雪うさぎの願い
夢月みつき
本文「雪うさぎの精」
平安の世で生きる彼女の名は、
雪乃(AIイラスト)
https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093091213825093
雪乃の正体は、雪で作られた雪うさぎの精霊だった。
雪乃はこの冬が終わるまでに自身の
しかし、雪乃には既に想い人がいた。それは
いつものように雪乃は、和田に会う為に彼の待つ、町の神社へと出かけて行った。
町の通りを抜けて小さな神社へ向かう。
雪乃が、きょろきょろと辺りを見回しながら参道を歩いていると、ふいに声が掛けられる。
「雪乃、待っていたぞ」細身で長身の男性が近寄って来た。
「和田様! お逢いしたかったです」
雪乃が和田に喜び勇んで近づくと、和田は雪乃を抱きしめて口づけをして来た。
しばらくして、唇が離されると雪乃ははにかんで頬を染めて和田を上目遣いで見る。
「……和田様、恥ずかしいです。
「ふふ、雪乃はうぶだな」
ふふっと笑う和田に雪乃は、もじもじして顔を真っ赤にして頬に両手を当てた。
和田信義(AIイラスト)
https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093091213995700
雪乃はそれだけでもう、充分幸せだった。
でも、この方の妻になれたらどんなに幸せだろう。
雪乃は自然とそう、思い始めていた。
しかし、幸せな時はそう長く続かなかったのだ。
神社に一人の男性が入って来た。その男性は、二人の所まで歩いて来るとこう、言った。
「やっと、見つけましたぞ、
雪乃を睨む男から、彼女を守るように和田は自分の後ろに隠した。
「えっ、小野様? 和田様ではなかったのですか? この方は何を言っているのですか」
驚き戸惑う雪乃に和田は切なげに微笑み掛けた。
「――すまぬ、雪乃。俺はそなたに逢いたいが為に和田と名乗っていた。俺の本当の名は、小野篁だ」
「そんな、私に嘘を?」
「名は偽りでも、そなたへの恋情はまことだ。信じてくれ」
しかし、男は、雪乃に非情な言葉を投げかけて来た。
「このお方は、御朝廷にお勤めされるお方であられる! お前ごときに本気であるはずがなかろう!」
「だまれ! これ以上、彼女を傷つけるな!」
小野は憤怒の表情で、男を退けようとしたが雪乃はふるふると体を小刻みに震わせると、小野に向き直った。
「和田様、いえ、小野篁様。私はあなたのことをお慕いしています。でも、これ以上、あなたに迷惑は掛けたくありません」
「これまでお世話になりました」
「雪乃……」
「雪乃ぉおおおッ!!!」
雪乃は、涙をぽろぽろと溢れさせて、小野を見つめるとその場を走り去ってしまった。
❖
その日から、小野は必死に雪乃を探したが、ついに見つからず
雪乃が姿を消して月日は過ぎ冬が過ぎて、やがて春になった、ある日のこと。
小野が、ある寺の井戸を通りかかると、春であると言うのに雪で作られた崩れた雪うさぎが冥府に通じる井戸の側に置かれていた。小野篁は、地獄の閻魔大王の官吏でもあった。
「雪うさぎ、この春の時期にこれは、面妖な」
小野が雪うさぎを見ていると、ふいに雪乃のことが思い出されて来た。
あの時から、片時も忘れたことがなかった愛しい女人。
自分のせいで酷く傷つけてしまった。小野は後悔をしていた。
その時、小野の耳に雪うさぎから、声が聴こえて来た。
――小野様、小野様……私はとても楽しゅうございました――
「雪乃! そなたなのか!」
小野は、雪乃である雪うさぎを両手で大切に拾うとそっと、口づけた。
「雪乃……そなたは雪の精だったか。しかし、このままではやがて消えゆく
小野篁は、雪うさぎを冥府に繋がる井戸の底に存在する、死せる者を転生させると言う光り輝く“輪廻の輪”に乗せた。
「雪乃、愛している。今度こそ幸せに。俺はそなたを待っている」
彼の瞳から、ふたすじの涙が流れた。
小野篁は、
-完-
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。
雪うさぎの願い 夢月みつき @ca8000k
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