第8話 ようこそ! 炎の国フレアランド王国へ!!
ヒッカはライクを村に連れ帰った。
リーサと村長にことの顛末を話し、村を後にすることにした。
魔獣の子どものこともあるが、ヒッカは母からの用事も片付けなければならなかった。
ライクを見送ったヒッカと剣士はそのまま町に向かう。
「じゃあ行きます。しっかり捕まっててくださいよ」
「ああ、よろしく頼む」
ヒッカは【エアライド】を唱え、帰路を急いだ。
ヒッカは剣士と共にライクを村に送る前に互いに少しばかり自己紹介をした。
炎を操る剣士は、とある人物を追って西からここまで来たと言うことだった。身につけた武具は長旅を戦い抜いてきただけあり、そこかしこに損傷の跡が見られる。剣士自身もボロボロの有様だった。
そこでヒッカは帰りがてら、自国へ帰るついでに声をかけた。
剣士は武具をメンテナンスして体勢を立て直したかったようで二つ返事で了承した。ヒッカ自身も豪胆な剣技と強力な魔法を操る剣士に興味があった。
一般的な傾向では、剣士や体術が得意な者は魔法を身体強化のように補助目的で使うことが多い。と言うよりは、補助魔法しか使えない者が多い。心得として魔法を修めていても、攻撃手段して十分な威力まで持ち合うことは少なく、牽制や目眩し程度になることが多い。これは強力な武具を扱うために、常時魔力を身に纏う必要があるためだ。
攻撃以外にも怪我の絶えない前衛職では応急的な自己治療も求められる。単純に魔力のリソースの消費が大きいのだ。そう言う意味では、ある意味では仕方ないかもしれない。
だがこの剣士のように十分な威力を魔法を唱えることができる上に、巨大な大剣をまるで棒切れのように片手で振り回す等はまさに規格外の存在だった。剣士が魔法を修めたのか、魔導士が剣術を修めたのか……。
それはヒッカにとっては些細なことでしかなく、ただ単純にどうやってその境地まで至ったのかが興味の対象だった。
「ジェイクさんは……」
「ん?」
剣士は自らを『ジェイク』と名乗っていた。
「ジェイクさんは普段何をしてるんですか?」
「さっきも言っただろ? 旅をしてるんだ」
「じゃなくて、剣も魔法もどうやって修行してるんですか? ものすごい剣捌きだし、魔法もお手のものだし。俺は今見習い魔法士なんで気になっちゃうんですよね」
「お前で見習いなのか? さすが魔法大国は違うな」
「日々勉強なんで。それはそれとして、どうなんです?」
「そうだな……」
ジェイクは少し空を見上げた。
「やはり実戦だろう。実戦で初めて見えてくる課題もある。それに対してどう解消していくか、だな。次いで学ぶ、休む、食べる、で体の基礎を高める。魔法の世界は奥が深い。どんなに学んでも果てしなく道が続く。現に俺も目標に辿り着いたと思ったら、実はそれがスタート地点だった。なんて事はしょっちゅうさ」
「なるほど。それなら今の目標って何なんですか?」
ジェイクは一瞬、顔を曇らせた。
「……れは」
「?」
「いや、何でもないさ。俺のことよりも自分のことを考えろ。お前にはないのか?」
「俺ですか?」
ヒッカは少し驚いた表情でジェイクに顔を向けた。ジェイクはそれに真剣な眼差しで答えた。
「俺は……超一流の魔導士になることですね。魔法をとことん極めていきたいです。」
「超一流の魔導士か。具体的にどんな魔導士に?」
「そうですね。母が魔導士なので、母の研究に携わって世界を豊かにしたいです」
「ほお。世界を豊かにとは大きく出たな。頑張れよ。こんなのが使えるお前ならなれるだろうな」
「ありがとうございます」
「風魔法ってのは便利だな。風魔法を使えるやつは少し知ってるが、こんなのは中々お目にかかれない」
「実はこれも母から教わったんですよ。めちゃくちゃ忙しいのに毎日俺の訓練にも付き合ってて、本当に仕事好きなんですよ。いや、仕事中毒かも」
「それは結構なことだな」
ジェイクは苦笑した。
やがてヒッカ達は城下町に着いた。
「ようこそ! 炎の国フレアランド王国へ!!」
「ここが……フレアランド王国か。」
物珍しそうに周囲を見渡すジェイク。
「早速ですまないが武器を整備できるところに案内してくれないか?」
ヒッカは胸を叩いた。馴染みの店は知っている。
「はい。こっちです」
ヒッカはとある武器屋の扉を開いた。
「こんにちはー。あ、オヤジさん。お客さん連れてきたよ」
「おお、ヒッカ。元気しとるか。お前の親父はどうだ。こないだの騒ぎでは大変だったろ」
「父さんは相変わらずだよ。っと、まずい。母さんからの用事忘れてた!!」
すっとんきょうな声をあげるヒッカ。
「ごめん。ジェイクさん。俺これから母のとこに行かなきゃならなくて、街の案内はその後でもいいですか?」
「ああ。俺は別に構わないさ。そんな何日も長居するつもりはないが、武具のこともあるしゆっくりしておくさ」
「よかった。お昼は過ぎると思うから……」
そう言いながら、ヒッカは急いで紙にペンを走らせた。
「待ってる間、ここで休んでてください。一泊くらいなら俺でもどうにかできると思うんで話つけときます」
「いや、そんなことまで……」
「それではまた後で!」
ジェイクが言い終わる前にヒッカは店を飛び出していた。
「相変わらず親子揃って忙しないわ」
カカカと店主が笑う。
「それでお前さんの用件はその大剣かい?」
「ええ。長旅の途中故に一度見てもらいたい」
そう言いながらジェイクは大剣を差し出した。使い込まれた持ち手の摩耗や、おびただしい数の刀身の傷がこれまでの戦いを物語っている。
「ほほう。これは中々どうして。こんな作りの剣はそうそう見ないわな」
「修復できるか?」
「任せときなって。それから鎧や盾はどうするんだい?」
ジェイクの鎧や盾もかなりの激戦を潜り抜けてきたようだ。鎧は左肩から先を損失している。凹みや傷も目立つ。盾は木製の簡素なものだった。何かの加護を受けているのだろうか。盾の方がまだ損耗はマシな状況だった。
店主はジェイクの鎧と盾を観察した。
「悪いがウチではこの盾は出来ねぇかもな。補修に使う材料がねえや。鎧の方は何とかなるか」
「そうか。鎧と盾両方お願いしたかったが、鎧だけでも見てもらえるとありがたい」
「分かった。鎧はそっちに置いとくれ。剣が終わったら見ておくさ」
「すまない。鎧の方は左手側の方はこのままでいい。こっちの方が動きやすくてね」
そう言ってジェイクはどかっと鎧を置いた。
「そうかい? そう言うならまあ」
「ではよろしく頼む。お代はこれで足りるか?」
ジェイクは貨幣を数枚差し出した。
「十分だとも。腕によりをかけて突貫で直してやる。明後日にでも寄ってくれ。そこで一度、剣の具合を見てもらう」
「ああ。それでは頼む」
ジェイクはそう言って店を後にした。
一方、ヒッカは西に東へとまさに飛んでいた。馴染みの宿屋に顔を出しジェイクのことを告げ、今度はそのまま母の研究室に飛んだ。王宮前の橋で地面に降り立ち、門番に挨拶をした。母の研究室は王宮内にあった。
「ヒッカ=ロイルです。母からの使いで参りました」
そう言って母からの書状を門番に見せた。
「あいよ。お前さんも大変だったな。学園を襲ったゴーレムを倒したんだって? さすが王宮魔導士の息子だな」
ヒッカは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「早く言ってやんな。でもあんまり走るなよ。」
「ありがとう!」
そう言ってヒッカは足早に母の研究室に向かった。その足取りは軽かった。
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