(3)月機起動
ロードラストの振動が徐々に強まり、操縦席全体に広がる。その振動はただの機械の動きじゃない。まるでこの機体そのものが息を吹き返し、存在そのものを主張し始めているような感覚だった。操縦席の底から背中を通して伝わるその感触に、俺の全身が飲み込まれるようだった。
「これが…動き出すんだな。」
言葉は自然に漏れた。目の前のパネルが薄く光り始め、暗闇に包まれていたコックピット内が淡い青白い輝きに染まっていく。その光は、機械という無機質な存在を超えた「生命」のような力強さを帯びていた。
ディスプレイに文字が浮かび上がる。
『LUNAR DRIVE: INITIALIZATION SEQUENCE STARTED』
「え、英語かよ!」
思わず口に出してしまう。俺に読めるのは「LUNAR DRIVE」とか、一部の単語だけだ。それでも、画面に流れる複雑な数値や文字の羅列から、この機体が確実に動き始めているのがなんとなく伝わる。
「頼む…!」
祈るようにスロットルを押し込む。振動がさらに強まり、低く響く「ブーン…」という音が操縦席全体を包み込んだ。足元では砂が細かく震え、小石がかすかに跳ねる。そのわずかな変化にさえ、この機体が確実に目覚めようとしていることを感じた。
胸部のパネルから漏れる青白い光が徐々に強さを増し、砂浜に柔らかな波紋を描き出す。その光景を目にしながら、俺の鼓動は加速する一方だった。
「すげえ…これが俺の手で?」
心の中で呟きながらも、手のひらに汗が滲むのを感じた。操縦桿を握り直すと、さらなる衝撃が機体全体を駆け抜けた。
『OUTPUT AT 50%. SYSTEMS OPTIMAL.』
ディスプレイに表示された文字が、また英語だ。細かい意味なんか分からないけど、「動いてる」ってことは確かなんだろう。
青白い光が胸部装甲の隙間から滲み出し、コックピット内だけでなく外の砂浜全体を照らし始める。その光が、夕陽の赤と混ざり合いながら広がっていく光景に、俺は言葉を失った。まるで、この瞬間が新しい世界の幕開けを告げているかのようだった。
『ギュイィィィーン…!』
鋭い回転音が響き渡り、操縦席が振動する。低く重い『ドゥン…ドゥン…』という振動音が地面を震わせ、砂が舞い上がる。脚部が僅かに持ち上がり、巨体全体が重心を変えるのがわかった。
「動いてる…本当に!」
俺は目の前で確かに「生きている」としか思えないこの機体を見つめた。
ディスプレイが一段と輝きを増し、中央に最後のメッセージが浮かび上がる。
『MOON GEAR: ACTIVATED』
意味はわからなくても、胸の奥で感じている。この機体が完全に目を覚ましたことを。
外からアヤカの声が聞こえる。
「やったじゃん、あんた。ここまで持ってくるなんてね。」
その声には呆れが混じっていたが、どこか誇らしげな響きもあった。
俺は青白い光に包まれる機体を見つめながら、操縦桿を握り直す。目の前に広がる光景が、まるで「次」を示しているように思えた。
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