第2話 魔法少女の迷走5

「あ……!」


 驚いて思わず声をあげそうになったのを、知らない手が塞いで遮る。

 手の感じと、なんかいい匂いがする所からして相手は女の子?

 敵意に敏感な私が気付かないんだから、危ない相手ではないはず。私、危機感知スキルも持っているらしいし。


「はぁ、なんでこんな所に乳頭巾ちゃんがいるん?」


 案の定、それは見知った赤い髪の女の子。呆れ顔をするリオちゃんだった。


「ぷはっ、リオちゃん、どうしてここに?」

「それはこっちが先に言った台詞だって。迷子なん?」

「ち、違うよ。許可証貰ったから、下見に来たんだよ」


 流石に四層に行こうと思っていたとは言えず、目的をぼかしつつリオちゃんに説明する。


「それでいきなり二層まで来たとかおバカか。ヤバめなモンスターと出会わなくてよかったね、大イノシシ辺りに会ってたら即ズドンだったよ?」


 知らなかった。あのイノシシ、二層では結構厄介なモンスターだったんだ。

 とりあえず二層は安心して歩けそう。


「そ、それで、リオちゃんはどうして来たの?」

「あ、まだそこ拘るんだ。んー」


 リオちゃんは私から視線を逸らし、神輿を担いで行進する一団へと視線を向ける。


「あの連中追いかけてた。ジャッカーのどさくさに紛れて、第一拠点の転移装置から魔石が盗られててさ。目撃証言的にあの連中が持ってそうなんよ」


 昨日の失敗は取り返さないと。リオちゃんが小声でそう付け足したのを、私は聞き逃さなかった。

 皆から色々言われてるから、早く汚名返上したいの? 焦っていないか少し心配。


「そ、そうなんだ」

「だから追いかけるのは止めて大人しく拠点に帰っときな。ぱっと見愉快な連中っぽいけど、正真正銘の危険人物。テーマパークのマスコットとは違うんよ」


 距離を取りながら黒装束の一団を追いかけるリオちゃん。

 私もそれに追随して話を続ける。


「で、でもミコトちゃんがお神輿に乗っかってて……」

「いや、あの子一味でしょ。暗黒フレンズじゃん」


 ばっさりとそう断ずるリオちゃん。マズイ、リオちゃんにお任せすると、問答無用でミコトちゃんも捕まっちゃう。


「た、多分違うと思う!」


 大声で主張しようとした私に、リオちゃんがしーっとジェスチャーする。


「……ご、ごめん。でもミコトちゃんは黒装束さんの仲間じゃない、と思う」

「根拠は?」


 小声で言いなおす私に、リオちゃんが半信半疑な顔をする。


「ミコトちゃんが言ってた神、エリュシオンらしいから」

「エリュシオン、暗黒神扱いとか。ウケる」

「わ、笑い事じゃないよぉ!?」


 笑いながら歩くリオちゃんの前に出て、私は必死に主張する。

 リオちゃんは眉間に指を当てて、わかったわかったともう片方の手を振った。


「わかってるって。はぁ、かなり面倒な展開になってんじゃん、これ」

「だから、リオちゃんが黒装束さん達をやっつけて魔石を取り返して、私がミコトちゃんを助けるのでどうかな?」


 そう提案する私に、リオちゃんは冷ややかな視線を向けた。


「いや、ダメに決まってんじゃん。この近辺のライブカメラは全部壊されてる、連中の目的地は間違いなく黒晶石の花畑入口。乳頭巾ちゃん、単身で四層なんか行ったら生きて帰れんでしょ」

「で、でも……」

「正直さ、足手まといになるわけ。ウチも首輪巫女ちゃんを助けるのを優先するから、乳頭巾ちゃんもそれで妥協しときな?」


 リオちゃんは私の両肩を掴んで無理やり私の動きを止めると、脅しを交えながらも諭すように言う。

 リオちゃん、イジワルだけど意外に優しい。ちゃんと魔法少女してるんだって少し尊敬した。でも、私だってお友達がピンチの時に何もしないのは嫌だ。


「わ、わかった」


 ただ、この場は一度頷いておく。リオちゃん視点では絶対に私を連れていけないのもわかるからだ。


「よーし、いい子いい子。んじゃ、後は魔法少女さんに任せときなさい」


 リオちゃんはほっと胸を撫でおろすと、私とスマホのアドレスを交換する。ミコトちゃんを保護したら連絡してくれるつもりなんだろう。


「私、天狼こりすだから、乳頭巾で登録は絶対に止めて」

「いや、しないって。他に人居る状態で乳頭巾から着信来たら、恥ずかしいのウチの方じゃん。さ、いい子はお家に帰んなー」


 リオちゃんは苦笑しながら遠く後ろの方に見える灯りを指差す。多分、あれが第二層の拠点なんだろう。


「う、うん」

「大丈夫、週明けには首輪巫女ちゃんもちゃんと登校してるから」


 言って、リオちゃんは私を置いて黒装束の一団を追いかける。

 私はそれをその場で暫し見送ると、その後を追おうとする。


「乳頭巾ちゃん、わかってる?」


 と、リオちゃんが足を止めて振り返り、釘を刺す。


「わ、わかってるよ!」


 読まれてた。私は渋々リオちゃんの姿が見えなくなるまでその場に姿を隠す。

 ちょっと距離ができちゃったけれど、行先は第四層だってわかっている。何とか追いかけられるはずだ。

 私は木々の隙間から見える空の裂け目を目印に、四層との境界へと急ぐ。

 激しい戦闘の爪痕残る四層への入り口前、そこには侵入を拒むように立ち塞がる人影が一つ。

 その人影は豪奢な長い金髪に、狐みたいな耳とふさふさな九本の尻尾、黒子みたいに顔を隠し、十二単のような服を着ていた。


「こんこ、遅れて馳せ参じてみれば、鉢合わせてしまうとは。なんとも不運な来客じゃ。娘、夜道には気をつけろと親に教わらなかったのかえ?」

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