第15話 こんなやつ、私がやっつけてやる!
バトルガルーダが討伐対象と聞き、ヒッカは少し身構えた。
バトルガルーダなら本で読んだことがある。翼を広げると大きなものでは、人が住む家と並べてもなお大きい。
気性も荒く、知能も高い。
例年、魔獣討伐を生業とする冒険者ですら犠牲になっているほどだ。
「大物ですね」
ヒッカが剣を握り締めながら言う。
「何度か言ってるが、巨大ゴーレムを打ち倒したんだろ? 怖くないさ。それにバトルガルーダなんてドラゴンから見たら赤子もいいところさ」
確かにそうだ。ヒッカは巨大ゴーレムを破壊している。ドラゴンも決定打を与えられなかったかもしれないが、大きな被害を出す前に撃退している。
ヒッカは深く深呼吸をし、自分の両頬を叩いて気合を入れた。
「了解です! それでは行きますか!」
ヒッカはジェイクを連れ、バトルガルーダが棲むという山麓に向かった。
たどり着いた山はとても静かだった。
「少し身を潜めて歩くぞ。奴らは警戒心が強いからな」
そう言ってジェイクとヒッカは歩き出した。
……どれくらい歩いただろうか。すでに陽は少し傾き始めている。
「今日はだめかもな。できれば今日中に仕留めたかったのだが」
「結構歩きましたね。もっと簡単に見つかるかなって思ってました」
「そうだな。あそことあの山を見てそれでもいなければ今日は引き上げるか。もしかしたら他の奴らに討伐されたのかもしれないしな」
「なるほど、その可能性もありますね」
「明日の朝、ギルドで確認して討伐されてなければそのまま昼まで探して、それでもだめならキャンセルするか」
「分かりました。それにしても少し疲れましたね。休みませんか?」
「そうだな。よし、ここらで休憩だ」
「ふう」
ヒッカは荷物を下ろし、近くの岩に腰掛けた。ジェイクは偵察がてら木の上に登ってそのまま枝に座った。
「何か見えますか?」
「ああ。あそこの山だが、俺たちが最初に会った山じゃないか?」
「ヒルビルド山ですね。ちょうどこちらから見ると裏側になるみたいですね」
「なるほどな。思ったより遠くに来たのかもしれないな」
「そうですよ。そもそも俺が風魔法使わなかったら、こんな無茶な移動になってないですよ」
屈託なく答えるヒッカ。
「かもな。お前の風魔法は便利だからな」
何かを思い出したのか、ニヤリと笑うジェイク。不意にヒッカは嫌な予感がした。
「とうちゃーく!」
ヒッカは荒っぽく地面に降り立った。減速が不十分だったために長大な着陸跡が残っている。
「見事だな。こう何度も魅せられると俺も真剣に風魔法を覚えようかなとさえ思わされる」
「はぁはぁ。調子いいんですから」
肩で息をしながらヒッカが答えた。結局、休憩もそこそこに風魔法【エアライド】で飛翔してきた。さすがにヒッカにも疲れが見える。
そんなヒッカを尻目にジェイクは周囲を警戒しながら歩き始めた。ヒッカもそれに続いた。
少し歩いてからヒッカはふとライクの村が気になった。
「ジェイクさん。休憩がてら立ち寄りたいところがあるんですけどいいですか?」
「ん? まさか例の村か?」
「はい。この辺りでも凶暴な魔獣が出現してたので偵察しておきたいです」
「確かにな。そろそろ時間だし俺たちの獲物は明日に持ち越しだな」
ヒッカは再び【エアライド】を唱えた。
(さすがにちょっと疲れた、かも)
珍しくヒッカは弱音を吐いていた。
その少年は勇ましく襲いくる敵に立ち向かっていた。
「こいつ! くそっ!」
少年が少女の手を引きながら剣を振るう。
「これでもくらえっ! 【ファイアボール】」
少年は魔獣に向けて火魔法を唱えた。放たれた火炎弾は魔獣に直撃したものの、分厚い毛皮に阻まれて殆どダメージはないようだ。
「お兄ちゃん! 避けて!!」
少女が水魔法を唱えた。
「【ウォーターボム】!」
魔獣の頭上に出現した水の塊が炸裂する。だがこちらも効果は見られない。
「くそ! なんでこんな……」
少年の顔に絶望の色が浮かぶ。
「こんなやつ、私がやっつけてやる!」
兄妹を引き連れた少女が気丈に叫ぶ。まるで大気が震えるかのように、魔力を高めていく。
「お願い! 【ハイドロジャベリン】!」
水流が刃となって魔獣の顔めがけて打ち出される。
「ゴォオオ!」
その水刃は魔獣の右目を貫いた。鮮血があたりに広がる。
「やった!」
小躍りする少女と安堵の顔を浮かべる兄妹。が……。
「グォオオ! ウォオオー!!」
魔獣は怯んで逃げるどころか怒り狂っている。
「しつこいわね!」
少女が再び構えをとり、先ほどの水刃を打ち出した。今度は左目に狙いを定めていた。少女は直撃を確信していたが、魔獣はその巨体を翻し水刃を避けた。
「外した!?」
少女は驚きの声を上げた。
「ゴォオオオオ!」
魔獣の咆哮が辺りに響く。
「うっ! わぁあああああ!!」
傍の少年は自分が狩られる立場である事を理解し、その恐怖で半狂乱に陥っていた。自身の得意技であろう火魔法を魔獣に連発している。だが、それはさしたるダメージを与えてるようには見えなかった。
「お兄ちゃん! 落ち着いて! お姉さんももう一度お願い!」
一番年下であろう少女は冷静に二人に声をかけた。その震えている声を聞き、魔獣に一矢報いた少女は我に帰った。
「ごめんね。私がしっかりしなくちゃね」
そう言って再び構えをとった。
(今度は外さない……!)
魔獣は少年の火炎弾を鬱陶しそうにいなしている。
(そこね!)
「【ハイドロジャベリン】!」
渾身の水刃は魔獣の左目を正確に撃ち抜く。はずだった。魔獣は少女の魔力の高まりを察知し、咄嗟に体勢を逸らしていた。そして放たれた水刃は、魔獣の左肩の毛皮を滑るように彼方へと消え去った。
「あ……ああ」
少女は絶望した。この後自分たちの訪れるであろう未来を想像してしまったのだろう。
「お姉さん……」
それにつられてもう一人の少女も涙声とともに地面にへたり込んだ。
「はぁはぁ。【ファイアボール】!」
渾身の力を込めて放った少年の火炎弾も虚しく手元で不発となった。
「ああ……」
少年の顔も生気が失われる。同時に悟ったのだ。もう自分たちは助からないと。
「何で……こんな……」
「もう無理なの……?」
「嫌。嫌ぁあああ!」
少女が水魔法を放つも、ダメージは認められない。
「ゴァアアアア!!」
激昂した魔獣が突進の構えを見せた。
(もう……ダメ……)
魔獣が突進してくるのが見える。魔獣用の重装備もなく、魔力も使い果たした自分たちがあれをくらえば一撃だろう。そんなことを少女は絶望の淵で思っていた。
「【サイクロン】」
突如、暴風が吹き荒れ魔獣が弾き飛ばされた。
(何……?)
「え?」
「ぁ…。」
「間に合った。大丈夫ですか? 少し下がっててください!」
ヒッカが魔獣と少女たちの間に割って入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます