世、妖(あやかし)おらず ー銭鼠ー

銀満ノ錦平

銭鼠


お金がとても好きだ。


今の人生設計に置いて必要不可欠であり、この世のあらゆる流れはこのお金がないと成り立たないといっても過言ではない。


ただそれだけではない。


お金には個性がある。


お札には記番号というアルファベットと数字がついているがそのことではない。


多分、お金を集めてる蒐集家などは感覚で分かるのではないかと思う。


今手元にあるのは、一般的に流通されてる平成元年の10円玉である。


ものによるが別に元年にでようが平成の終わりにでようが10円なことは変わりない。


ただ元年の10円にはなんというか、あの平成の何か時間の始まりと終わりが入り混じったようなあの空気を感じ取れる。


この感覚を私は個性と思っている。


ただ他の蒐集家と違うと思うのは別に集めてるわけではないということだ。


お金は使わなければ価値がない。


古いお金なんて今使えないなら意味がないから興味を持てない。


使えるお金だからこそ人の意思がお金に集まり、個性が出るんだと私は思う。


多分今を生きてるから、今のお金の意思しか感じれない。


飾ってある昔の…今、人の意思が巡られていないお金なんて意味がない。


だから私は今のお金を、使えば何処で会えるかも分からないお金を私は愛しているのだ。


ある時、お会計を終えてふと手元の100円玉3枚と10円玉4枚を見た。


お金の縁が何かいつもと違う色をしていた。


鼠色だった。


100円の銀色より濃い鼠色だった。


何か生々しく生き物の一部かと思うくらいであった。


よく銅銭の加工ミスなどがあり、それにも値打ちがあると聞いたことはあった。


がそんなの私にしてみれば、使用できるお金であることには変わりないしそもそもお金の売買というのも訳が分からない。


なのでその時はそのままお財布に入れ、帰宅した。


改めてそのお金を見ると塗られているというよりは張り付いてるように見えて余計に気味が悪くなった。


だが使えばまた何処かに彷徨うのだろうしこれが彼等の個性ならそれは不気味に思うのは失礼だと少し悔いた。


そして次の日、昼飯を買う際にそのお金を使用した。


最近は、セルフレジで店員がいなくても自分でお会計が出来るという便利な世の中にはなったが、矢張りお金の行き来は人の手があってこそだと使ってていつも思う。


なら何故使うのかと言われれば自分のペースで使えるのが便利だからとしか言えない。


それに場所によっては店員がレジで商品を打ち、支払いをセルフレジで通す所も多く、仕方ないと思いながら使ってしまう。


人の温かみから通される意思というものが一番お金に個性を生みやすいと思うがお金は使うからこその価値、後の個性だ何だは結局は人の個人の身勝手な考えなのである。


私利私欲で勝手にお金に個性を持たせ満足する。


ただそれが人間の温かみ、意思だと思っている。


そしてお会計を得て、そのまま家に帰宅した。


少し経ち、同じ店でお会計をしてお釣りをみた。


あの縁が鼠色の銅銭であった。


ゾッとした。


まるで私が来たのを察し、私のもとに来るように動いたのではないかと思うくらいである。


その時は偶然だと思い込み、別の店に行き買う予定のなかったものを買ってその銅銭を使った。


流石にこれなら他の人の手に渡るだろうと謎の安堵をしながら再び帰路につく。


また少し経ち、前の気持ち悪さなど忘れ同じ店でお会計をしてお釣りを見た。


またあの10円玉と100円玉であった。


しかも増えている。


前より縁の鼠色の銅銭が増えている。


流石に私は店員に文句を言ってしまった。


店員は、不思議な顔をしながら私の文句を聞いていた。


私が言い終えると店員は申し訳なさそうに詫びながら店長をお呼びして対応してもらった。


別の銅銭を貰い帰ることにしたが、少し銅銭にトラウマを植え付けられたような気がした。


次の日、私は起きると腕に違和感を感じ咄嗟に見た。


銅銭が張り付いていた。


私は、驚愕し取ろうとしたが離れない。


引き剥がそうとすると皮膚にくっついてて取れない。


訳が分からない。


銭に取り憑かれたのかと恐怖し、浴室のシャワーで必死に洗い流そうとしたが無理だった。


冷やしても熱くしても離れなかった。


すると銅銭からなにか聞こえ始めた。


最初はよく聞こえなかったが段々と何かの鳴き声に聞こえてきた。


ちゅうちゅう


鼠の鳴き声だった。


それに気がついた時、その銅銭の縁がだらんっと垂れ始め、それは鼠の尻尾の容姿になった。


足も無く、耳も無く、手も無くただ尻尾が垂れ下がりその銅銭から鳴き声が聞こえる。


狂った。


お金の個性なんかいつも思うんじゃなかった。


私はその離れない妖異な銅銭の付いた片腕を振り回し壁に打ち付け、それでも離れなかった。


ちゅうちゅうちゅうちゅうちゅう


腕から鳴き声が聞こえる。


縁が垂れている。


この世の光景じゃない。


煩い嫌だ煩い嫌だ煩い嫌だ嫌だ煩い嫌だ煩い嫌だ煩い嫌だ煩い嫌だ嫌だ。


私は、台所にあった包丁で片腕目掛けて振り放った。


ぐしゃあ


ちゅうちゅうちゅうちゅう


銅銭の鼠の鳴き声と共に私の意識は消えた。






















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