、ちょっとシニカルな……だけど人を惹きつけるようなその最高の笑顔の持ち主は――きっと、カグヤが人の肉体を持っていたら……という私のイメージが生み出した幻だろう。


 だけど、その顔にやられてしまった。


 例え私の妄想が生み出した幻だったとしても、そんな笑顔を幻視するほどの好意を向けて貰えたのだという事実にやられてしまったのかもしれない。


 妹以外の誰かから、優しく楽しく笑いかけられたことなんて、ほとんど無かったから。

 何もかもを失った私が、この笑顔の持ち主と一緒にいたいと感じてしまったから。


「わかったわ。契約しましょうカグヤ。貴女の操騎手ライダーになるわ私」

《まじんこでッ!? 後でウッソデースとかない?》

「二言はないわ。私は今、私の道を見失ってしまっているから……貴女のその明るさで、道を照らして欲しいの」

《ん~~~~~~やったー☆》


 本当に嬉しそうにカグヤは叫ぶと、グロセベアが纏っていた高貴な雰囲気の積層装甲の中央にスリットが入り、パカリと開くとパージされた。


 同時に、封印用の黄色と黒のテープも引きちぎられて格納庫の中を舞う。


十二単じゅうにひとえ装甲は置いていく。こいつは旅に持っていくには重すぎるからな》


 カグヤがハードボイルドな演技をしながら言う通り、床に落ちた装甲はズズンという重苦しい音を立てる。


 そして十二単装甲とやらの下から出てきたのは、十二単装甲と同じような色合いながらも、一枚だけの薄いドレスになったような姿。


 重装甲型から一気に高機動型に変わったかのようだ。


 あの豪奢なドレスのような装甲で残っているのは、手首の辺りから垂れている袖を思わせる飾りと、背中の大きな輪っかのようなパーツだけだ。


 カグヤはグロセベアに膝を付かせ、操縦席のハッチを開くと、改めて手を差し出してくる。


《契約を兼ねて改めて名乗りましょう!

 SAIサイシステム搭載型対巨魔獣ジガンベ巨鎧兵騎リーゼ・ルストン。通称サイシス。シリーズ名はラインブーセ。その七号機。独自に与えられた呼称はグロセベア。

 そしてグロセベアの制御の為に組み込まれたSAIシステムこと人格封入型制御機構こそが、このアタシ――カグヤ・タケバヤシ!

 貴女の名前を教えてください、美人ちゃん?》


 差し出された手に乗り、胸元の操縦席へと案内されながら私もカグヤに名乗る。


「イェーナ・キーシップ。祖国に捨てられ、隣国に買われ、それでもなお……祖国を守り続けた一族、誇りあるキーシップの名を捨てられない馬鹿な女よ」

《契約完了! イェーナ様? イーちゃん? マスター? マスターちゃん? ちゃんマス? なんて呼べばいい?》

「好きに呼んでいいわ」

「おっけー! じゃあ色々好きに呼ぶぜ☆」

「ええ、私も好きに呼ばせて貰うわね」


 そう答えながら、私は操縦席に乗り込む。

 私が椅子に腰を下ろすと、ハッチが閉じる。


「あれ? シートベルトのようなモノはないの?」


 巨鎧兵騎が激しい動きをすると、操騎手の身体も激しく振り回される。だから身体を固定するベルトは必須のはずなんだけど……。


SAIサイコントロールケーブルが伸びま~す! 触手プレイ注意!》

「は?」


 そして、突然、意味不明なことをカグヤが言うと、腰と両の手首と両の足首に親指ほどの太さのケーブルが巻き付いた。


「なにこれ?」

《個人的には悪趣味だなぁ……と思うんだけど、グロセベアのコントロールに欠かせない特殊ケーブル。それのおかげで魔力伝導率が他のラインブーセよりも向上するんだよねー☆

 身体を動かすのは阻害しないはずだけど、どっかな?》

「まぁ、確かに問題はないけど」


 操縦桿を握って動かしたり、腕を振り回しても、邪魔はされないようだ。

 動かすのに合わせて伸縮してくれるので、うっとうしさも感じない。


《腰元にも一本巻き付けるぜい。お気づきの通り、グロセベアってば、シートベルトみたいのがついてないないから、乗り手を守るためにも追加で巻き付けるからね~》

「わかったわ」


 乗り手の安全の為と言われればノーとは言えない。


《ケーブルを通して魔力を流せるだけじゃなくてさ、思考の表面を軽く読み取るコトもできるんだよね。

 だから、マスターがアタシに口で命令するよりも先に、アタシがマスターの思考を読み取って勝手に行動するコトもあるのでよろ~》

「なるほど?」


 それが本当なら、かなり便利かもしれない。実戦してみないことには分からないけれど。


《まぁ触手ケーブルちゃんって便利は便利なんだけど、脱出する時に邪魔になりやすいのが欠点……みたいな?》

「……確かに……でも、そのくらいなら大丈夫」


 答えながら、操縦桿やフットペダルの感覚を確かめる。

 操縦の勝手は、愛機だったサクラリッジ・キャリバーンに近そうだ。

 これなら、問題なく動かせるだろう。


 キャリバーンと違う配置のコンソールやらボタンやらは動かしながら覚えていくしかないか。


《それじゃあ、イーちゃん行こうか。貴女の、自由の為の第一歩ッ!》

「ええ、行きましょう。これからよろしく、カグヤ」

《こちらこそー☆》


 そうして私は――私たちは、遺跡から脱出するべく動き出すのだった。



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 準備が出来次第、次話も投稿します٩( 'ω' )و

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