通り過ぎていた景色
@seeder
通り過ぎていた景色
美しい景色と、いうものがある。ウユニ塩湖やウルル、富士の山頂から見る日の出の景色。
どれも有名で、やはり美しいに変わりはない。
僕は目の前の景色を眺めながら、そう思った。
木々がざわめき、そのたびに緑色の葉を揺らす。足元の影が万華鏡のように形を変え、踊る。
葉の隙間から見える風景も、また変わる。
色とりどりの屋根達が、夕焼けに照り映える様を見た。いつも泰然とそこにある川が夕日を反射させ、綺羅綺羅とした衣装で踊るのを見た。ハイウェイの車の窓が時折チカチカと日の光を放ち、まるでイルミネーションのような存在になっているのを見た。郊外にある不気味な森がいつもとは違い、色づいて優しい雰囲気を帯びているのを見た。
突風が吹く。
自分に風が迫り、そして圧倒する。
葉の隙間に見えていた町の一部一部が一体となり、その身の全て全部が私を魅せて来た。
屋根も、川も、車も、森も、みんなみんな、美しい輝きを帯びて自らの存在を主張してきた。
ここは、ウユニ塩湖でもウルルでも、マチュ・ピチュでもフィレンツェでもない。
私の家の近所にある山に通る、狭く、木々が今にも侵食しそうな道路の途中。国道なんてそんな大層な名前も持ち合わせていないし、この山の名前なんて誰も知らない。登ってくる人もほとんどいない。有名なんてほど遠い場所。
それでも、僕にはここが一番美しい場所だ。
名称はない。何の称号も持ち合わせてはいない。
それでも、この一瞬、夕焼けが美しく魅せるこの町は、僕にとってどんな絶景にも勝る美しさだ。
別に、かの絶景たちが美しくないとか劣るなんて言ってはいない。
ただ、この町の風景は美しいのだと、僕はそう言いたいのだ。
手元のバニラアイスはまだ溶けていない。
ペロッとなめると、夕陽の味がした。
通り過ぎていた景色 @seeder
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