第2話 魔法少女の迷走3
「ごめんなさい、こりすちゃん。私、少し興奮し過ぎちゃったかもしれません」
その後、医務室のベッドで横になりながら、セレナちゃんが私に謝る。
「興奮しただけであんな風にはならないよ。それにこの医務室、セレナちゃん専用でしょ」
医務室は学園長室から直通となっていて、置いてあるのはダンジョン素材である鉱石と薬草類だけ。一般的な薬や包帯とかは一切置いていなかった。
セレナちゃんの体調不良は、体内に入った黒晶石に侵食されていることが原因で、一般的な薬などは一切効果がないからだ。
症状を緩和させるダンジョン素材も、四層より深くないとなかなか見つからないらしい。
「……こりすちゃんは騙せませんね。でも、最近調子がよかったのは本当なんですよ。多分、レベルが上がって身体能力が向上したからだと思います」
「学園長代理になったのも、安全な所で少しずつレベルを上げるためなんだね」
「はい。直にダンジョンに出て探索をすると、発作が出た時に迷惑を掛けちゃいますから」
バツが悪そうに苦笑いするセレナちゃん。苦しそうな表情が少し痛々しい。
セレナちゃんが今着ている服は、この学校指定の制服っぽいけれど微妙に色と形が違う。
この学校はダンジョン探索をメインに据えている。当然、指定の制服よりも防具の着用が優先され、制服は着るも着ないもダンジョン素材で改造して防具代わりにするのも自由だ。
だから、準備のいいセレナちゃんは、もうダンジョン仕様に服を仕立て直してあるのかと思っていた。
学園長代理で、ダンジョン探索もしないらしいセレナちゃん。それなのに、わざわざ制服と似た服を選んで着ているのは、本当は自分もダンジョン探索をしたかったからじゃないの?
気になるけれど怖くて言えないその言葉。だからと言って、儚げなセレナちゃんの姿は見るに堪えず、私は何かいい手はないものかと考える。
そして、昨日怪人と戦った後に見つけたものを思い出した。
「そうだ! 私、昨日の怪人をやっつけた時、小さいけれどアレがあったんだよ!」
私は急いで鞄をまさぐると、ティッシュに包んであった白い輝石をセレナちゃんに手渡す。
この白い輝石は、昨日ネオジャッカーの怪人を倒した時に見つけたもの。倒したのは私だしドロップアイテム扱いでいいよねって、勝手に持ち帰らせて貰った。
「浄化された黒晶石! もう見つけていたんですね」
「どうかな、小さいけど白い輝石には違いないから、使えば少しは調子よくならないかな?」
この白い輝石は強いモンスターを倒した時に稀に見つかるもので、その核となっていた黒晶石が白く透き通ったものだ。
色々な力を秘めているらしいけれど、私にとって重要なのは黒晶石の力を弱め、侵食を押し返す効果があることだ。
私にそのことを教えてくれた人曰く、本来強い負の感情で育つ黒晶石が、強烈な正の感情を受けたことによって浄化されたものが白い輝石、らしい。
「うぅん、そうですね……」
セレナちゃんは私から白い輝石を受け取ると、黒晶石の欠片が入っている自分の胸元へと押し当てる。
そうして少しの間、目を閉じて静かにしていたけれど、やがて困ったように眉根を寄せて首を横に振った。
「ごめんなさい。心なしかよくなった気がしますけれど、劇的に何かが変わった気はしません」
「そっか、仕方ないね……」
私は残念に思うけれど、ショックは受けない。そう簡単に治るものではないとわかっているからだ。
セレナちゃんの体内に入っている黒晶石は、観測史上最大レベルだったと噂されるモンスター、それを更に強化復活させた黒晶石。
その力は強く、それを弱めて無力化するのなら、同程度のモンスターから手に入れた輝石が欲しくなることは覚悟の上。
そして、それを見つけ出すのが私の当面の目標だ。
「……こりすちゃん、あまり思いつめないでくださいね。私の黒晶石は既に七割がた浄化されていて、命を脅かすほどではないんです。後は私がこの体と上手く付き合っていけばいいだけの話ですから」
「セレナちゃんが気にすることじゃないよ! これは私のけじめ、だから!」
申し訳なさそうに言うセレナちゃんの手を握り、私は必死に首を横に振る。
そう、これはけじめなのだ。私はセレナちゃんと親友だって、胸を張って堂々と言えるための。
「ごめんなさい、こりすちゃん」
そんな私の顔を見て、セレナちゃんは少しだけ寂しそうな顔をして目を閉じる。
セレナちゃんが謝る必要なんてないんだよ。謝らないといけないのは私なんだから。
「気にしなくていいよ。すぐにセレナちゃんを元気にしてあげるからね!」
こんなセレナちゃんの姿を見てしまったら、このままお家に帰ってにゃん吉さんとゴロゴロなんてしてられない。
学生証を兼ねている探索許可証は今日中に貰えるはず、なら夜からダンジョン探索して少しでも手掛かりを掴みたい。
決意を新たにした私は、セレナちゃんの調子が落ち着いたのを確認して部屋を後にする。
「でも……こりすちゃん、貴方が私に負い目を感じているように、私も貴方の弱点になってしまったこと、負い目を感じているんですよ」
だから、ベッドでセレナちゃんが一人そう呟いていたことに、私は気づくことができなかった。
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