連続魔法殺人事件

ナ月

第1話 CASE0【カプリコ調査員はシチューに顔を突っ込んで死ぬ】

 一生懸命がんばったから、誰よりも時間をかけたから、血反吐するまで自分を追い込めたから。

 だからうまくいくなんていう保証はどこにもない。

 俺だって精一杯やってるさ。

 誰か認めてくれよ。40代中年おっさんの俺の人生を。

 でも、俺の想像力は俺の枠を超えることはないし、俺は、同客観的に見ても、社会の歯車にさせていただいている側の人間だ。

 RRR、RRR……

 金も女もない。部屋は雑誌やゴミやアレやらソレでごちゃついていて、足の踏み場もないので踏み固めて歩くしかない獣道と化している。

 デスクがゴミ山でひときわ盛り上がっていて、三つある灰皿はどれも吸い殻のピラミッドができている。

 RRR、RRR……

 シワだらけの黒いカーゴパンツ。ビールっ腹が出ないようにデカめに買った灰色のシャツに、襟がよれて波打っている黒いコート。

 厚底のブーツは、べこりと爪先が凹んでいる。

 RRR、RRR……

 首元には二枚のドッグタグ。

 無精ひげに白髪が交じってきたボサボサの頭。

 これらを、だらしないと思う段階はとっくに過ぎている。

 RRR、RRR……

 鳴り響く電話音。

 電話音。ああ、鳴ってたか。

 えーっと、魔導端末、どこにしまってたかな。

「こちら魔法執行人(ケルベロス)」

 俺は政府の飼い犬。

 死ぬほど危険な仕事を危険手当なしでせざるを得ない、しがない社畜である。

「魔導人形が殺された。至急、現場に迎え、ネモ」

「はいほー」

 電話口から聞こえる同年代の上司に顎で使われる日々。

 いつだって、言われたことをやるだけ。

 右と言われたら右。左と言われたら左。

 それで俺の世界は、今日も誰かの都合のいいように流れていく。

 

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