第2話 へへっ。俺もやるもんでしょ?
「【サイクロン】!」
ヒッカの放った風魔法の威力は凄まじく、そのまま他のゴーレムも同様に破壊した。
土でできたゴーレムに対し、属性優位を取れる風魔法は効果的ではある。そうは言っても数十体のゴーレムを一撃の元に破壊したヒッカの魔法に、皆はただただ唖然とした表情を浮かべている。
「すごいな! ヒッカ!!」
真っ先に声をかけてきたのはガルダスだ。
「ああ、何とかうまくいったよ。」
そう言いながらヒッカは思わず座り込んでしまった。
「あ、ちょっと動けないかも。」
「なら、肩貸してやるよ。ほら。」
「ああ。ありがとう。」
ガルダスの肩を貸りて立ち上がるヒッカ。
そこに何かの飛翔体が影を落とした。ヒッカがその影に気づいた瞬間、突風で吹き飛ばされた。
「うっ」
思わず空を見上げたヒッカの目に飛び込んできたのは巨大なドラゴンだった。
「ゴギャァアアア!」
耳をつん裂く轟音にも似た鳴き声が辺りに響き渡る。
「なんだ…あれ…」
(小型のドラゴンなら何度か見たことはある。あれは大型のドラゴンなのか?)
「ヒッカ!こい!!」
ガルダスに手を引かれ、ヒッカは魔法障壁の中に入った。ドラゴンは魔法障壁に体当たりを仕掛けてきた。ただの一撃で魔法障壁に亀裂が走った。
「手が空いているものは今すぐに魔法障壁に給魔してくれ!!」
ヴェルンが叫ぶ。
「急げ!」
ヴェルンの怒号に自失呆然となっていた生徒達が魔法障壁の修復を行った。魔法障壁の亀裂が直っていく。そこにドラゴンが上空から勢いをつけて降下してきた。
「間に合うか?」
魔法障壁の亀裂は修復されたがその直後、ドラゴンがその巨大な体躯をぶつけてきた。ドラゴンの二度目の体当たりで魔法障壁はあっけなく破壊されてしまった。
このままでは追撃を受けてしまう。そう直観したヒッカ。
「【サイクロン】!」
ヒッカは思わず魔法を放った。幾らかドラゴンの外皮を切り裂いたが、ドラゴンたちまちは姿を翻し、天高く昇った。
「何をする気なんだ?」
ドラゴンが首をもたげ、超高音と共に衝撃波を放ってきた。ヒッカは咄嗟にかわしたが、放たれた衝撃波は修練塔の壁に穴を空けた。
「あんな上空にいるのに、なんて威力なんだ。」
ヒッカは呟きながら、ドラゴンが第二射を放ってくることを直感した。
(この方向はどこにも逃げ場がない。逃げても他のみんなが巻き込まれる……!)
ヒッカは再び【サイクロン】を放った。それと同時にドラゴンも衝撃波を放った。二つの魔力がぶつかる。大気が震えるほどの衝撃ではあったが、ヒッカの魔法は見事ドラゴンの衝撃波を拡散することに成功した。
さすがにヒッカもついに疲れが見えてきた。呼吸が落ち着かない。
(どうする?さすがに撃ち合いは分が悪い。かと言ってあの距離まで【サイクロン】をぶつけるのは厳しい。いっそのこと、距離を詰めて至近距離で……)
その時、ドラゴンは再び衝撃波発射態勢に入ったように見えた。
(こうなったら、やるしか…!)
「【エアライド!】」
ヒッカは高速移動の風魔法を唱えた。ヒッカは風をその身に纏い、たちどころに空を駆けていった。急に自分に迫る敵対者を見て、ドラゴンが一瞬怯んだ。が、衝撃波は放たれた。
「【サイクロン】!」
今日だけで何度目の発動だろうか。咄嗟に迎撃の構えをとり、ヒッカは再び風魔法を放った。風魔法は衝撃波を打ち破り、ドラゴンに魔法をぶつけた。だが、無理な体勢で強引に放った魔法に比べるとやはり、威力が劣るのは明白だった。
ドラゴンにはかすり傷程度の傷しか与えられていなかった。
(くそっ。コイツ、ヤバいくらい強い……!)
「ヒッカー!下がれー!!」
ヒッカは思わず後退しながら声の主人を見た。ヴェルンが炎魔法を構えているのが見えた。ドラゴンはまだ気づいていないのか、ヒッカを睨みつけているままだ。ヒッカはドラゴンから距離を取りつつ、ヴェルンの炎魔法の射線軸上に誘導した。
「ヒッカ! 離れろ!!」
ヴェルンの声を合図に、ヒッカはドラゴンから距離を取った。
「くたばれ!!」
ヴェルンが炎魔法を放つ。さしものドラゴンも回避は間に合わない。はずだった。こともなげにドラゴンはその体躯をよじらせ、炎魔法をかわした。
「くっ!」
ヴェルンが険しい顔をした瞬間、ヴェルンの炎魔法が爆ぜた。ドラゴンの背中に熱風と衝撃が伝う。
「へへっ。俺もやるもんでしょ?」
「ガルダス……!」
ガルダスは自慢の炎魔法を唱えてヴェルンの炎魔法にぶつけていたのだ。大きく体勢を崩したドラゴンは地上へと落下した。
「「よし!未だ!」」
ヒッカとガルダスはそう叫び、得意の魔法を放った。
「【サイクロン】!」「【メギドフレア】!」
荒れ狂う嵐と灼熱の火炎が一つに重なり、大きな爆発を巻き起こした。
「グガァァァ!」
ドラゴンのうめき声が聞こえる。
「どうだ…?」
「手応えはあったかな。」
噴煙の先を見据えるヒッカとガルダス。
「「!!」」
凄まじい風が巻き起こり、二人は思わず構えをとった。
「グ、ガァァァァ!!」
体の一部が赤熱化したドラゴンが空へ飛び立った。
「そんな……」
ガルダスの顔に狼狽が窺える。
「……」
ヒッカは無言で彼方のドラゴンを見据えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます