第6話
私は中学の頃いじめを受けていた。彼の話を聞いて、彼のされてきたことを考えるととても幼稚で軽々しいものだけれど、あの頃は自分が一番この世で不幸なんだって気持ちで生きていた。
毎日が憂鬱で、学校に行くのも怖くて、街に出る時も誰にも会わないようにと必死で周囲を警戒して歩いていたのを思い出す。誰も味方なんていないような、私に目を向ける人間が全員敵に見えるあの感覚は今でも忘れられなかった。
人生のトラウマで、もう二度とあの子たちに会いたくない。もうあんな体験したくないって、誰とも被らない遠い高校を選んだ。
その結果私は変れたと思っていた。新しいクラスメイトにはまあ馴染んで、友達も出来て、昼食も一緒に食べれて。私の過去何か知らず、みんな話しかけてくれる。
あの地獄からようやく抜け出せた。私は変れたんだって。
でも蓋を開けてみれば、私はただ後ろを向いて逃げていただけだった。変わったんじゃない、現実を見ないように生きてきたから見えなかっただけで、あの頃の私はずっと張り付いている。
あの痛みを知っているはずなのに、見て見ぬふりして、今度は自分が安全圏で偽善を垂れていた。
いじめの傷はそう易々とは治ってくれない。特に痛んでいる人を見れば傷が疼いて私まで痛かったはずなのに。なんで私だけ、その痛みから逃げようとしているんだろう。
「いじめを受けた人はその痛さや辛さを知ってるから人を助けるなんて詭弁だよね。あんなことを繰り返さないように、皆上手く生きてるもん」
でも、だからっていじめを見過ごしていいなんてことはなくて、どれだけ偽善で飾ろうと結局私も同罪だ。
「私はどうしたらいいの?……」
初めて話す彼にそう弱音を吐いた。そんなの彼に聞いたってわからないはずなのに。
「君は正しいよ。いじめを受けてまで人を助けようなんて思う人は少ないだろう。ましてやいじめられた人なんかはね。だから、君は悪くない。むしろ、それだけ自分を追い詰めてまで悩んでたんでしょ?」
その言葉を聞いて視界が滲んでいることに気づいた。
「私だってどうにかしたいよ! でもあなたのように強くないし、容量も悪い、それに力も非力で、友達だって多くない……それに怖いの。次は私かもって、毎日思ってる。でも、だからって誰かがいじめられてるのを傍観してるだけなのも嫌なの! 私も痛いし、なにより、過去の自分を助けれない自分が悔しい」
「だったら。俺を頼ればいいじゃん。そのためにいるんだよ俺は。人の痛みを肩代わりするだけなら、俺はできるよ」
助けることはできない。でも支えてくれる。初めて話したのに、彼のその言葉はすっと胸に入ってきた。
少しだけ気分が晴れたような気がした。叫んだからなのか、気持ちを吐き出したからなのか。
辛い経験をしているのは私だけじゃないし、この世は辛さを競う勝負じゃない。誰にだって辛い事はあるし、誰もがそのことについて悩んでいる。
決して前に進めた訳じゃないけど、過去が変えられないなら少しでも未来を素敵なものにしたい。その気持ちは少しは前を向けているのかも。
「ありがとう。おかげですごくよく見えるようになった」
「お安い御用さ。俺はそのためにいるってさっきもいったでしょ」
「そうだね。でも私はあなたが傷ついているところだって本当は見たくない。それがあなたが望むことだとしても」
「誰も傷つかないなら、その方法を選ぶよ。でも、そう言ってもらえてちょっとは考えてみようって思った」
「ならよかった」
「ていうか、葛西って結構喋るんだな」
「え?」
そっか。私って意外とお喋りなのかも。
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