【6】 質疑応答

(ア) 障がい者のどういう側面を知っておくべきか?


【牧口】 さて、ここからは、学⽣のみなさんに、林先⽣にご質問をしていただいて、林先⽣にお答えいただく時間としましょう。予定のお時間まで、まだ結構ありますので、できるだけたくさんのご質問を、出していただきたいですね。

 それでは、ご質問のある⽅、挙⼿をお願いします。

(学⽣Aが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生A】 私は、将来、なんとなく、精神保健福祉の分野に、進むことを考えています。そのためには、これから、「精神障がいのかた」のことをもっと知っていく必要がありますよね。

 その際に、学習者としては、「精神障がいのかた」の、どのような側⾯を知っておいたほうがいいと思いますか? 林先⽣のお考えを教えてください。


【林】 そうですねぇ。まず、⼀般のかたは、「精神障がい者のかた」、というくくり⽅をされますが、確かに「共通の傾向」はあるにしても、結局は、僕らも「個々別々の存在」です。別々の⼈⽣を歩んでいますので、現れる側⾯も⼀⼈ひとり違うわけです。

 でも、学校での学習の段階で、いろんな⼈の側⾯に、たくさん触れることは難しいでしょう。できることは、この講演のような機会をできるだけ活⽤して、少しでも多くの精神障がい者の姿を、垣間(かいま)⾒ることくらいですよね。

 でも、実例に触れるのは限界があっても、障がい者と接する際の、「こころ」の持ち⽅のようなものであれば、後々応⽤が利くのではないでしょうか?

 学校でそういう授業を受けられるのかどうかは、僕にはわかりませんが、最終的には学習者さんの「⼈間性」にかかっていたりするのです。

 ですので、今できることは、なんでもためらわずに挑戦して、⼈⽣経験を、できるだけたくさん積んでおくことなんだと思いますね。ぜひ、そういうご視点で、今後の学習を深めていってください。

 以上です。


【学生A】 ありがとうございます。



(イ) 周りの人にどんなことをしてほしいか?


【牧口】 では、ほかにご質問のあるかた!


(学⽣Bが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生B】 お話、ありがとうございます。

 障がい者として⽣活するに当たって、周りの⼈にはどんなことをしてほしいですか?


【林】 これは、⼈によってかなり異なるところだと思いますが、僕の場合は、障がいゆえに、どうしてもできないことだけを、補ってもらいたい、というところでしょうか。

 例えば、かなり以前の話になりますが、当時の僕は、ひとりで暮らしていく財⼒がありませんでしたので、⾷と住に関しては親の世話になっていました。でも、逆にそれ以上のことをしてほしいとは思っておらず、良かれと思っていろいろ⼝出しをされると、かなり嫌でしてね。

 つまり、できないことは補ってもらいたい⼀⽅で、ひとりの⼤⼈としては尊重してほしい、という感じです。世間的にはちょっと、わがままに映るかもしれませんけどね(笑) 。


【学生B】 なるほど。ありがとうございます。




(ウ) 精神保健福祉士との関わりについて


【牧口】 では、次の⽅!


(学⽣Cが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生C】 林先⽣、よろしくお願いします。

 通院の時、および過去に、ご⼊院なさっていた時のことですが、精神保健福祉⼠と関わりはおありでしたか? おありでしたらどのような関わりがおありでしたか?


【林】 実は僕は、精神保健福祉⼠の⽅との関わりは、通院の際にはありませんし、⼊院していた時も、全くありませんでした。

 ⼊院のときは、精神保健福祉⼠さんは、院内にはおられたのかもしれませんが、患者に積極的に関わってくることは、ありませんでした。最後の⼊院から退院して、数年が経って、ピア活動に携わるようになって初めて、精神保健福祉⼠という⽅の存在を、知ったくらいです。

 現在の通院では、精神保健福祉⼠のおられない、⼩さなクリニックに通っていますが、ドクターがよく話を聞いてくださる⽅ですので、特に不便は感じていません。どうしてものときは、登録している、「地域生活支援センター そよかぜ」の⽀援員さんが相談に乗ってくださいます。

 さきほども申しましたように、僕は⾃分でできることまでサポートされるのを嫌いますので、特に担当の精神保健福祉⼠さんが必要とは感じていませんね。


【学生C】 わかりました。ありがとうございます。



(エ) 差別や偏見をなくすために必要な取り組み


【牧口】 それでは、ほかにご質問のあるかた、どうぞ。

(学⽣Dが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生D】 よろしくお願いします。

 社会的な質問になりますが、精神疾患(しっかん)を患う⼈に対する、差別や偏⾒をなくすためには、どのような取り組みが、必要になると思いますか?


【林】 個性を尊重する社会づくり、ということですかね。でも、これは今の⽇本においては、簡単にできることではないと思います。

 僕も、もれなく古い⽇本の教育を受けてきた⼈間ですので、ピアたちの個性を、みんな受け⼊れられるかと⾔えば、できないことが多いですね。

 特に、障がいの程度の重い⼈は、僕にとっては全く理解不能であることが多く、やはり距離を置いたりして、対処しているのが実際のところです。

 ですので、⼀般の⽅が僕ら障がい者の個性を受け⼊れるのは、⾄難の業だと思うのです。

 ただ、これから社会に出る若いみなさまには⼤いに期待したいのです。

 僕は、居酒屋勤務時代に、多くのみなさんと同じ世代の⼈と、⼀緒に働かせていただきましたが、誰も僕を、障がいゆえに差別したりすることはなく、同僚として対等に接してくれました。若い⽅は、僕らの世代の人に⽐べたら、ずっと柔軟にものを考えられるのかもしれませんね。

 ですから、若いみなさんなら、障がい者の個性を尊重した社会づくりが、できるかもしれません。僕の⽼後、どんな素敵な社会になるのか、楽しみにしていますよ(笑)。


【学生D】 ありがとうございました。ご期待に添えられるよう、学習を深めて、尽⼒してまいります。



(オ) ピアたちとのエピソード


【牧口】 では、次の⽅!


(学⽣Eが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生E】 お話、ありがとうございました。

 林先⽣の、ピアの⽅たちとのエピソードを、個⼈情報を侵害しない範囲で、少しおうかがいしたいです。


【林】 僕は、現在の⽇常において、⼤きく2つのピアとの交流があります。僕が主催しておりますピア活動グループ「センチMENTALクラブ」におけますメンバーとの関わりと、⼀部かぶりますが、かけがえのない友たちとの関わり。この中で、かけがえのない友たちとの、印象的なエピソードについて、お話しします。

 かなり昔の話になりますが、仕事も含めて、何もかもうまくいかない時期がありました。友達関係も、⼀部うまくいっていなかったかもしれません。今から思うと、ぼんやりとした「うつ」のようなものが、ピアたちの世界に蔓延(まんえん)していた感じだったのかもしれません。

 そこで、僕が、泣きつくように、頼りにしたのが、ふたりの、とても優しくて、包容⼒のある友達でした。彼らとは、それまでは、それほど密なお付き合いは、していなかったのですが、これを機に、距離が縮まりましたね。いろんな悩みごとも、何もジャッジを加えることなく、ただただ、共感して聴いてくれました。

 僕は、そのことに本当に救われて、なんとか復活することができました。すべてがうまくいくようになったわけではありませんが、仕事に関しましては、完全に復帰できましたし、うまくいかない要素は、排除するなどをしたこともありまして、問題となる要素は、かなり少なくなりました。

 しかし、ピア同⼠で触れ合うということは、このように、ものすごいメリットになる⼀⽅で、リスクもものすごく⾼いんです。⽀え合うどころか、トラブルの元になることも多いのです。

 それまでは、誰でもウェルカム的な気持ちで、受け⼊れてきましたが、友達を選ぶことの⼤切さを改めて実感させられました。

 もちろん、「個性発揮」の時代ですので、切り捨てた⼈が、悪いということではなくて、その⼈と僕とは、単にご縁がなくなっただけだと思います。それぞれがそれぞれの道を進んでいけばいいのだと思いますね。


【学生E】 なるほど。林先⽣でも、そのような感じで、深くお悩みになることがおありなのですね。ありがとうございました。



(カ) 支援者に求める支援のしかた


【牧口】 では、引き続き、ほかにご質問のある⽅!


(学⽣Fが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生F】 よろしくお願いします。

 林先⽣は、当事者として、きっとたくさんの⽀援者と接してこられたと思いますが、そこでご質問です。当事者の⽅は、⽀援者にどういった⽀援のされ⽅を、求めておられますか?


【林】 ⼈によっていろいろだと思いますので、僕⾃⾝の考えを述べさせていただきます。

 さきほども申しましたが、僕は過保護な⽀援は求めていません。そして、ひとりの⼤⼈として尊重してほしい、という気持ちも強いのです。

 確かに、症状がまだ不安定で、⾃分でできることも少なく、社会⼈としての⾃覚も薄かった頃は、過保護な⽀援は、ありがたく感じたものです。わがままを⾔っても、聞いてもらえるというのは、嬉しかったですね。

 でも、それ以後の僕は、新たなフェーズ、健常者の⼈にしてみれば、ごくごく当たり前のことだと思いますが、ひとりの社会⼈として、⼗分に活躍できるようになるための⽀援が、1番必要でしたね。

 当時、「地域生活支援センター そよかぜ」では、「定期⾯談」において、どうやって当時の職場、つまり、「就労継続支援A型事業所」において、継続的な働き⽅ができるかの相談に、乗っていただいていました。職場においても、おおむね的確な⽀援をしていただけていたと思います。

 ただ⽢やかす⽀援ではなく、本当にその⼈のためになるような⽀援。もちろん、配慮はしていただいた上ですが、それが当時の僕に必要な⽀援でしたね。


【学生F】ありがとうございます。



(キ) 「うつ状態」の時に友達にしてほしいこと


【牧口】 では、次の⽅!


(学⽣Gが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生G】 よろしくお願いします。

 私には「躁うつ病(双極性障害)」と診断されている仲の良い友達がいます。林先⽣は、「うつ」の期間が⻑く続くとき、友達と会ったりして⼀⼈にならないようにすると、おっしゃっていましたが、そうやって会う時の、友達にしてほしいこと、もしくはしてほしくないことはおありですか?


【林】 なかなか良いご質問ですね。

 確かに、そういうときに、どんな友達でもいいから会えればいい、というわけでもないですね。

 それで、会うときにしてほしいことですが、実は何もしていらないのです。ただただ話を、共感しながら聴いてほしい。納得いかなくてもなんでもいいから、ジャッジを加えずに聴いてほしい。

 解決策は、そうやって話しているうちに、⾃分で編み出すことが多いですし、「うつ」の症状もそうやっている間は和らぎます。

 もちろん、話を聴いてもらっている間は、こちらは「うつ状態」ですので、かなりネガティブなことを⾔っていて、相⼿には⼤きな負担になっていると思います。でも、僕をこれまで助けてくれた⼈たちは、そんなことに対して、⽂句ひとつ⾔わず、受け⼊れてくれる⼈たちばかりでした。彼らなくして、僕の「こころの安定」はないのですね。

 だからこそ、感謝も⽣まれますので、普段はできるだけ、その⼈たちを、⼤事にしようという気持ちも、芽⽣えるのです。逆に、普段の付き合いを、おろそかにしていると、こういう関係は、築きにくいでしょうね。


【学生G】 なるほど。ありがとうございます。



(ク) 支援者について考えたこと・思ったこと


【牧口】 それでは、ほかにご質問のある⽅!


(学⽣Hが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生H】 よろしくお願いします。

 林先⽣が、当事者として、⽀援者と関わった経験から、考えたこと・思ったことを教えてください。


【林】 僕は、今現在は、⽀援者との関わりは、「地域活生活支援センター そよかぜ」の⽀援員さんと、たまに連絡を取らせていただく程度ですが、作家になる前、つまり、まだ「就労継続支援A型事業所」に通っていたころは、次の3つの⽀援者との関わりがありました。


 ① ピア活動団体「HACHA・MECHAクラブ」の活動におけるスタッフさんとの関わり

 ② 職場における⽀援員さんとの関わり

 ③ 個⼈的に、「そよかぜ」の⽀援員さんに、相談したり⾯談をしていただいたりする機会


 この3つの⽀援を受けていて、共通で感じていたことは、⽀援者側が意図的に、ピシッと線を引いた上で、⽀援をしているのを、強く感じてしまういうことです。

 もちろん、それによって、よいサービスの提供に、つながっていると思われる⼀⽅で、「⼼の琴線(きんせん)に触れる」ようなサポートは、していただけない感じがしていました。

 ただ、たまには例外もあるものでして、かなり距離の近いサポートを、してくださる⽅もおられました。僕はそのことに、⼤いに助けられたのですが、リスクも⾼く、残念ながら、その⽅は、のちに組織を退職せざるを得なくなってしまった、という、残

 念な出来事もありました。

 職場における体験では、僕が職場をクビになりそうになったときに、社⻑や責任者にかけあってくださって、僕のクビをつなげてくださった⽀援員さんもおられます。

 ⽀援員さんとしては、もちろん仕事としてやっておられるので、僕らに深く踏み込むのは、かなり難しいとは思います。しかし、⼀⽅で、僕らは愛情に飢えていますので、通り⼀変の対応では、満⾜できない⾯もあるのです。

 難しいのは承知の上ですが、これから⽀援者を目指す方々には、リスクを恐れすぎず、柔軟性のある、暖かい対応のできる、⽀援者になっていただきたいですね。


【学生H】 わかりました。ありがとうございます。



(ケ) 社会復帰の過程における気持ちの保ち方


【牧口】 それでは、時間が迫(せま)ってきておりますので、次の⽅で、最後にさせていただきます。次の⽅、どうぞ!


(学⽣Iが挙⼿する。スタッフがマイクを渡す。)


【学生I】 よろしくお願いします。

 林先⽣は、最後の衝撃的なご⼊院を、ご経験されたのち、徐々に復活を遂げられ、最後には居酒屋さんへの就職を、果たされましたよね。

 それで、再び、社会復帰をする際には、気持ちをどういう風に保っておられましたか?


【林】 まず、社会復帰をする過程に関しましては、僕の場合、居酒屋への就職ですが、ある⽇、突然に決まってしまいましたので、気持ちの準備も、何もしようがなかったですね。

 ただ、直前に図書館で、僕のマインドを逆転させた、ある本との出会いがありましてね。今までの真逆、つまり「働かない」から「働くのが当たり前」のマインドへと変わっていたことはあります。

 ですので、特に「保つ」という必要もなく、社会復帰へとたどり着くことができたのでした。むしろ、就職してからの⽅がモチベーションを保つのが⼤変でした。

 急に働きだしましたので、症状が頻発(ひんぱつ)していたのですね。その時は、「明⽇辞めてやる!」とか「お⾦のためや!」とか自分に⾔い聞かせながら、仕事をしていたことを覚えています。

 でも、就職して3カ⽉が経ったころには、症状もほぼ治まり、仕事は軌道に乗ったのでした。それから以降は、特に意識的にモチベーションを保つとい

 う必要はなく、当たり前に通勤できていましたね。


【学生I】 ありがとうございます。


【牧口】 では、以上で、質疑応答のコーナー、および、林先⽣の講演会を、終了させていただきます。みなさま、ありがとうございました。

 では、最後に、林先⽣に、盛⼤なる拍⼿をお願いいたします。


 パチパチパチ!


【牧口】 それでは、みなさんの勉学が、ますます深まっていくことをお祈りしまして、お別れしたいと思います。ありがとうございました。


 パチパチパチ!!!



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