(8)諸行無常
そして、とうとう大会当日、七月の海の日がやってきた。アヤカの運転する大型トレーラーが有田アリーナに到着すると、その巨大な会場を見上げて、俺は思わず息を呑んだ。
「ここが…有田アリーナか。」
昔は「東燃」って呼ばれてた場所で、石油化学製品を生産していた製油所だったらしい。昼間は無数のタンクや煙突が並び、配管が迷路みたいに走っていて、青空の下でその規模が圧倒的で、夜になると、その製油所が宝石みたいに輝いて、山の中腹から見下ろすとまるで近未来の都市みたいだったとか。
でも、その跡地はムーンギアバトルの特設会場として生まれ変わった。巨大なアリーナがそびえ立ち、かつてのタンクや煙突、配管がバトルの背景として利用されているらしい。
「まさにロボットがバトルするには相応しいって感じね。」
アヤカがトレーラーを降りながら、そう言った。
俺は彼女の言葉に頷きながら、複雑な気分でアリーナを見上げた。
「昔は地球の油を担ってた場所が、今や月で生まれたロボットの舞台になるか…皮肉なもんだな。」
俺自身、これが良いことなのか悪いことなのか、正直まだわからない。けど、時代の流れってやつは、こうやって全てを変えていくんだなって思う。
「でも、ムーンギアバトルのおかげでここがまた盛り上がったんだから、悪い話じゃないんじゃない?」
アヤカがそう笑って、トレーラーの後部へ歩いていく。
「まあ、そうだな。」
俺は肩をすくめながら答えた。勝てば、俺たちの名前もこの場所の歴史に刻まれる。それも、悪くないかもしれない。
「さて、やるか。」
トレーラーの荷台からロードラストを降ろしながら、俺は小さく息を吐いた。
今まで積み重ねてきた時間を信じて、俺たちの全力をこの場所にぶつける。それだけだ。
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