第一章 蒼白の月鋼機

(1)相棒模索

 県大会が終わった帰り際、シラハマ三号のパイロット、ユイが不意に言った。


「串本のスペースポートに帰るんやろ?白浜の温泉で癒されてから戻りいな!」


 なんか、あの一言が妙に優しくてさ。俺ら、彼女の勧めにあっさり乗っかることにした。いや、正直なところ、緊張から解放された俺たちには、休息って言葉が染みたんだ。


 夕陽が海に沈む景色を横目に、温泉の湯気に包まれる。湯に浸かるたびに、張り詰めてた気持ちがほどけていく感覚。なんか、こういうのも悪くない。


 でも、のんびりしてられない。スペースポートに戻ったのはすっかり夜遅くなってた。休日なのに、スタッフ全員が揃って出迎えてくれるなんて、予想外すぎて思わず笑った。


「おかえり!優勝おめでとう!」


 その声援が、疲れを一瞬で吹っ飛ばした。これがチームってやつか。


 夜はもちろん宴会。賞金で豪華にやるつもりが、振り込みがまだ先らしく、主任が立て替えてくれることに。


「優勝祝いなんやから、気にせんでええよ!」


 主任の豪快な笑顔に、俺たちは頭を下げつつも、心からその場を楽しんだ。いや、こういう人がいると、本当に救われるよな。


 翌日からは、県大会でボロボロになったロードラストの修復開始。ちょうど俺の通信高校も夏休み。タイミングは完璧――のはずだった。でも、正直一番気になってたのは次のタッグ戦の相方のことだ。どこにいるんだ?締切まで一ヶ月を切る。焦るな、俺。落ち着け。


 作業を見守るルナの顔が暗い。静かに漏らす言葉に、重さがのっかってた。


「私が月から持ってきた機体があれば…。でも、海に沈んだものを引き上げるお金も力も、今の私にはありません…」


 なんだよその諦め顔。そう思いつつも、俺には何も言えなかった。


 そんな沈んだ空気を破ったのはアヤカだった。工具を置いて、勢いよく息を吐きながら言う。


「どうしても見つかんなかったらさ、クレーン車とかロードローラーの重機を改造して出るわよ。なんとかなるでしょ!」


 …本気かよ。いや、アヤカなら本気だ。ルナが驚いた顔で見上げてたけど、それも無理はない。


「そ、それは必ず負けてしまいます…」


 ルナが首を振る。その目は、目の前で修理中のロードラストに向けられてた。


「ムーンギアには、ルナドライブが搭載されているからこそ、あれだけの出力が得られるんです。地球製のエンジンでは…到底実現できません…」


 その声には確かに重みがあった。月の機体を失った無念と、それがどれほど特別なものだったのか。その思いが言葉に乗っかってた。


 俺は黙って頷きながら、ロードラストの右腕のジョイントを再確認する。このままじゃ終われない。タッグ戦までに、相方も、俺たちの機体も、絶対に準備を整えてみせる。そう思いながら、心の中で静かに決意を固めてた。

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