連続怪奇小説
@terukami
Incantation
一昔前のインターネットには、様々な噂話が掲載されていました。
そういった噂話は、現代では「ネットロア」と呼ばれ、ひとくくりにされています。
ですが、その内容は決して一つの単語で纏められるようなものではなく。
都市伝説、まじない、真偽不明の情報など、多岐にわたるものがあったと言います。
かくいう私も、そういったものを追っていたわけで。
僅かではありますが、そういった「ネットロア」には詳しいんです。
さて、話は変わりまして。
私が大学生だった頃に流行った、あるまじないがあります。
そのまじないも発端はインターネットだったので、ある種の「ネットロア」になるわけです。
***
恋人から貰ったマフラーで首を吊って、
助かったらいつまでも結ばれるらしい。
ただ、死んじゃえば縁が切れて、
ずっと会うことができなくなるとか。
──某掲示板サイトより引用
***
そのまじないが書かれた掲示板サイトでは、「恋人いないこと知ってるだろ」や「死ねと申すか」といった、否定的な意見が散見されていました。
ですが、転載先のサイトでは、「ロマンチック」など、肯定的なコメントが添付されることが度々あったようです。
そういったこともあり、当時のインターネットでは「ロマンチックだけど危険なまじない」として、様々な人に知られていたようです。
私の後輩も、その一人でした。
後輩──仮にAさんとします──には恋人がいて、その恋人との共通趣味が、「ネットロア」を調べたり、「ネットロア」に関する話をすることだったそうです。
だからこそ、Aさんも知っていたわけで。
私と話をするときに、「恋人と結ばれるためのまじないがある」と目を輝かせながら話しかけてきたこともありました。
でも、流石にAさんも、その恋人も、そのまじないは危険だからやらない方がいい、と考えていたようです。
それから数ヶ月が経った頃でしょうか。
例の「恋人と結ばれるためのまじない」についての言及も少なくなってきた頃です。
ちょうど、Aさんと恋人が倦怠期に入ってしまったらしく、よく喧嘩をしたり、すれ違いが起きるようになっていたようです。
私はというと、Aさんから恋人に関する愚痴を聞かされるようになって。
でも、恋心なんて分からないから、適当に「うん」とだけ相槌を打っていました。
そんな日が、何日、いや何週間続いた頃でしょうか。
いつもはAさんと一緒にいるはずの恋人が、姿を見せなくなったのです。
Aさんも、なんだか少しおかしくなっていて。
普段なら元気に振る舞っているのに、しきりに周りを気にしているような、なんとなく怯えているような。
そんな様子を見せていたんです。
最初は、また喧嘩でもしたのか、みたいに思ってたんです。
でも、次第に変だと感じるようになったんです。
根拠とか、そういったものはないんですけど、感覚的に「変」って思ったんです。
だから、聞いてみたんです。
なんか最近様子おかしいけど、大丈夫?って。
そしたら、Aさんが突然泣き出して。
放っとくわけにもいかないので、近くのベンチに座らせたんです。
泣き止むまで待ってから、事情を聴くことにしました。
Aさんは、荒い息を整えながら、こう言いました。
「あのまじないをやったんです」
あのまじない──つまるところの「恋人と結ばれるためのまじない」を実行したわけです。
Aさんの話によると、恋人と喧嘩していくうちに、本当に愛している、愛されているのかが分からなくなったそうです。
そこで、愛を確かめるために、恋人が例のまじないを実行したと。
その時、ちょうどAさんが現場に居合わせたらしく、恋人が自分の手作りのマフラーで首をつって死ぬ様子を、Aさんは目の当たりにしてしまったんです。
どうやら、Aさんは恋人から「話がある」と言われて呼び出されていたそうです。
それなのに、恋人に会いに行ったら「見てて」とだけ言われて、そのまま見ていたら、首つり自殺──言い換えるなら「まじない」の実行をしたらしく。
Aさんは、何が何だか分からないまま、それを眺めていたようでした。
ショッキングな出来事だったため、身体が動かず、脳が理解を拒んだようです。
だからこそ、助けられるはずだった恋人を助けられなかった、と涙ながらに話していました。
身体が動いていれば助かったのに、と後悔混じりに話すAさんの姿を、私は忘れることができません。
一通り話し終えて、解散することになったわけですが、その時に話していた、Aさんの言葉がずっと頭の中に残っているんです。
「恋人の死が、頭から離れない。これじゃ、まじないじゃなくて呪いじゃないか」
そして程なくして、Aさんとも連絡がつかなくなりました。
噂では「気を病んで自殺した」とか、「精神病院に入院した」とか、色々言われているようでした。
その噂が正しいものなのか、私には分かりません。
今となってはAさんとのかかわりも希薄になってしまったので、確かめることもできないわけです。
ただ、やはり。
Aさんは、きっと死んだとしても、恋人の残した「呪い」から逃れられないのかな、と。
ふと、思うんです。
備考: 筆者は自殺の推奨などを目的として本作品を執筆したわけではありません。
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