第2話 元特撮俳優への仕事
「大丈夫ですよ、
「大丈夫って何がすか」
干支一回り上のマネージャー、吉田さんがぐっと拳を握り締める。この人は少々楽観的なのだ。その明るさに何度も救われて来たけど、欲を言えばもう少し敏腕な人が良かった。
「いやいや、これこれ」
ははは、と笑い飛ばして目の前にスマホを差し出して来る。画面に表示されているのは、一時停止状態の動画だ。タップして再生しろ、とその目が語っている。へいへい、とその画面に触れると、再生されたのは地上波のテレビ番組である。
「これ」
「そう、ドッキリ番組です」
まだ何も言ってないのに、そう、とか言い出したぞこの人。
確かにこれはドッキリ番組だ。何せ画面の右上に『ドッキリチャンピオン』という番組ロゴと、『特撮ヒーローはオフでもヒーローか!?検証!』という企画タイトルが表示されている。
「見てわかると思いますけど、これ、この番組の企画の、元特撮ヒーロー俳優に対してキツめのドッキリを仕掛けるってやつなんですけど」
画面右上に企画タイトルがあるからそうとわかるだけで、開始十秒でそこまでわかるわけないだろ。俳優さんが打ち合わせ会場に向かってるだけのシーンだぞ。
まぁでも俺だってこの番組は知ってるし、そんな企画があるのも知ってる。ヒーローを演じていた俳優は、オフでも果たしてヒーローなのか、というのを検証するドッキリだ。企画タイトルのままである。別に俺達はヒーローの素質があるから抜擢されたわけじゃない。主役を張れるルックスと、『
それでも俺達だってかつてはヒーローに憧れる少年だった。その『ヒーロー』というのはもちろん特ソルだ。何せ俺らが生まれる前からある長寿番組である。その憧れの気持ちがあるからこそ、そのオーディションを受けるのである。まぁ中には事務所から無理やり受けさせられるパターンもあるらしいけど。
でも俺は、昔からヒーローになりたかった。特ソルになりたかった。あれが本物のヒーローではなくて、役者が演じているのだと知ってからも、憧れる気持ちは変わらなかった。ソルジャーキックが演出ありきのやつだと知っても、昭和の時代は本物だった爆破シーンがCGに代わっても、気持ちは変わらなかった。それどころか思いは募っていくばかりだった。何せ、演じてる方が可能性はある。ガチのヒーローは身体能力やら才能やらもかかわって来るだろうし、何らかの不思議な力によって選ばれるにしても適正があるだろうけど、演じるってだけなら見た目さえそれっぽければ良い。具体的に言えば、イケメンであれば良いのだ。
だから俺は、手っ取り早い『ヒーローへの道』として、そのイケメンコンテストへ応募したのである。結果は見事準グランプリ。そして予定通り特ソル俳優になった。ヒーローになれたのだ。俺はあの一年間、確かにヒーローだった。
スマホ画面の中では俺よりも前の特ソル俳優が、仕掛け人である若手アイドルの借金トラブルに巻き込まれている。今回のドッキリは、事務所の偉い人に騙されて借金を背負わされたと相談を受けているところへ、いかにもな風貌の取り立て屋が現れて――という内容のようだ。
ちなみにこの動画は去年のものだが、この番組がきっかけとなってこの先輩俳優は再ブレイクを果たしている。その取り立て屋への毅然とした態度や、仕掛け人のアイドルを身体を張って守ったところが「やっぱりヒーロー!」と再評価されたのである。それまでは俺と並ぶかどうかってくらいの仕事量だったはずだけど、ドラマにバラエティにと引っ張りだこになってる。バラエティにも呼ばれるのは、種明かしでのリアクションまで完璧だったからだ。
「潮君、君もこれに出るんです」
「――え?」
すべて見終えた後で、吉田さんがにんまりと笑う。
出るんです、って。
いやいや、言ったらドッキリにならないでしょうが。
「もう話はつけてあります」
「え」
「近々、君にもこの手のドッキリが仕掛けられることになってます」
「えぇ?」
「さすがに内容までは僕もわかりません。ませんけど、出ることは確実です」
「ま、マジすか」
「見せてやってください、潮君のヒーローっぷり!」
「わ、わかりました……」
そういう経緯で俺はそのドッキリ番組に出ることになったのである。
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