転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫

第1話

 目を覚ました瞬間、俺は見知らぬ石畳の上に転がっていた。

 細やかな装飾がほどこされた建物が並ぶ通りは、まるで中世ヨーロッパのような雰囲気だ。

 だが、行き交う人々の中には長い耳をもったエルフらしき者や、猫の尻尾を揺らす獣人なども混じっている。


「うわっ……? ここって、本当にファンタジーの世界じゃねえか!」


 慌てて自分の体を確認すると、背広姿のままだった。

 社会人のときの習慣でジャケットの内ポケットを探ってみると、見慣れた名刺入れとボールペンが出てきた。

 俺は前世で“弁護士”をしていた。

 だが、まさか死後にファンタジー世界へ転生なんて。

 驚くしかない状況だが、それでも法曹としてのプライドは捨てたくない。

 これはきっと天から与えられた第二の人生だろう。

 だったら俺は、この世界でも“法律の力”で人々の役に立ってみせる。


 そんな決意を新たにしたところへ、背後から誰かに肩を叩かれた。

 振り返ると、妙に人の良さそうな顔をしたおじさんが立っている。

 服装はたくましい胴鎧こそ着ているが、その瞳の奥にはどこか優しさが宿っていた。


「悪いが、その背広とやらは珍しいねえ。もしや異世界から来た人か?」


 どうやらこの世界には、俺と同じように“突然現れた人間”がそこそこいるらしい。

 おじさんは冒険者ギルドの関係者だという。

 ギルドまで案内してくれるというので、俺はありがたくついていくことにした。


「この国には一応“王国憲法”ってのがあってな。基本的に、モンスター退治は自由にやっていいことになってる。だが、ギルドはその法律を根拠に報酬や責任の仕組みを作っているわけさ」


 彼の説明によれば、たとえば“王国憲法第10条”には“魔物討伐の権限は王国のすべての居住者に付与される”とあり、モンスター退治は正当業務として評価されるらしい。

 日本の法律で言えば“刑法”の正当行為に近い感じだろうか。

 ただ、こうした規定があるにもかかわらず、実際のクエスト現場では報酬の分配や責任範囲が曖昧なままになり、しょっちゅう仲間割れが起きているというのだ。


「で、よかったら、お前さんの知恵を借りたいんだ。冒険者のパーティをまとめる“契約書”ってやつを、ちゃんと作ってくれないか?」


 おじさんはそう言うと、俺をギルドのカウンターへと連れて行った。

 そこでは受付嬢が待っていて、俺の身元確認もそこそこに「弁護士? 素晴らしい! ギルドの悩みを解決してくれるかもしれませんね」と大歓迎だ。

 こうして俺は、異世界初の“弁護士案件”を請け負うことになった。

 契約書を作るだけなら前世の知識が存分に活きるはず。

 新天地での初仕事に燃える俺の胸は、期待と少しの不安でいっぱいだった。


「よーし、やってやるぜ! この世界にだって、法律の力が通用するってところを見せてやろうじゃねえか!」


 俺は拳をぎゅっと握りしめた。

 どこかの誰かが言ったように、“法は世の中を変える力がある”と信じているからだ。

 始まったばかりの異世界生活、まずは契約書づくりからスタートだ!


 ――こうして、転生弁護士の俺は、異世界における最初の大仕事に乗り出す。

 この決断が、のちに世界を揺るがすことになるなんて、まだ誰も知らない。


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