第16話 あれが……バトルガルーダ……

 少女たちと魔獣の間に割って入ったヒッカ。ジェイクも臨戦態勢で並ぶ。

「こいつはこの前倒したばかりのベアー種とは違うな。こうして対峙してみると分かる」

 ジェイクが続けて語った。

「上から見た時だとはっきり分からなかったが、こいつは前見たやつとは違う魔力の纏い方をしている。」

「どう言うことですか?」

「前のやつは刺々しい魔力を全身から発していた。だがこいつはなだらかで煙のように立ち上る魔力だ。そして攻撃の瞬間に一気に爆発する」



 魔獣はジェイクをひと睨みしたかと思うと、全身をバネのようにしならせ突進してきた。ジェイクは身をかわしながらブロードソードを魔獣に打ち込んだ。避けながら攻撃に転じたことでジェイクの攻撃はさしたるダメージを与えることはできなかった。

「こいつは厄介だな」



 ジェイクが剣を握りしめ、そう呟く。対峙する魔獣は振り向き続け様にジェイクに突進してきた。避けることを主眼を置いているジェイクは、剣に魔力を十分に込めることができていない。

(まさかこんなとこほでAランク相当の魔獣に会うとはな……)


 連日のヒッカとの特訓による疲労。朝からの連続討伐による魔力の消費。そして何より今は軽装だ。

(あれだけの大きさの爪……まともに食らうとお陀仏だな)

 魔獣の攻撃が苛烈であるために回避を優先しなくてはならないジェイク。

「グルルル」

「ん?」

「ウォオオウー!!」

(動きが!?)



 咄嗟に盾を構えて致命傷を避けたジェイクだが魔獣の一撃で吹っ飛ばされてしまった。

(チャンスだ。この距離なら……!)

 魔力を集中させるジェイク。魔獣に対しては火属性の魔法が有効打になることが多い。

「【ファイアバースト】」

 ジェイクの放った炎熱線が魔獣にヒットした。苦しそうな声をあげる魔獣。

(よし!)

 手応えを感じるジェイク。

(このまま押し切る……!)

「はぁあああ!」

 さらに魔力を上乗せし、炎熱線が一回り大きくなった。そして……。

「グググゥ」

 悲痛な声を魔獣があげたその時、炎熱線が魔獣を貫いた。そして魔獣はジェイクをひと睨みした後に倒れ込んだ。



「はぁはぁはぁ」

 ジェイクは深呼吸し、そのまま地面に転がり天を仰いだ。




「さすがに少しキツイな」

 そこにヒッカが駆け寄ってきた。

「お疲れ様です。ジェイクさん」

「ああ。柄にもなく張り切りすぎたかもな。少し休んで帰るか」

 そこに少女がおずおずと声をかけてきた。

「あの……助けてくれてありがとうございました」

「いえ。間に合って何よりです。怪我はありませんか?」

 そこまで喋って振り返ったヒッカは驚いた。声の主も驚いた様子だった。




「君はライク?」

「え? ヒッカくん?」

「んん? どこかで見たと思ったらあの時のお嬢さんか。無事でよかったが今度は大人たちと来るんだな。下手をすれば三人ともあの世行きだぞ」

 ライクの後ろに隠れている兄妹を見ながら、ジェイクは少し脅すように言った。

「私たちだって逃げるのに必死だったんです……」

 ライクが大粒の涙を流しながら答えた。助かったと言う安堵の涙なのか、ジェイクに言われたことの悔しさからくる涙なのか、ヒッカには分からなかった。



「ライクさんを悪く言わないでください」

 少年が答えた。

「ライクさんは俺たちを連れてここまできてくれたんです。俺と妹だけだったら、とっくに遭難してました。下手したら生きていなかったかもしれないです」

「ライクさんだって辛かったんですよ」

 ライクの背中をさすりながら少女が言う。少女も瞳に涙を溜め込んでいる。

「……」

「それはすまなかった。事情を聞かせてくれないか?」

 ジェイクが神妙な面持ちで尋ねた。




 ライクと兄妹の話から、ライクの村が襲われたと言う事実が分かった。あの後も散発的に魔獣が現れたらしい。前回ヒッカが倒した魔獣とは異なり、ジェイクが倒した魔獣のタイプが現れたそうだ。村人は散り散りとなり、ライクの母リーサも行方不明とのことだった。

「母とはフレアランド王国まで行こうって言ってたんです。」

 絞り出すようにライクが答えた。

「そして、俺たち兄妹と会ったんです」

 少年が答えた。

「俺はラッフェル=マゴットです。こっちは妹のフィリーです。俺、冒険者になりたくてフレアランドまで来たんです」

「それはまたどうして?」

「親父みたいに国に縛られたくなかったからから……俺たちの親父は兵士だったんで戦争に駆り出され、そのまま戻ってきませんでした。お袋が頑張って仕事して俺たちは暮らしてたんですが、この間親父の後を追うように天国に行きました」

「……」

「俺だって親父が国のために戦うのは、俺たちのために繋がることは分かってます。ただ、そんな風に戦っても残された俺たちがどんなことになるのかを考えて欲しかった」

 ジェイクも無言で話を聞き入っている。

「母の葬式を終えた俺たちは働き口を探そうとしました。だけど戦争で疲弊してる上にろくな働き口もなく、お金も無かった。途方に暮れてたのですが、フレアランドのギルドなら俺たちでも冒険者登録できると聞き、ここまで来ました」

「そして家にある備品を売り払って、ここまで来たんですが道に迷っているところをライクさんに助けてもらいました」

 フィリーが言うには、ラッフェルの装備品は父親の遺品とのことだった。サイズ感があってないのはそのせいだったのかとヒッカは納得した。



「それで助けてもらったお礼に山菜取りの手伝いをしてライクさんの村に帰ったんですが、魔獣が襲ってきたみたいでもう誰もいませんでした。そして三人でフレアランドに行こうとした時に魔獣の一体と出くわした訳です」

「そいつは災難だったな。もうすぐ日が暮れるし、他に魔獣がまた襲ってくるかもしれん。俺はもうほとんど魔力が残ってない。お前たちは何か魔法が使えるのか?」

 三人はそれぞれ答えた。



 ラッフェルは火属性の魔法練習中のようだ。最近やっと低位魔法が使えるようになったばかりで、もっぱら肉体強化の方が得意だった。

 ライクとフィリーは水魔術師なので、回復魔法はそれなりに使えるが攻撃魔法はあまり得意ではないようだ。

「中々厳しいな。ここは早々に立ち去った方がいいな。ヒッカ。俺たち全員まとめて飛べるか?」

 そんな無茶な。とは思いながらも事態は急を要するため、そんな事は言ってられない。

「ちょっときついかもしれないですね」

 ヒッカは腕組みをし、天を仰いだ。


 黒い影がヒッカの眼前を横切る!


「うわっ」

「くそ! なんて時に!!」

 ジェイクが腰を落とし呟いた。

「バトルガルーダ……!」

「あれが……バトルガルーダ……」



 大翼を広げ雄々しく飛ぶその姿は、空の暴れん坊の異名をとるバトルガルーダ。バトルガルーダは気性が荒く、獰猛である。

「まずいな……」

 ジェイクが呟いたかと思うとバトルガルーダが急降下してきた。

 ギン! とバトルガルーダの爪を剣で打ち払ったジェイク。ヒッカも冷静に魔力を湛えている。

(次にあいつが降りてきたら……!)

 空に駆け上がったバトルガルーダが再び攻撃の構えを見せる。

(今だ!)

 ヒッカは十八番の風魔法【サイクロン】を放った。凄まじい暴風がバトルガルーダを襲う!

 が……。

「ギェエエエ!」

 再び空に舞い上がったバトルガルーダ。ダメージはさほど受けてないようだ。

「くっ!」

 ショックを受け、焦りの色が見えるヒッカ。

「ヒッカ! バトルガルーダは風の魔力を持つ魔獣だ。真正面から撃ち合っても効果は半減だ。それに奴は空からの攻撃を得意としている。どうにか地面に叩き落とせないか?」

「分かりました」

(とは言え、どうすれば……。)

「悩んでも仕方ないか! 上から叩き落とす!」

 ヒッカは【エアライド】を唱え空を駆け上った。

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