第26話 裏切りの足音

真奈たちはカーヴァスの台地での試練を乗り越え、新たな力を手に入れることができた。しかし、その先に待つのは、魔界に巣食う闇の一部が姿を現し始める「ザイロスの森」。この森は、闇の魔族たちの拠点として知られ、かつては魔界の中でも最も豊かな土地だったが、今では不気味な霧に覆われている。

新たな力を得た真奈は、森に潜む危険を前にしてもどこか自信を持ち始めていた。だが、その一方で、彼女の中に芽生えた不安は払拭しきれない。

森の入口に足を踏み入れると、周囲が異様なほど静まり返っていた。風も止まり、聞こえるのは自分たちの足音と、時折木々の間で揺れる何かの気配だけだ。

「……嫌な感じだな。」

イグナスが周囲を警戒しながら低く呟く。

「この森には、ただの魔物じゃない。何か……もっと根深い呪いが潜んでいる。」

ラザールが剣の柄を握りしめながら、鋭い目で森の奥を見据える。

真奈は背筋に寒気を覚えながらも、懸命に口を開いた。

「でも、ここを越えないと次の目的地には行けないんだよね。私たち、進むしかないよ。」

その言葉にラザールが振り向く。彼の表情にはわずかな驚きと誇りが混じっていた。

「その通りだ。だが、無理はするな。俺たちがいる。」

真奈は頷き、三人で森の奥へと足を進める。

森を進む中、突然霧の中から人影が現れた。それは、フードを深く被った一人の魔族だった。

「こんなところで何をしている?」

ラザールがその人物に問いかけるが、相手は答えない。代わりに、フードを外し、その顔を見せた。

そこには、真奈もラザールも知る人物の顔があった——王宮の元老院の一員、ヴェルガード。

「ヴェルガード……どうしてここに?」

ラザールは驚きと警戒を混じらせた声で言う。

「おや、ラザール殿下。それに……異界の少女もご一緒か。」

ヴェルガードの声は静かだが、どこか冷たい響きを帯びていた。

「何を企んでいる?」

ラザールが剣を抜きかけると、ヴェルガードは薄笑いを浮かべながら一歩下がった。

「殿下、そんなに焦らないでいただきたい。私はただ、忠告に来ただけです。この森の奥に進めば、あなたたちは真実を知ることになる。そしてその時、あなたの選択が魔界を破滅させるか救うかを決めるのです。」

「何の話だ?」

ラザールの問いにヴェルガードは答えず、霧の中へと消えていった。その背中を見送りながら、三人は不安を隠せないまま再び進み始める。

森の深部に到達すると、巨大な遺跡が姿を現した。そこには魔界の古代文字が刻まれた祭壇があり、真奈は無意識のうちにその中央へと引き寄せられる。

「この場所……私、知ってる気がする。」

真奈が呟くと、突然遺跡全体が光り出し、地面が揺れ始めた。

「気をつけろ!」

ラザールが叫び、真奈を守ろうと近づくが、遺跡から生まれた闇の触手が彼を阻む。

その瞬間、霧の中から再びヴェルガードが現れた。彼は静かに言う。

「殿下、この少女を手放すのです。彼女が魔界の混乱を招いている。」

「何を言っている?」

ラザールが激昂するが、ヴェルガードは続ける。

「異界の者が魔界にいることが、力の均衡を崩しているのです。あなたがこの少女を守ることが、さらなる混乱を招く。」

「嘘だ!」

真奈が叫ぶが、ヴェルガードは冷静に彼女を見つめるだけだった。

「ならば証明してみなさい。あなたが魔界の未来を変えられる存在であることを。」

ヴェルガードの挑発に、真奈は一歩前に出た。

「私はただ守られるだけの存在じゃない。この旅でたくさんのものを見て、考えて、自分に何ができるのかを探してきた。私がここにいる意味を証明してみせる!」

彼女が叫ぶと、祭壇がさらに光を増し、真奈の体を包み込む。その光がヴェルガードの闇を打ち消し、触手を消滅させた。

「これは……!」

ヴェルガードが目を見開くが、次の瞬間、ラザールとイグナスが同時に彼へと迫る。

「もう十分だ、ヴェルガード。」

ラザールが剣を向けると、ヴェルガードは一瞬怯んだように見えたが、再び笑みを浮かべる。

「殿下、私はあなたを見誤っていました。だが、いずれまた会いましょう。」

そう言い残し、ヴェルガードは霧の中に消えた。

遺跡の光が消え、森に再び静けさが戻る。真奈は疲れ果ててその場に座り込んだが、ラザールが優しく彼女を支える。

「よくやった、真奈。」

「ありがとう……でも、まだ終わってないよね。」

彼女の言葉に、ラザールもイグナスも静かに頷く。

「これからが本当の戦いだ。」

ラザールの言葉に、三人は再び未来への希望を胸に抱き、次の目的地へと向かうのだった。

ヴェルガードの言葉が示唆する真実とは?闇の王が仕掛ける最後の試練が、三人を待ち受ける——。

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