第8話大狸

譲「もう六月かぁ…風が少しずつ湿ってきたね」神楽「我の毛に湿気は大敵だ。何とかならぬものか…譲「ははっ神楽は普通の白虎よりも毛が長いからねぇやっぱり不快感も違ってくるのかな?」神楽「そうであろうな。この世で一、二を争う位嫌いなものといっても良い位だ。」銀太「その一、二を争うその次は何ですか?」神楽「いずれ分かるだろう。」譲「けち―!」神楽「ケチではない!」こうしてやいのやいのと話が弾んでいた―そこに一匹の子狸が道路を渡ろうとしていた。譲「危ない!」キキキーッ!済んでのところで譲はバイクを止めた。「妖しの気配がする…君、そんなに急いでどこへ行くの?」子狸「僕が妖しって分かるんですね!?あの…あの…人間さん、助けてくれませんか!父が…父が!」譲「落ち着いて、話は聴くからなにがあったんだい?」「父が住居にしている廃寺で暴れまわっているんです!」譲「それは大変だ!すぐ行こう、案内してくれるかい?」子狸「はい!」譲はバイクにその子狸を乗せ走らせた。子狸「あそこです!右に曲がったところにあるお寺です!」譲達はバイクを降りると階段を上っていった。階段を上りきると目の前に見えたのは四、五メートル位だろうか、巨大化した狸だった。譲「ねぇ君、父君があの大きさになったのには訳があるんだろう?話してくれないかい?」子狸「はい、実は母が出掛けたきり戻ってこなくて、どうやら罠にかかって人間に捕まったらしくて、今日それが分かって父が取り返しに行って人間を懲らしめてくるって利かなくて…。」譲「それであの姿か…子狸君、多分なんとか出来る…ううん説得して見せるから、兄弟もいるんだろう?少し離れていて。」譲は父狸と対峙した。「人間め!何をしに来た!」譲「初めまして、私は一之瀬譲、こっちは神楽と銀太、貴方のお名前は?」父狸「答えてやる義理は無い!嫁をどこに連れていった!?答えによってはただでは帰さぬぞ!」譲「少し落ち着いてください。」父狸「これが落ち着いていられるか!三十年連れ添った間柄で明日記念日だから祝うはずだったんだぞ!それをお前達は…!」譲「そうだったんですね、おめでとうございます!奥様の様子を私が見てくるので怒りを鎮めてくれませんか?」父狸「駄目だ、人間にろくなやつはいない、石つぶてをぶつけてくる奴、捕らえてペットにしようとした奴、俺たちは静かに暮らしているだけなのに!誰に迷惑をかける訳でもなくだ!」譲「ではどうされたいですか?」父狸「お前達を鍋にして喰ってやろうか…境内に吊るして他の人間避けにしてやろうか…」譲「あくまでも人間と対峙する気なんですね…分かりました、そっちがその気なら一戦交えましょう。」父狸「後で泣いて叫んでも知らぬぞ」譲「安心してください、勝つ気でいますから。」父狸「 生意気な!行くぞ!」譲「銀太!火炎!」銀太「はい!」ゴオォォ!!火の塊が父狸めがけていくつも向かっていった。父狸「なんの!」父狸は火の塊をものともせず向かってくる。譲「東西の神・南北の神・我に力を与えよ、十九夜の刀!」すると護の手に刃が太く黒い刀が現れた。譲「真剣勝負です。行きます!」譲は走っていって刀を振るった。ガキィィン!父狸はその刃を口で受け止めた。譲「くっ!駄目か…」譲は長い呪文を唱え始めた、その間神楽が元の姿になり父狸の相手をしていたがさすがに神獣相手では敵わず父狸はだんだん弱っていった。譲「―白神の刀。」譲は向かっていって思い切り刀を振るった。その直後父狸が急に元の狸の大きさに戻った。「父様!」「父ちゃん!」「父上!」子狸達が堪えきれず飛び出してきた。「俺はいったい何を…?」父狸の様子が変わった。父狸「何だ何だ、皆泣いて」子狸「父様あの人間さんに倒されちゃうところだったんだよ!?」子狸「父様が先に手を出したから!」子狸「いつも僕達に言ってるじゃないか!無益な殺生はしないって」父狸「すまんがあまり覚えておらんくてな…」子狸達「それはあまりにひどいです!」護「子狸君達、大丈夫僕のせいだよ、僕が使った白い刀は身体を鎮める効果があるから。父狸さん、奥様が連れていかれたのは覚えていますか?父狸「ああ、そうだったそれで怒りに身を任せていたら身体が大きくなって…そうだった子供達にも怒鳴ってしまったな。」子狸「僕たちの事は良いの、人間さん、母を連れ戻してきてはくれませんか?」譲「ああ、出来る限りの事はするよ。だからみんな静かに待っていてくれないかな?」父狸「分かった、頼む…」廃寺を後にした一行は難儀していた譲「とは言っても難しいだろうなぁ…もう罠から外されてどこかに連れていかれたら痕跡を探すのは…」銀太「護どの!おらは鼻が利くのでお手伝いできるかと!」譲「おお!頼もしい!ありがとう銀太」譲達は母狸がかかったという罠のところまで来た。譲「やっぱりもういないか…銀太、お願い。」銀太「分かりました!」ふんすふんすと辺りの匂いをかいだ。銀太「譲どの!こちらです!」そして探すこと二時間後着いたのは譲「野生動物保護センター…?」銀太「ここで匂いが途切れています!」護が受付をすませ中に入ると兎や鹿、猫や犬等が集められていた。銀太がある檻の前で止まった、銀太「こちらのかたです!」譲「道案内ありがとう銀太、狸さん、僕達は廃寺に住んでいる父狸さんからの依頼でこちらに来ました。貴方が母狸さんで合っていますか?」母狸はこくこくと頷いた。母狸「私で間違いありません、ただ今は片足を怪我していて動けません。罠の怪我は大したことはないのですが、その前から足を悪くしていたもので…人間が保護してくれなければ私は死んでいたかもしれません」護「そうだったんですね…」護は考えた後譲「母狸さん、この扱いはお嫌かもしれませんが、元々私のペットだったことにして貴方を連れ出します。傷は私が癒せますので…いかがですか?」母狸「そんなことが可能なのですか?でしたら是非お願いしたいです!」護は受付で書類などの作成をした後戻ってきた。譲「大丈夫でした、お住まいに帰れますよ。」そして廃寺へ着くと子狸達が集まってきた。譲「待って待って、お母さんは怪我をしてるから先に治させて!東西の神・南北の神・白・砂・血・力を貸したまえ・暖かな血を巡らせ!」譲が唱えると暖かな風が吹き母狸の足は治った。母狸「何から何までありがとうございました。」そういって母狸は深々と頭を下げた。譲「いえいえ、さあ旦那さんのところに行ってあげて下さい。」母狸は一礼すると父狸のところに行った。母狸「あなた!これだけ人様に迷惑をかけて何も言わないの!?」父狸「す、すまんかった…」母狸母狸「もっと丁寧に!」父狸「申し訳なかった…今後は態度を改める、この通り許してくれ。」譲「僕が同じ立場にたったら同じ様なことをしていたかもしれません、貴方のお気持ち受け取りました。」どうやら平和的解決がされたことを察知して子狸達が嬉しそうにお腹をぽんぽん叩いた。譲「今日は日も暮れてきましたし、これで失礼しますね。奥様も怪我が治って良かったですし、子狸君達もこれで安心できるね。」子狸「うん!ありがとう人間さん!今度は遊びに来てね!」階段のところまで見送られながら護達は廃寺を後にした。譲「あんまり長居すると情が移っちゃいそうだったよ。妖しとは適度な距離を保―銀太?銀太は大丈夫だよ、弟子入りしてくる妖しなんて銀太が初めてだからねぇ~」銀太「そうなんですか?譲どのの力を見たら弟子入りしたい方がわんさか来そうですのに…」譲「みんな僕の力を見たら恐れて離れていく者がほとんどだよ?」銀太「そうですか…少し寂しいですね。」譲「まぁ神楽がいるからね、寂しくはないよ今は銀太だっているし。ありがとう神楽。」神楽「我は負けた身故何も言えぬが興味があってな。譲の行く末を見たくて追従しているまでよ。」譲「僕も死に物狂いで戦ってようやく…って感じだったから今はどうだろうね、それより今夜の寝床を探さないと!僕はもう今日はくたくただから屋根のある場所で眠りたいんだよ!」銀太「おらも今日は沢山歩いたので疲れました…」神楽「お前達これ位の事で疲れていてはもっと強力な妖しに出くわしたらどうする?」譲「神楽がいる」銀太「神楽どの」神楽「ええい、二人揃って!しょうがない今日は二人ともよく働いたからな、我に背を預けて眠るがいい。」譲「わぁい!神楽のお腹に背を預けて眠るなんて何年振りだろう!ハッ!銀太効果?ありがとう銀太!」銀太「へっ?」神楽「…今夜限りだぞ。」その夜神楽は日が出るまで譲と銀太に背を預けられていた。神楽「(小声)たまには誰かの温もりを感じながら眠るのも良いものよの…」そして朝になり譲「う~ん…神楽のお腹が気持ち良くていい夢を見れたよ~!神楽のもふもふをもっと味わっていたかったなぁ」神楽「そう易々と我を寝床にするな!」銀太「本当に夢見心地とても良かったです~」神楽「む…一度…きりだからな!」護はにやにやしながらその光景を見ていた。譲「さて、それじゃあ行きますか!」こうしてまた旅が始まるのだった。

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