第23話 変革の声

試練の迷宮を突破し、「共存の道」を選んだ真奈たちは、魔界に新たな未来をもたらすための一歩を踏み出そうとしていた。しかし、その道のりは決して平坦ではない。保守的な魔族の重鎮たちが待ち受ける宮廷会議——その場での説得が、彼らにとって最初の大きな試練となる。

魔王城の大広間には、魔界を支える各地の有力者が一堂に会していた。その表情は険しく、どこか挑戦的だ。

「ラザール殿下、試練を乗り越えたと聞きましたが、それが何を意味するかご存じですか?」

威圧感のある声を発したのは、魔界南部を治める族長ガルヴァス。彼の目はラザールを鋭く見据えている。

「試練を通じて、未来への選択をした。我々は共存の道を進む。」

ラザールの言葉は、力強かった。しかし、その直後、広間にどよめきが起こる。

「共存だと? あなたは魔界を弱体化させるつもりか!」

「異界の人間に未来を託すなど、王族としての責務を放棄するも同然!」

怒声が飛び交う中、真奈は小さく身を縮める。だが、隣に立つラザールの堂々たる姿に勇気づけられ、前へ進み出た。

「確かに私は異界の人間です。だから、皆さんからすれば信頼できないかもしれません。でも——」

真奈の声が震えながらも、広間に響き渡る。

「私は、この世界がもっと優しい場所になれると信じています。争いのない未来を選ぶことは、決して弱さではありません!」

その言葉に、一瞬広間が静まり返る。

会議が膠着状態に陥りそうになったとき、突然扉が開き、一人の男が姿を現した。

「少しは頭を冷やせ。殿下と少女の話を最後まで聞かずに、判断を下すのは早計だろう。」

現れたのは、魔界北部を治める豪族ヴァルナス。彼は冷徹な策略家として知られているが、意外にもラザールの味方として登場した。

「ヴァルナス様が、我々を支持するとは……。」

イグナスが低く呟く。

「支持するわけではない。ただ、共存の道には可能性があると考えているだけだ。」

ヴァルナスは微笑を浮かべながらラザールを見る。

「だが、そのためには具体的な計画が必要だ。殿下、およびその少女よ、あなた方の言葉だけでは、説得力に欠ける。」

ヴァルナスの指摘を受け、真奈は再び前に出た。

「確かに、私はまだ力不足です。でも、試練を乗り越える中で、魔族のみんなの優しさや強さをたくさん見てきました。」

彼女は一度深呼吸し、続けた。

「だから、私は提案します。これから一カ月間、各地を回って、実際に共存がどういう形で可能かを証明します。それを見て、最終的に決めてほしいんです!」

その提案に、再び会議室がざわついた。しかし、ラザールが彼女の肩に手を置き、静かに言葉を続ける。

「真奈の言葉に賛同する者はいるか?」

その場の反応は鈍かったが、ヴァルナスが再び口を開いた。

「いいだろう。だが、期限内に具体的な成果を示せなければ、この提案は却下だ。その時は、秩序の道を選んでもらう。」

会議後、三人は一息ついていた。真奈は安堵の表情を浮かべながらも、これからの試練を思い不安を隠せない。

「これでよかったのかな……。」

「お前の提案は間違っていない。」

ラザールは彼女の目を見て言った。その紅い瞳には、揺るぎない信頼が宿っている。

「共存が可能であることを証明する。それは、俺たちの使命だ。」

イグナスが軽く肩をすくめながら、冗談めかした口調で言う。

「まあ、あんな豪族連中を納得させるには骨が折れるがな。でも、やってやろうぜ。」

三人の新たな旅が、こうして始まった。

各地を巡る三人が直面するのは、長年続いた争いの跡。共存の可能性を信じる真奈の心に、思わぬ影が落ちる——。

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