第17話 絶望の扉

虚無の祭壇での試練を乗り越えた真奈たちは、次の目的地へと進んでいた。そこは魔界の中心部に位置する「闇の門」。この門の先に、裂け目を生んだ元凶とされる力が眠ると言われている。しかし、彼らがそこに辿り着くまでの道のりは、これまで以上に困難で危険なものだった。

「どうしてこんなに寒いの……?」

真奈が震える声で呟く。闇の門へ向かう道は、凍てつく風が吹き荒れる凍土だった。空にはいびつな形の紅い月が浮かび、彼女の心に重い不安をもたらしていた。

「この辺りは『絶望の道』と呼ばれている。魔界の最も暗い力が集中する場所だ。心を乱されるな。」

ラザールが前を見据えたまま静かに告げる。彼の紅い瞳に映る景色には、決意と焦りが混じっていた。

「乱されるなって言われても、何かが近くにいるみたいで怖いよ……。」

真奈の声が震えるのを見て、イグナスが軽く笑った。

「安心しろ、俺たちがいる。怖い顔の王子様もいるしな。」

「怖い顔は余計だ。」

ラザールが冷ややかに返すが、そのやり取りに真奈は少しだけ気持ちが軽くなった。

数時間歩き続けた後、一行はついに「闇の門」の前に到達した。巨大な黒い扉は、圧倒的な存在感を放っていた。扉には複雑な模様が刻まれ、中央には真紅の宝石が埋め込まれている。

「これが……裂け目の原因に繋がる場所?」

真奈は不安そうに尋ねた。

「そうだ。この扉の先に何があるかは分からない。だが、裂け目を止めるためには進むしかない。」

ラザールが宝石に手を伸ばそうとした瞬間、周囲の空気が重くなった。

「待て! 何か来る!」

イグナスが警戒の声を上げる。その直後、黒い霧が一行を包み込み、無数の魔物が姿を現した。

「罠か!」

ラザールが剣を抜き、魔物たちに立ち向かう。一方で、イグナスも笑みを浮かべながら剣を振るう。

「おいおい、これじゃお出迎えが手荒すぎるぜ!」

「茶化してる場合じゃないよ!」

真奈が叫ぶ中、次々と襲い来る魔物たち。しかし、ラザールとイグナスの連携で形勢は次第に彼らの優位に傾いていった。

「真奈、俺たちがこっちを抑える! お前は扉を開けるんだ!」

イグナスが叫ぶ。その言葉に真奈は迷いを振り切り、宝石に手を伸ばした。

真奈が宝石に触れると、扉が低く唸りながらゆっくりと開き始めた。中からは強烈な闇の気配が溢れ出す。

「これが……裂け目の力?」

真奈は一瞬立ち尽くすが、ラザールが彼女の腕を掴んで引き戻した。

「行くぞ、真奈。」

「う、うん!」

扉の中に入ると、そこは異様な空間だった。空気が歪み、空間全体が光と闇の力で引き裂かれているように見える。

「ここが裂け目の中心か。」

ラザールが低く呟いたその時、奥から声が響いた。

「よく来たな、勇敢なる訪問者たちよ。」

暗闇の中から現れたのは、ディアスだった。

「お前か……すべての元凶は!」

ラザールが剣を構えるが、ディアスは動じる様子もなく微笑む。

「元凶、か。確かに私が裂け目を広げた張本人だ。しかし、それはこの世界の救済のためだ。」

「救済?」

真奈が疑問の声を上げる。ディアスは彼女に視線を向けた。

「真奈、この世界はすでに崩壊の一歩手前だ。裂け目はその歪みを一時的に和らげるための存在であり、それを無理に閉じることはさらなる混沌を招く。」

「じゃあ、どうすればいいの?」

真奈の問いに、ディアスは静かに答えた。

「光と闇を統合し、新たな均衡を生み出すしかない。それができるのは、お前たちだけだ。」

「どういう意味だ?」

ラザールが食い下がる。

「答えはお前たち自身にある。だが、その前に試させてもらおう。本当にその資格があるかどうかを。」

ディアスが指を鳴らすと、空間全体が揺れ、一行の足元が崩れ始めた。

「くそっ、また試練か!」

ラザールが叫びながら真奈の手を掴む。

「真奈、しっかり掴まれ!」

「うん!」

崩れゆく空間の中、彼らは新たな試練へと放り込まれた。果たして、真奈とラザールはこの試練を乗り越え、魔界の未来を切り開くことができるのか。

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