第7話

 夜、疲れ果ててベッドに潜り込んだ俺の頭には、巫女アメリアの言葉がぐるぐると渦巻いていた。


「女神様が不吉な予感がするって……。いったい俺の“吸収”に何があるんだろう」


 思考はいつの間にか眠りの中へ沈み、そして翌朝が訪れる。頭は少しだけスッキリしていた。


 朝食をとりながら、俺は考える。

 もし、女神の呼び出しを無視し続けたらどうなる? 神殿は権力があるし、巫女のアメリアは心配そうだった。


「まあ、行くだけ行ってみるか。話を聞くだけでも、スキルの謎がわかるかもしれないし」


 そう決めると、俺はさっそく支度をして家を出る。神殿へ向かう途中、街の大通りを歩いていると、何やら人だかりができていた。


「大きな魔物が近辺に出没しているらしい……」


「まじかよ、また冒険者に依頼しないといけないな」


「騎士団も出動するかもって話だぜ」


 周囲の声を拾うと、どうやら危険な魔物が森のほうで暴れているらしい。被害者も出ているようだ。


「最近は物騒だな……。俺もエリスやシエナと一緒に、いずれは討伐の仕事ができるくらいに強くなりたいけど」


 そうつぶやきながら、俺は神殿への石段を上がる。白亜の大理石で作られたその建物は、いつ見ても壮麗だ。


「お待ちしていました、ラゼル様」


 神殿の扉をくぐると、すぐにアメリアが出迎えてくれる。


「今日は来てくれてありがとうございます。女神様に直接お会いする前に、少し打ち合わせをさせてください」


「わかった。別に丁重にされる義理はないんだけど……アメリアさんには悪い気もしないから、ちゃんと話を聞くよ」


 アメリアはほっとしたように微笑み、奥の部屋へ案内してくれた。

 そこは穏やかな光が差し込む静かな一室で、机と椅子が並べられている。


「実は、女神様は『新たな儀式』を通して、あなたのスキルを安定させようとしているようなのです。ですが、具体的に何をなさるのかは、私にもよくわからなくて……」


「スキルを安定させる、ね。俺としてはむしろ、変な改変とかされたくないんだが」


「その点も含め、女神様に直接確かめるしかなさそうです。ご本人の口から何を言われるか……ただ、心しておいたほうがいいかもしれません」


 アメリアの瞳には不安が宿っていた。俺も胸の奥がざわつく。

 女神は一度、俺を「期待はずれ」と切り捨てた。いまさらどういう態度を取るのか、想像もつかない。


「……わかった。行くしかないんだな。腹をくくるさ」


「はい。私も同行します。なるべくラゼル様をサポートしますので」


 アメリアがそう言うと、俺は小さくうなずく。

 実のところ、神殿の奥へ行くのは少し怖い。でも、彼女が一緒なら心強い。


「よし、行くぞ。……女神様がなんだろうと、俺は俺の道を曲げない」


 そう覚悟を決め、俺はアメリアとともに神殿のさらに奥へと足を踏み入れた。

 そこには、女神の神像が鎮座する神秘的な空間と、俺の知らない運命が待ち受けている――そんな胸騒ぎが、足を踏み出すたびに強くなるのを感じた。

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