第13話 だろう? 何せ、英雄の剣だからな!
「英雄……」
ヒッカはそう呟きながら幅広のバスターソードを受け取った。
「父さんありがとう。英雄ってどんな人なの?それにこの剣の名前は何ていうの?」
「ん? それはな……」
「それは……?」
「秘密だ!」
「何だよ〜それ。意味わからないじゃん」
「まあそう言うな。風使いは自由を尊ぶんだろ? 何者にも縛られない、お前だけの使い方を見せてやれ。それにこの剣の管理は父さんがしてたんだ。この剣の威力は俺が保証する」
グランは答えになっていない答えをした。
「いいなぁ。兄さんは。僕にも何かちょうだい!」
ローグが羨望の眼差しでグランを見る。
「グランにもあるぞ。開けてみなさい」
グランは大きな箱をローグに手渡した。
「ありがとう! 何だろう?」
ローグは目を丸くした。それは巨大な盾だった。
「父さん。これは??」
「ああ、これもとある英雄が使っていた盾だ。ローグもそろそろ次のステップだしな」
「すごいやこれ!」
盾を構えるローグ。足元は少しふらついている様だ。
「これはどんな人が使っていたの?」
「こいつはな、グラン=ラグウェルって人が使ってた盾だ。十五年前の龍討伐戦でも使われていたものだ。それまでにも多くの仲間たちを死地から守り通したものだ!!」
「ってことは父さんが使ってたものなの? いいの!?」
ローグはますます目を輝かせる。
「構わないさ。王宮でお飾りになるよりは、使ってもらう方が盾も喜ぶだろう。それにお前たちは自慢の息子だからな。そろそろ本物の武器を手にするのも悪くない」
フレアランド王国には武器屋や防具屋はあり、本物の武具はすぐに手に入る。ここで言う本物の武器とは一級品の物のことだろう。
剣も盾もそこらの店ではそうそうお目にかかれない逸品だ。
ヒッカは剣に魔力を込めた。剣が魔力を帯びる。少しずつ、少しずつ……。
昼間よりもゆっくりと魔力を込める。剣は微動もせず、ただ静かにヒッカの魔力を受けとめていた。
「父さん! これすごいよ!」
「だろう? 何せ、英雄の剣だからな!」
グランは愉快そうに笑った。
(これからよろしく!)
ヒッカは心の中でバスターソードに語りかけた。
(明日ジェイクさんにも見てもらおう)
気分が高揚したヒッカはその日、なかなか眠りにつけなかった。
……迎えた次の日。ヒッカはいつもより早めに目を覚ましていた。家の前で素振りを繰り返し、バスターソードの感触を確かめていた。
(これは少し骨が折れるかもな。前の持ち主のせいなのかな? 火属性に引かれてる気がする)
ヒッカの独自研究は朝食を済ませた後も続いた。昨日とは違い、風属性の魔力を込める。剣は見違えるほど軽く感じるようになった。……気がする。
(コイツすごい! 他にもどんなことができるんだろ? っと、そろそろジェイクさんもいいかな? アドバイスもらってこようかな)
ヒッカは剣を鞘にしまい、ジェイクの元へ向かった。
「お前もよく飽きないな。こんな朝早くに」
「それはお互い様じゃないですか? ジェイクさんだっていつも準備万端ですし」
確かに連日ジェイクのところに来ているが、ジェイクは左手に盾を構えている。
その盾を指してヒッカは言った。
「それで? その剣を俺に見せに来たのか?」
「そうです! 父から貰ったんです。なんかすごい人が使ってたらしいんですよ」
そう言いながらヒッカはジェイクにバスターソードを渡した。
「ほ……お。こいつはすごい。」
ジェイクが感嘆の声を上げる。
「お前よくこんな物を貰えたな。そこらの騎士だって持ってないぞ。多分、こいつはミスリルで作られた剣だろうな」
確かにミスリルは貴重だ。父が王宮で保管していたと言うのも頷ける。
「どこにでもあるバスターソードの様な見た目なのは元々の所有者の趣味か、あるいは騎士に属する人間向けにあつらえられた物なのかもな。何かの褒美かもしれん」
ジェイクはヒッカに剣を返した。
(……そんな獲物があれば俺も苦労はしないんだがな)
「ん?」
「何でもないさ」(少し羨ましいがな)
「じゃあ今日も?」
「いいだろう。俺も休んでばかりだと体が鈍ってしまうからな」
ジェイクはすぐにでもつかみかかりそうなほどの態勢をとった。冷静にヒッカはジェイクを連れていつもの場所に向かった。
「はぁはぁ」
「ふぅー」
陽は正午を少し回ったところだった。
「今日は町に戻った後、一度武具の状態を見てくる」
「俺もついてっていいですか?」
「構わないが、そう面白い物でもないかもしれんぞ」
「いえ、ジェイクさんは面白い人ですよ」
(コイツ、話噛み合ってない……)
そう思いながらもジェイクはヒッカに連れられて町に戻った。
「おお。お前さんか。剣の方は終わっておるぞ。見てくれ」
店員に呼ばれた親方がそう言いながら工房から顔を出した。
「どうじゃ」
「……」
ジェイクは剣を受け取り、丹念に細部を確認した。
「良さそうだ。よくもこの短期間で……。感謝する」
「やるもんじゃろ。鎧の方も予定どおり明後日には仕上がるじゃろう」
ジェイクは頷いた。
「ではこの剣は貰っていく。鎧の方もよろしく頼む」
「ああ。それじゃあまたの。こう見えて忙しいのでな」
カカカと笑いながら親方は工房に戻って行った。
「明々後日にはここを出ることになるだろう。しばらく休むつもりだったが、お前のおかげでいい準備運動になった。感謝する」
「いえ、俺の方こそありがとうございます。すごく学ばせてもらいました」
「そうか」
微かに微笑むジェイク。
「さて、と。少しこの剣で勘を取り戻したい。冒険者ギルドで小型の魔獣討伐依頼など受けれないか?」
急に物騒なことを言うジェイク。
「ギルドならここから少し行ったとこにあります。最近の魔獣出現事件でてんてこ舞いだったかと」
「なら話は早い。案内してくれ」
単身で乗り込むつもりなのだろうか。ヒッカは驚いた。
「良いですけど、そんな軽装で行くんですか?」
ジェイクは右手に大型のブロードソード、包帯の巻かれた左手には盾、服装に至っては軽装である。ヒッカのように魔法が込められたマントを羽織っている訳でもない。
小型と言っていたが相手は魔獣だ。一歩間違えれば大怪我どころの話ではない。
「案内はしますけど、俺もついて行きます。さすがに今のジェイクさんだけでは危険すぎると思います」
「ん? 俺はお前にもついてきて欲しいと思っているよ。これからの旅に比べたら造作もないことだ」
「そ、そうですね」
「それにいざとなったら、お前だけでも逃げることはできるだろう。俺もそんなヘマをするつもりはないが、お前を放っておきはしないさ」
その言葉に押されるように、ヒッカはギルドの場所を案内した。
「ジェイク=アンダーソンさんね。Aランク冒険者だなんてなかなかね。それで? 今回はどんな依頼をお探し?」
褐色の姉御肌の受付嬢がジェイクに問いかける。ジェイクはAランク冒険者のライセンスを提示したため、ギルドでの手続きはスムーズだった。
「近場での魔獣討伐はないか? 小型を探してるが絶対にと言う訳ではない」
「そうねえ……」
受付嬢は分厚いファイルと壁の貼り出し用紙を眺めながら呟いた。
「この辺りなんてどうかしら?」
そう言いながら、小型の魔獣討伐の依頼書を八枚、中型の魔獣討伐の依頼書を2枚差し出してきた。ジェイクは軽く目を通し、Bランク、Cランクをそれぞれ一枚、Dランクを二枚選んだ。
「これらを頼む。」
「一気に四つもするの? ウチはいいけど、本当に行けるの? ここ最近は依頼も多いけど、この辺の冒険者達だってレベルは低くないよ」
受付嬢がそう言うも構わずジェイクは答えた。
「構わない。手付金はこれで良いか?」
「知らないよ? まあ良いけど、ここにサインしといて」
ジェイクはスラスラとペンを走らせた。
「よし。行くぞヒッカ。まずはDランクのこの依頼からだ」
ジェイクはヒッカに依頼書を渡しながらそう告げた。
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