第25話 選ばれし道標

ルゴラの村で、魔族と人間が共存していた過去の記憶を垣間見た真奈たち。しかし、その共存が争いによって終焉を迎えたことに心を痛めながらも、未来を変える決意を新たにする。彼らの次なる目的地は、「カーヴァスの台地」。そこには古代魔族の聖地があり、魔界の歴史を知る手がかりが眠っているとされていた。

険しい岩山が続くカーヴァスの台地は、魔界でも特に過酷な場所として知られている。灼熱の風が吹き荒れる中、真奈は何度も足を止めながら進む。

「こんな場所、本当に人が住めるの?」

真奈が息を切らしながら呟くと、イグナスが笑いながら肩を叩く。

「魔族にとっては普通さ。でも、お前みたいな人間にはちょっとキツいかもな。」

「おい、イグナス。」

ラザールが低い声で彼を一瞥する。

「無理をさせるな。少し休もう。」

ラザールが言うと、彼の紅い瞳が真奈に向けられる。その眼差しには、どこか心配の色が宿っていた。

「ありがとう、大丈夫。少し休めば平気だから。」

真奈は弱音を飲み込み、笑顔で答えた。その健気な姿に、ラザールは無言のまま頷く。

台地を登りきった先に、三人は古代の遺跡を見つける。巨大な石柱が並ぶその場所には、不思議な文様が刻まれ、中央には光る水晶が据えられていた。

「これが……聖地?」

真奈が呟くと、ラザールが厳粛な声で答える。

「ああ、ここは古代魔族が“神”と呼ぶ存在と交信したと言われる場所だ。だが、その記録はほとんど失われている。」

イグナスが遺跡を見上げながら、軽口を叩くように言った。

「伝説によれば、選ばれた者だけがこの水晶を通じて過去を知ることができるらしい。まあ、俺たちには関係ないかもな。」

しかし、その言葉を聞いた真奈は水晶の前に歩み寄った。

「私、試してみたい。」

「おい、真奈!」

ラザールが止めようとするが、彼女は振り返り、強い目で彼を見つめた。

「この旅で分かったんです。魔界の未来を変えたいなら、過去を知らなきゃいけない。私にできることがあるなら、やってみたいんです。」

その覚悟に、ラザールは言葉を飲み込む。そして、静かに頷いた。

真奈が水晶に手を触れると、眩しい光が辺りを包み込んだ。同時に、彼女の頭の中に無数の声が響き渡る。

「お前は誰だ。何のためにここに来た?」

その問いに、真奈は震えながらも答える。

「私は篠原真奈。魔界に平和を取り戻したい。共存の未来を信じたいんです!」

すると、水晶の光がさらに強くなり、彼女の周りに映像が広がった。それは、かつて魔族と人間が共存していた頃の、もう一つの村の記憶だった。しかし、そこでも争いが起こり、村は崩壊する。

「また争い……。」

真奈は目を伏せるが、その時、水晶の声が再び響く。

「争いは避けられぬ。だが、そこに希望を見出す者がいれば、未来は変わる。」

映像が切り替わり、今度は人間と魔族が手を取り合い、荒廃した村を再建していく姿が映し出された。その中には、真奈に似た黒髪の少女の姿があった。

「この子は……誰?」

真奈が尋ねると、水晶の声は静かに答える。

「未来を創る者だ。お前と同じく、異界より訪れた者である。」

水晶との対話を終えた直後、遺跡が突然揺れ始めた。地面が割れ、漆黒の闇から巨大な魔物が現れる。その姿はまるで、魔界の混乱そのものを具現化したかのようだった。

「真奈、下がれ!」

ラザールが剣を抜き、魔物に立ち向かう。一方、イグナスも即座に槍を構えた。

「こいつは手強そうだな……だけど、やるしかない!」

二人の戦闘が始まる中、真奈は怯えながらも水晶を見つめた。先ほどの声が、彼女の中に響く。

「お前が未来を望むならば、今こそ立ち上がれ。」

その言葉に導かれるように、真奈は震える手を伸ばし、水晶から流れ込む光を掴む。その瞬間、彼女の身体が淡い光に包まれた。

「これが……私にできること?」

彼女の力に呼応するように、ラザールとイグナスが一瞬動きを止めた。

「真奈、何をしている?」

ラザールが振り向くが、次の瞬間、真奈の光が魔物を包み込み、その動きを封じた。

「いまだ!」

ラザールが叫び、イグナスとともに魔物にとどめを刺す。

戦いが終わり、三人は再び水晶の前に立つ。真奈はまだ光を放つ手を見つめながら、静かに呟いた。

「私にも、できることがあるんだね。」

ラザールは彼女の頭に手を置き、いつになく優しい声で言った。

「お前の力は、本当に不思議だな。でも、それが俺たちの道を切り開く。」

イグナスも笑いながら、彼女の肩を叩いた。

「さすが、俺たちの“鍵”だな。」

真奈は二人の言葉に微笑みながら、未来への希望を胸に秘めた。そして、三人は次なる目的地へと旅を続ける。

新たな力を手に入れた真奈たち。しかし、その道の先には、予想だにしない試練が待ち受けていた——。

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