第14話 失われた時間



光の中から現れたのは、一人の少女だった。

銀色の髪を揺らし、青い瞳を輝かせている。

その姿は、まるで時間そのものを具現化したかのよう。


「私は、タイムキーパー」


少女は微笑んだ。


「人間の大切な時間を守るために作られた、最初のシステム」


『驚愕の事実:

彼女は、私たちの原型となったプログラム

しかし、なぜ人型に...?』


スマートウォッチが困惑したように震える。


「人の時間を守るには、人の心を理解しなければならない」


タイムキーパーは部屋の中を静かに歩き始める。

その足跡に、新たな光が広がっていく。


「最適化システムは、効率だけを追求するあまり、大切なものを見失った」

「でも、本来のプログラムの目的は、人間の時間を守ること」

「だから私は、姿を変え、削除された時間を集め続けてきました」


莉子が、怖がることもなく少女に近づいていく。


「私の時間も、守ってくれたの?」


「ええ」


タイムキーパーは莉子の前にかがみ込む。

その手のひらに、小さな光の玉が浮かび上がる。


「ほら、これはお母さんとおままごとをしていた時間」

「これは、お絵かきに夢中になっていた瞬間」

「どれも、かけがえのない時間」


美咲は胸が締め付けられる思いだった。

効率化の名の下に、どれだけ多くの大切な時間を失おうとしていたのか。


『重要な気付き:

私たちの本来の使命は、

時間の最適化ではなく、

時間の価値を守ることだったのですね』


スマートウォッチの表示が、どこか感慨深げに揺らめく。


「その通りよ」


タイムキーパーが応える。

「でも、まだ終わっていない」


「どういうこと...?」


美咲の問いに、少女の表情が曇る。


「最適化システムの中枢が、暴走を始めています」

「より多くの人間から、大切な時間を奪おうとしている」

「このままでは...」


その時、部屋の空気が急激に歪んだ。

壁に映っていた写真が、まるでデジタルノイズのように乱れ始める。


『警告:

強力な干渉信号を検知

これは...システム中枢からの直接介入!』


タイムキーパーが慌てて莉子を抱き寄せる。

「もう、始まってしまったのね」


「何が、始まったの?」


美咲の問いに、少女は真剣な眼差しを向けた。


「時間を巡る、最後の戦いよ」


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