(10)月影宿命
俺たちがちょうど会場に到着したタイミングで、司会の声が響き渡った。
「それでは、本県大会の、いえ、全国から世界までの全てのムーンギアバトルのメインスポンサーを務める、Lunar Vanguard for Advanced Leadership and Development社、皆様にはルナヴァルド社でお馴染み、ルシウス・ヴァルドCEOよりメッセージが届いております!」
大スクリーンに映し出されたのは、洗練されたオフィスの一角。重厚感のあるデスクに座るのは、冷静さと威厳をまとった中年の男性だ。白髪が混じった髪はきっちりと整えられ、鋭い眼光が画面越しでもこちらに突き刺さるようだった。
「皆さん、本大会のスポンサーを務められることを、大変光栄に思います。」
落ち着いた声が会場に響き渡る。
「ルナヴァルド社は、人類の未来と発展に貢献することを使命としています。ムーンギアバトルは、その象徴ともいえる競技です。この舞台が、多くの才能を発掘し、未知なる価値を創造する場となることを心から願っています。選手の皆さん、最高の戦いを見せてください。」
一瞬の沈黙の後、ルシウス・ヴァルドは深々とお辞儀をした。場内はその余韻を楽しむかのように静まり返ったが、次の瞬間、割れるような拍手と歓声が湧き上がった。
けど、隣にいるルナの様子が明らかにおかしい。
彼女の顔が青ざめ、小さく震える声で呟いた。
「…お父様…!」
その一言で、俺の頭は一気に混乱する。
「お父様って、あの男が…?」
隣を見ると、ルナは目を伏せていて、何かを言おうとして口を開きかけたが、結局黙ったまま拳を握り締めていた。
ちょっと待て。あの冷徹そうな男がルナの父親?頭の中で必死に状況を整理しようとするけど、さっぱり追いつかない。そもそも、どうしてそんな大物の娘がこんなところで俺たちと一緒にいるんだ?
「ルナ、それってどういう―」
俺が問いかける前に、彼女は小さく首を振った。話せないってことか。まさかこんなところで爆弾を投げ込まれるとはな。訳ありすぎだろ、この子…。
心の中で愚痴りながらも、俺は彼女の動揺が収まるのを待つしかなかった。だが、この大会が彼女にとって単なる戦い以上の意味を持っていることだけは、嫌でも悟らされた。
やれやれ…こいつ、どれだけ背負い込んでんだよ。心の中で深く息を吐きながら、俺はスクリーンに映る男の姿を見上げた。その鋭い眼差しが、こちらを見透かしているような気がしてならなかった。
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